6 / 9
その塔にいたのは……
しおりを挟む塔の内部に入る。勿論、塔に閉じ込められている人たちと同じ場所ではない。
塔の内部の内部、外壁と内壁の間の、人が1人入れるかどうかという狭い空間だ。
狭い空間の左右を見ると右側にも左側にも階段がある。
右か左、どちらを選ぶのかは『右から3回静かにグルグル回ってオオカミいないか確認』の歌詞から警戒しながら右に3回分だけ回りながら上へと登る。
半周、1回目、1周半、2回目、と回るたびに煉瓦のような扉がある。
3回目まで登って、それまでと同じような扉の前で僕は止まった。
それ以上にも階段は続いているが、塔の1番上の部屋に行くための扉は3回分だけ回ったところにある。
それ以上行っても屋根裏部屋に繋がっているだけだ。
扉を開ける方法は簡単だ。
『オオカミいないか確認。扉を3回ノックして笑顔でお見舞い参りましょ?最後に星月に祈ったら、ゆっくりお家に帰ってらっしゃい。お土産話し待ってるからね』の歌通りにノックを3回すれば良い。
扉の前でそっと耳を澄ます。目的の人以外の人間がいないか確かめるためにも耳を澄ますことは大切だった。
「お休みなさいませ」
「お休みなさい。あなたは関係ないのに私のせいでこんな場所に送られて。ごめんなさいね」
「いえ。わたくしこそ謝罪しなければなりません。わたくし共は明日、屋敷に戻ります。お嬢様はここで誰の世話なく暮らすことになります」
声しか聞こえないからどういう状況かいまいち分からないが、2人の女性の声が聞こえる。
そのうちの1人の涙ぐんだ声が聞こえる。
「大丈夫よ。きっと竜神様が守ってくださるわ」
「守ってくださるならどうして、お嬢様をこのような目に!」
「竜神様だって全ての願いを叶えることは無理よ。きっと他の方を助けていたのよ」
「それでも、兵士達がお嬢様に無体をはたらくかと思うと、わたくしは悲しいです」
「自分の身くらい守れるわ。大丈夫よ。あなたこそ元気でね。皆に宜しく伝えてね」
「申し訳ございません、お嬢様」
パタンと扉が閉まる音と同時に僕は誰にも聞こえないように扉を3回ノックした。
そっと扉が横にスライドして出来た細い隙間から室内へと音を立てずに滑り込む。
「はあ、無実の罪を着せられるなんてね」
「可哀想だね、君は」
僕が幽閉塔の最上階の部屋で見たのは、窓から外を、空に広がる夜を見ていた美しい女性の後ろ姿だった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる