わすれる。

杉本けんいちろう

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わすれる。

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『私ね、いっちゃんが好き。』

『僕も、りんちゃんが好きだよ。』

『ホントに!?』

『うん!僕、ウソなんかつかないよ!』

『うれしい!大きくなっても、ずーっと一緒にいようね!』

『うん!約束だよ!』

ーーー。

『突然ですが、みんなに悲しいお知らせがあります。りんちゃんがお父さんのお仕事の関係で遠い所へ、お引っ越しをすることになりました。』

『ええー!』

『りんちゃん!前へ、おいで!みんなにご挨拶しましょう。』

『私ね、みんなのこと忘れないよ。みんなのことが大好きだから。だから、みんなも私のこと忘れないでね。』

『ぜーったい!忘れないよ!』

『いっちゃん…。』

『私も!ぜーったい!ぜーったい!忘れない!』

『みんな…。ありがとう!』

ーーー。

『私ね、いっちゃんが好き。』

『僕も、みゆちゃんが好きだよ。』

『ホントに!?』

『うん!僕、ウソなんかつかないよ!』

『うれしい!大きくなっても、ずーっと一緒にいようね!』

『うん!約束だよ!』

ーーー。

『私ね、こうちゃんが好き。』

『僕も、りんちゃんが好きだよ。』

『ホントに!?』

『うん!僕、ウソなんかつかないよ!』

『うれしい!大きくなっても、ずーっと一緒にいようね!』

『うん!約束だよ!』

ーーー。

『いよいよ明日は卒園式ですね。同じ小学校に通うお友達、遠い所に行ってしまうお友達、みんな、これから色んな道に進みます。でも、ここで出会ったお友達は、大きくなってもずーっとお友達です。だから、悲しいことがあった時や、嬉しいことがあった時は、みんなで泣きましょう。みんなで喜びましょう。それが出来ない時は、思い出しましょう。ここでの思い出も、お友達もみんなの心の中にいつでもいます。みんなで笑いましょう。いいですかー?』

『はーい!』

『いずみ先生のことも、ぜーったい忘れないよ!』

『え?みゆちゃん…。』

『いずみ先生も、これからもずーっと、ずーっとお友達でしょ?だから、忘れないよ!』

『そうだよ!ぜーったい忘れないよ!』

『みんな…。ありがとう!』

ーーー。

『ついに、りんも結婚か。まさか、ふた回り以上も離れたオジ様と一緒になるとわね。びっくりだわ。』

『ねぇ!自分でもびっくりだもん。子供の頃は、こんな将来、思いもしなかったな。』

『そりゃそうでしょ!誰も未来がどうなるかなんて分からないんだから。でも、そんな事どうでも良いじゃん!社長夫人だよ?最高の玉の輿じゃん!』

『ねぇ!自分でも笑っちゃう!ホント、ついてるわー!』

『ってか、完全にこの結婚に愛なんて無いのね。』

『な、何をおっしゃいます!愛しかないから!あははは!』

『わぁ…。一体、いつからこんな子になってしまったのかしら。』

『あははは!』

『…ねぇ、りんて初恋いつ?まだ汚れを知らない純な初恋!』

『えー、初恋…。うーんと、中学校の時の…、えーっとー…。初恋…?』

ーーー。

『いっちゃん、ホントに私なんかで良いの?』

『何言ってんだよ!かなこ!当たり前だろ?』

『だって私、何の取り柄も無いし、顔だって可愛くないし、センスも悪いつまんない女だよ?一体、こんな私のどこを好きに…。』

『バカ!そういうとこだよ!自信も持てない、何も出来ない、そうやって自分をすぐ蔑むヤツ!俺はそういうどうしようもない子を守ってやりたいんだ。』

『いっちゃん…。』

『だって、かなこは俺が側にいなきゃダメだろ?』

『うん!』

『もう安心しなよ!俺がいつまでもお前を守ってやるから!幸せにしてやるから!ウソじゃない!約束な!』

『約束…。』

『もう!なに不安そうな顔してんだよ!俺が約束を破るような男に見える?』

ーーー。

『いずみお婆ちゃん。』

『ん?なんだい?あっちゃん。』

『お婆ちゃんて昔、幼稚園の先生だったってホント?』

『…そうよ。』

『そうなんだぁ。いずみお婆ちゃんて、優しい先生だったんだろうなぁ。』

『あら。何でそう思うの?』

『だって、お婆ちゃん優しいもん。私、大好き。』

『まぁ、嬉しい!ありがとうね!あっちゃんだったら、きっと良い先生になれるわ。』

『ホント?やったー!』

『…いずみさん!こんな所にいた!何度言ったら分かるんですか!勝手に一人でどっか行ったらダメだって!』

『ごめんなさいね。あの子が可愛くて、つい…。』

『もう!みんな心配してますよ!すぐ病室帰りましょうね!』

『ごめんなさいね。もう、お昼ご飯の時間ね。』

『もう!お昼なら、さっき食べたじゃないですか!』

『あら、そうでしたかね…。』

ーーー。

『もう、あっちゃん!知らない人についてっちゃダメって何度も言ってるでしょ!』

『ごめんなさい、みゆおばちゃん…。でも、あのお婆ちゃん、すごく優しくていい人だったよ。』

『でもダメなの!知らない人は知らない人なの!』

ーーーー。

『私ね、ようちゃんが好き。』

『僕も、あっちゃんが好きだよ。』

『ホントに!?』

『うん!僕、ウソなんかつかないよ!』

『うれしい!大きくなっても、ずーっと一緒にいようね!』

『うん!約束だよ!』

                                 ー完ー
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みんなの感想(1件)

小説たろう
2016.10.22 小説たろう

よくできているなあと感心しました。あなたのファンになりました。応援しています。

解除

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