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第十一話

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「お久しぶりだな、第二王子殿下?この前、来ていないから知らないだろうが、俺は抜けたぜ?」
「……何故?」

 表情がお堅いし、お変わりないことで。

 俺は貴族の浮かべる笑みは苦手だ。何を考えているのか、読み取るのが難しいから。

「お前達に俺が力を貸す条件が崩れたからだよ」

 俺が王位簒奪を目論む輩と組んでいたのはミアを助け出したいため。

 ミアがこちらに帰ってきた今となっては、別に参加する意味がないと思っている。

 俺が達成したい目標が達成された。ならば、もう付き合う必要などない。

「……巫女殿はこの村に帰っているのか」
「ああ。だからと言ってお前に会わす気も、お前らに担ぎ上げられるような真似はさせない」

 特に、この男とは絶対に会わさない。

 ミアを傷つけたあの男と同じ血が流れているというだけでも、許し難い存在だ。

 それ以上に、あの男と同じ顔をしているのだ。

 俺はミアに辛い記憶を思い出させたいわけじゃない。
 辛い記憶を一緒に背負うわけじゃない。
 俺はミアの記憶も過去も抱え込んでいけるほどの男じゃない。

 ミアの記憶はミアのもの。

 俺はミアの全てが欲しいと思っている。だが、ミアが許可しない限り、俺はミアの全てを背負うつもりはない。

 それが、約束を守れなかった男ができる最大限の誠意だろう。

「いや、それでいい。彼女からこの村に来た時の様子は聞いている。巫女殿も俺に会いたくはないだろう」
「……意外だな、お前がそう言うなんて」

 この男は目的のためならどんな手段でも使うと思っていた。

 その為なら、仲間でもすっぱりと斬り捨てるイメージがあったのだ。

「彼女から願われたからな。彼女の願いは叶えたい」
「お深いことで」

 こいつは元婚約者であるリズを未だに愛しているのだろう。

「ヒューズ、お前に言われたくはない」

 まあ、俺に言われてしまいたくはないだろう。俺だってミアのことを諦めきれず、ずっと想い、行動してきたのだから。

「取り敢えず、今回のことでアイツらは斬り捨てる。彼女を傷つけ、巫女殿をも傷つけようとした。それは許せないからな」
「了解」

 となると、こいつと2人でアイツらを斬り捨てに行くことになり、ミアがいる家を空けてしまうことになってしまう。

「ちょっと2人に説明してくる」
「分かった」

 俺は彼を外に放り出したまま、部屋の中に入った。

「おか、えり」
「お帰りなさいませ」
「ああ。済まないが、少し出かけてくる。他の面々にも伝えてくれ」
「かしこまりました」

 リズが俺に深々と頭を下げた。
 そして、少し後ろに下がる。

 俺はそれを気にせずにミアの頬に手を当てて、ミアの眼をきちんと見えるようにしゃがんだ。

「子供達を探しに出かけてくる。リズ達の言うことを聞いて留守番をしていてくれ」
「……や」
「ミア?」

 ミアが何を言ったのか聞き取れなくて、聞き返すとミアは盛大に首を横に振りながら、大きな声をあげた。

「いやっ」
「ミア」

 しかし、ミアがいくら「いやだ」と言っても俺はミアを連れて行こうという気はない。

 何よりも危険なのはミアだから。

「いやっ!ヒュウ、帰ってこない!」
「絶対に帰る。生きて帰るから」

 ミアの頭に手を置く。

「約束する。絶対に生きて帰る」
「ほんと?」
「ああ。俺はミアに2度と、嘘を絶対につかない」

 ミアにつく嘘なんて1度だけで良い。

 あんな苦しい想いは2度と味合わなくて良い。
 もう絶対、2度と、ミアに嘘はつかない。

「……わかった。ぜったい、帰ってきて」
「ああ。行ってきます」

 俺はミアと小指を絡ませた。

 ずっと遠い国のおまじないで、約束をする時にする行為らしい。

 これを話した時、ミアはとても嬉しそうな顔をしていた。

 拠り所のある行為があったことが、何よりも嬉しかったのだろう。

 だから、俺はこの行為を拠り所のあるままにしておくことが大切だと思う。

「信じてる」
「ああ、待っていてくれ」

 リズにミアを預け、俺はアイツが待っている外へと出た。

「待たせたな」
「別に良い。行くぞ」
「ああ」

 俺らは森に目を向けて走り出した。

 互いの信念を持って。
 
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