どろぼうさん

杉本けんいちろう

文字の大きさ
上 下
1 / 1

どろぼうさん

しおりを挟む
どろぼうさん、どろぼうさん。今日も、また、私のものを盗って行きましたね。

どうして?どうして、そんな事するの?私の事が嫌いだから?私を困らせたいの?

今日は、私の目を盗って行きました。もうこれで、私は、何も見えません。どうして?どうして、そんな事するの?

今日は、私の手を盗って行きました。もうこれで、私は、何も触れません。どうして?どうして、そんな事するの?

今日は、私の体温を盗って行きました。もうこれで、私は、凍えてしまいます。どうして?どうして、そんな事するの?

ねぇ、どろぼうさん。私は、あなたに盗られてばかりで、その内、私は、失くなってしまいます。それでも、まだ、盗って行くの?そんな事して、一体何になるの?

今日は、私の頭の中まで盗って行きました。もう、これで、私は、何も考えられません。どうして?どうして、そんな事するの?

今日は、ついに私の心まで盗って行きました。もう、これで、私は、何も想う事が出来ません。どうして?どうして、そんな事するの?

もう、私には、何も分かりません…。

『はるちゃん、どうしたの?何か元気ないね?』

『だいちゃん…。私もね、よく分からないんだけど、色んな所が失くなって行くの。だからかな…。』

『大丈夫?色んな所って、どこ?失くなって行くってどういう事?』

『もう、私には、心も頭の中も体温も手も目も無いの、みんな、盗られちゃったの。』

『盗られちゃったって、一体、誰に?』

『どろぼうさん。』

『どろぼうさん?』

『そう。どろぼうさんに、みんな盗られちゃった。だから、私は、もう…。』

『じゃあ、僕が、心を分けてあげるよ。頭の中も、体温も、手も、目も。そうすれば、また元気になるよね?僕は、いつも元気で明るい、はるちゃんが好きなんだ。』

『だいちゃん…。ありがとう。だいちゃんの心は、優しいね。頭の中は、私の事でいっぱいだ。体温は、あったかいね。手は、大きいな。目は…。目は、私の事しか見えてないね。』

『あははは。そうなんだ。実は、僕も、この前、どろぼうさんに盗られたんだ。だから、僕の目は、もう、はるちゃんしか見えないし、手は、はるちゃんとしか繋がないし、はるちゃんの体温を感じれるから嬉しいし、頭の中は、はるちゃんでいっぱいだし、心は、完全にはるちゃんに奪われちゃったよ。』

どろぼうさん、どろぼうさん。今日も、また、私のものを盗って行きましたね。

どうして?どうして、そんな事するの?私の事が嫌いだから?私を困らせたいの?

違うよね…?

『どろぼうさんは、だいちゃんだったんだね。』

『僕のどろぼうさんは、はるちゃんだったよ。』

『私も、知らないうちに、どろぼうさんだったんだ…。あはは。盗ったもの、返して欲しい?』

『うーうん。もういらない。はるちゃんは?』

『私も、いらない。だいちゃん、手つないで。』

『あったかいね。』

『あ!やっぱり、だいちゃんの目の中には、私しか映ってないね。』

『だって、頭の中にも、はるちゃんしか いないもん。』

『私たち、二人とも、どろぼうさんだったんだね。お互いの心を盗っちゃった…。』


                                  ー完ー
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

処理中です...