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ムスメサプライズ
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『ねぇ、お母さん。聞いて、奈緒ね今日、幼稚園でオネショしちゃったの…。』
『え!またぁ!?最近は、しばらく治まってたから安心してたのに…。しょうがないわね。』
『ごめんなさーい。奈緒だって、したくてしたんじゃないもん。奈緒だって、奈緒だって…。う、うわーん!』
『もう…。何も泣くことないでしょう。』
『だって、だって…。うわーん!』
娘の泣く姿は、決して嫌なものだけではない。泣きながら抱き着いてくる子供は、たまらなく愛らしく、その綻びが母である輪郭に触れるのだ。母性を擽るとは、まさにこのことだろう…。
しかし翌日―。
実は、奈緒が泣いた訳が他にあった事を、幼稚園の担任の先生から聞くことになる。
『…ええ、実は昨日、奈緒ちゃんがオネショをした後に同じ組の男の子から、からかわれたみたいで…。しばらく、おトイレに閉じ篭って出て来なかったんですよ。どうやら、ずっと泣いていたみたいですね。』
『そうだったんですか…。すいません、ご迷惑をおかけしまして。昨日、家では、ただオネショをした事しか言わなかったものですから…。その割には、やけに長い間、泣いていたので気には、なっていたんですが。』
『今日も、その男の子にまた、オネショの事をからかわれていたみたいだったんで一応、やめるようには言ったんですけどね…。』
『そうですか…。奈緒。気持ちは分かるけど元気出しなさい。』
私は、送迎のバスを降りてから、私の足に抱き着いたまま離れない奈緒に呼びかけた。
『奈緒ちゃん。栄太郎君も、もう、しないって先生に約束してくれたから明日また元気に幼稚園行こうね!』
『…ホント?』
『うん!ホントよ!じゃあ、奈緒ちゃん、また明日ね!バイバイ!』
『うん!先生、バイバーイ!』
曇った表情から一変、いつもの明るさを取り戻した奈緒は、先生に笑顔で手を振っていた。
『良かったわね、奈緒!』
『うん!…でも、男の子って何でそうやって女の子をからかったりするの?』
『そうね…。あ!もしかしたら、その栄太郎君て子、奈緒の事が好きなのかもよ!』
『ええー!』
『男の子って、よくそういう事するの!好きな女の子に気にしてもらう為に意地悪したり、からかったりホント、まさに子供みたいに…。』
『そうなの!?へぇ、栄太郎君がかぁ…!明日、聞いてみよっかなぁ!。』
『奈緒は、栄太郎君は、好きじゃないの?』
『奈緒は、全然思ってもみなかったなぁ…。そう言われると、前からやけに奈緒につっかかってくるなぁとは思ってた!』
『…あんた、一体どこで、そんな言葉覚えてくるのよ。』
『ねぇ、お母さん。お父さんも、お母さんに意地悪とかしてきたの?』
『え…?あー、よくよく考えてみるとあったかもね!』
『へぇー!あの野球バカのお父さんがね!後で聞いてみよ!』
『だから、あんたは一体どこでそんな言葉を…。』
時々、こうやって我が子ながら、実に驚かされる。でも、またそれが面白くもあり母としての子育ての醍醐味なのかもしれない。
笑った顔、泣いた顔、怒った顔、眠った顔…。奈緒の全ての表情が、私の全てを潤し、母としての凜を教えてくれる。毎日、毎日、変わる我が子に、これ以上の希望を見出だす事はないだろう…。
『ねぇ、お母さん!聞いて!今日、幼稚園でね栄太郎君が、おもらししたの!』
『え!』
『でね、周りの友達が栄太郎君をからかってバカにしてたから奈緒がね、かばってあげたんだよ!』
『あら…。良い子ねー奈緒は!』
『でしょ?…でもね、栄太郎君は、奈緒がかばったら泣いちゃったの…。ねぇ、何で?』
『まぁ…。それはきっと、栄太郎君のプライドに触れたのね。』
『プライドって…?』
『きっと、奈緒に守られた事が男として許せなかったのよ!栄太郎君は…。変に強がったりね。単純な事なんだけどね、男の子って、そういうものなのよ。それがプライドよ。』
『へぇー、男の子って難しいのね…。女って大変ねぇ。そういうの考えてあげなきゃいけないんだから!』
『あんたって子は…。』
一体どんな大人に、なっていくのか…。楽しみと不安が交錯する最大の現物だと思う。言葉は悪いがこの幼少時代に、目に映る記憶をいつまでも華美して欲しいとここに願う…。
『ねぇ、お母さん!聞いて!今日、幼稚園で栄太郎君に昨日の事で〝ありがとう〟って言われたよ!』
『あら!良かったじゃない!』
『それでね、この前は、からかったりしてごめんね…。って!もう、そんなことしないからって言ってくれたの!』
『あらぁ!栄太郎君も、一つ大人になったわね!』
『ホント!男の子ってガキばっかで困っちゃうわ!』
『奈緒…。あんたは、もう…。』
変わっていく面白さ、成長していく面白さ。全てをこの目に焼き付けて、我が子の行く末を見守ろう。過つ時こそ優しさをもって、兼備したそれは開花するきっかけを待っている。私達の役目は、寛大な心と優しい笑顔…。
それを忘れない事…。
『ねぇ、お母さん!聞いて!今日、栄太郎君とチューしちゃった!』
『ええー!』
驚かされても、それを忘れない事…。
ー完ー
『え!またぁ!?最近は、しばらく治まってたから安心してたのに…。しょうがないわね。』
『ごめんなさーい。奈緒だって、したくてしたんじゃないもん。奈緒だって、奈緒だって…。う、うわーん!』
『もう…。何も泣くことないでしょう。』
『だって、だって…。うわーん!』
娘の泣く姿は、決して嫌なものだけではない。泣きながら抱き着いてくる子供は、たまらなく愛らしく、その綻びが母である輪郭に触れるのだ。母性を擽るとは、まさにこのことだろう…。
しかし翌日―。
実は、奈緒が泣いた訳が他にあった事を、幼稚園の担任の先生から聞くことになる。
『…ええ、実は昨日、奈緒ちゃんがオネショをした後に同じ組の男の子から、からかわれたみたいで…。しばらく、おトイレに閉じ篭って出て来なかったんですよ。どうやら、ずっと泣いていたみたいですね。』
『そうだったんですか…。すいません、ご迷惑をおかけしまして。昨日、家では、ただオネショをした事しか言わなかったものですから…。その割には、やけに長い間、泣いていたので気には、なっていたんですが。』
『今日も、その男の子にまた、オネショの事をからかわれていたみたいだったんで一応、やめるようには言ったんですけどね…。』
『そうですか…。奈緒。気持ちは分かるけど元気出しなさい。』
私は、送迎のバスを降りてから、私の足に抱き着いたまま離れない奈緒に呼びかけた。
『奈緒ちゃん。栄太郎君も、もう、しないって先生に約束してくれたから明日また元気に幼稚園行こうね!』
『…ホント?』
『うん!ホントよ!じゃあ、奈緒ちゃん、また明日ね!バイバイ!』
『うん!先生、バイバーイ!』
曇った表情から一変、いつもの明るさを取り戻した奈緒は、先生に笑顔で手を振っていた。
『良かったわね、奈緒!』
『うん!…でも、男の子って何でそうやって女の子をからかったりするの?』
『そうね…。あ!もしかしたら、その栄太郎君て子、奈緒の事が好きなのかもよ!』
『ええー!』
『男の子って、よくそういう事するの!好きな女の子に気にしてもらう為に意地悪したり、からかったりホント、まさに子供みたいに…。』
『そうなの!?へぇ、栄太郎君がかぁ…!明日、聞いてみよっかなぁ!。』
『奈緒は、栄太郎君は、好きじゃないの?』
『奈緒は、全然思ってもみなかったなぁ…。そう言われると、前からやけに奈緒につっかかってくるなぁとは思ってた!』
『…あんた、一体どこで、そんな言葉覚えてくるのよ。』
『ねぇ、お母さん。お父さんも、お母さんに意地悪とかしてきたの?』
『え…?あー、よくよく考えてみるとあったかもね!』
『へぇー!あの野球バカのお父さんがね!後で聞いてみよ!』
『だから、あんたは一体どこでそんな言葉を…。』
時々、こうやって我が子ながら、実に驚かされる。でも、またそれが面白くもあり母としての子育ての醍醐味なのかもしれない。
笑った顔、泣いた顔、怒った顔、眠った顔…。奈緒の全ての表情が、私の全てを潤し、母としての凜を教えてくれる。毎日、毎日、変わる我が子に、これ以上の希望を見出だす事はないだろう…。
『ねぇ、お母さん!聞いて!今日、幼稚園でね栄太郎君が、おもらししたの!』
『え!』
『でね、周りの友達が栄太郎君をからかってバカにしてたから奈緒がね、かばってあげたんだよ!』
『あら…。良い子ねー奈緒は!』
『でしょ?…でもね、栄太郎君は、奈緒がかばったら泣いちゃったの…。ねぇ、何で?』
『まぁ…。それはきっと、栄太郎君のプライドに触れたのね。』
『プライドって…?』
『きっと、奈緒に守られた事が男として許せなかったのよ!栄太郎君は…。変に強がったりね。単純な事なんだけどね、男の子って、そういうものなのよ。それがプライドよ。』
『へぇー、男の子って難しいのね…。女って大変ねぇ。そういうの考えてあげなきゃいけないんだから!』
『あんたって子は…。』
一体どんな大人に、なっていくのか…。楽しみと不安が交錯する最大の現物だと思う。言葉は悪いがこの幼少時代に、目に映る記憶をいつまでも華美して欲しいとここに願う…。
『ねぇ、お母さん!聞いて!今日、幼稚園で栄太郎君に昨日の事で〝ありがとう〟って言われたよ!』
『あら!良かったじゃない!』
『それでね、この前は、からかったりしてごめんね…。って!もう、そんなことしないからって言ってくれたの!』
『あらぁ!栄太郎君も、一つ大人になったわね!』
『ホント!男の子ってガキばっかで困っちゃうわ!』
『奈緒…。あんたは、もう…。』
変わっていく面白さ、成長していく面白さ。全てをこの目に焼き付けて、我が子の行く末を見守ろう。過つ時こそ優しさをもって、兼備したそれは開花するきっかけを待っている。私達の役目は、寛大な心と優しい笑顔…。
それを忘れない事…。
『ねぇ、お母さん!聞いて!今日、栄太郎君とチューしちゃった!』
『ええー!』
驚かされても、それを忘れない事…。
ー完ー
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