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第九話 取り引き
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深い深い、夢の中。再び私はいつもの夢の続きを見ていた。
「君は本当に賢い子だ。これで約束は果たされる。望み通り十年後に、君のお兄さんをこの地に返そう。
……なぜ十年後かって? この約束は、今果たされてはいけないんだ。だから、十年後。そう、その時にまた
君に会いにいく」
そう言って、白い髪の大人の人は私に笑いかけた。
***
アラーム音に目が覚める。私は起きていつものように身支度を済ませた。
蒼馬の様子はいつも通りだった。いつもと変わらない優しい笑みを私に向ける。昨日の蒼馬はあんなに怖く感じたのに。この違和感は何なのだろうか。
今日でも遅くない。蒼馬のことを香山くんに相談しなければいけない。私は蒼馬を疑う気持ちを隠しながら自然な振る舞いを装って彼と話した。
一先ず学校に着き、私は初めに由香の席に向かう。彼女に怪我はなかったが、女狐に何をされたか分からない。教室に入ると、由香の姿が見えた。
「由香、おはよう」
「あ、おはよう優等生!」
彼女もいつもと変わらない様子だった。その様子にほっとする。彼女に何もなくて本当に良かった。
「ん、なになに? 考え込んで」
「ううん、何でもない。由香、どこか痛いところとかない?」
「? 別にないよ?」
由香はそう答えた後、突然私の手を両手で握る。
「そういえば、柚月が私のこと見つけてくれたんでしょ? 私何で屋上なんかにいたのか何も覚えてないんだけど、とにかくありがとう!!」
そう言って強く手を握ってぶんぶん振られる。
「由香に何もなくて良かったよ」
由香には女狐に攫われた記憶がないようだった。記憶がないというのは、案外良かったかもしれない。恐ろしい記憶が残っていたら心の傷になってしまうかもしれないから。
その後、授業が始まり、あっという間に放課後が訪れる。今日は私も蒼馬も部活が無い。ということは、今日は蒼馬と一緒に帰る日だった。
その前に、私は香山くんと話さなければならない。昨日の蒼馬のことを。
そう思い至り、香山くんの席に向かおうとした時だった。
「柚月、帰ろう」
蒼馬が私の机の前に来る。しかし私は、今日もこのまま帰るわけにはいかない。昨日話せなかったことをちゃんと話すべきだ。
私は蒼馬にはっきりと伝えることにした。
「昨日香山くんと話せなかったから、今日は話をしてから帰りたいんだけど、いいかな?」
「そうか、別に構わないが……」
「それか、先に帰ってても大丈夫だよ」
「……いや、待ってるよ」
少し考えてからそう告げる蒼馬に、ある種の疑念を抱く。彼の様子がいつもとどこか違う気がする。まるで昨日みたいに。
「最近、景と仲が良いんだな」
ふと、蒼馬が聞こえるか聞こえないかのような小さな声でそう呟く。
「……え?」
「いや、何でもない。図書室で待ってるな」
そう言って蒼馬は図書室の方へ歩いていった。彼が見えなくなったのを確認すると、私は香山くんのところに向かう。
「香山くん」
「宮坂さん。どうしたの?」
「話があるの……できれば誰にも聞かれない場所で」
「……分かった」
香山くんは私の話したいことの趣旨を察してくれたみたいだった。
「それじゃあ、茶室に行こう。そこなら誰にも聞かれないはず」
「うん。私、鍵取ってくる!」
蒼馬を長く待たせたら怪しまれるかもしれない。私は急いで茶室の鍵を取りに行った。
鍵を取って茶室の前に着くと、香山くんとともにつづみの姿が見える。
「あ、宮坂先輩こんにちはー」
「つづみ?」
「宮坂さん。話なんだけど、つづみも一緒でいいかな?」
「うん、もちろん!」
つづみもいてくれるなんて心強い。
私達は茶室に入ると、戸をしっかりと閉める。これで誰にも聞かれないはずだ。
「それで、話って?」
「それが、蒼馬のことなの……」
私は昨日見た出来事を包み隠さず二人に話した。蒼馬が見えないはずの女狐と会話をしていたこと、女狐に酷い言葉を浴びせていたこと、私について言及していたこと、そして……女狐が彼を主人と呼んでいたこと。
「なるほどね……」
「先輩! 何がなるほどなんですか? 私には全く分からないんですが」
私の話に混乱しているつづみに対して、香山くんは何だか納得している様子だった。
「どうしたら、いいだろう……」
私は蒼馬を疑うべきなのだろうか。でも、本当は疑いたくなんてない。彼は大切な幼馴染みなのだから。
「黒幕が分かったかも」
「え!?」
「本当ですか?」
つづみと二人で驚きの声を上げる。すると、確証はないけど、と彼は付け足した。黒幕が分かったということは、やはり蒼馬が黒幕なのだろうか?
「でも、僕の推測が合っているなら、今は何もすべきじゃない」
「今はって……?」
「蒼馬くんが危険だからだ」
「蒼馬が?」
香山くんが言うには、蒼馬は黒幕ではなく、黒幕に操られている恐れがあるらしい。もし本当にそうならば、蒼馬はその黒幕に利用されていることになる。早く助けなければ……。
「でも、焦ってはいけない。それでは敵の思う壺だ」
「そんな……」
「いいかい、宮坂さん。今は彼が操られていることは知らないフリをするんだ。彼とはいつも通りに接してほしい。だけど、もし何か不可解なことを言われたら、すぐに僕らに相談して」
「うん、分かった……」
私は昨日、あの場面を目撃した後も蒼馬とはいつも通りに会話が出来ていたはず。彼が操られているという事実も、知らないフリをすることはきっと出来る。彼を黒幕から救うためにも。
話が終わり、私達は茶室を出た。二人とは茶室の前で別れた。鍵は二人が職員室に返してくれるらしい。
私はすぐに図書室に向かうと、図書室内で蒼馬を見つける。彼は課題をやっていたようだ。
「蒼馬! ごめん待たせて」
「ああ、柚月。話は終わったのか?」
「うん。帰ろう」
私達は一緒に図書室を出ると、昇降口へ向かった。そして、いつも通りの帰り道を歩く。
口調も、仕草も、いつもと同じ蒼馬にしか見えない。今日は操られていないのかもしれない。そう思った時だった。
「柚月……俺もお前に話したいことがあるんだ。今日、良かったら家に少し寄ってもいいか?」
突然家に寄りたいと言われた。蒼馬が家に来ることは別に珍しくない。普段なら断る理由もないのだが、先ほどの香山くんの忠告を思い出す。
少し怖い気もするが、ここで断るのは不自然だと思い、普段通りの振る舞いで承諾した。
「うん、いいよ」
「ありがとう」
そう言って蒼馬はにこっと笑う。
もし何か不思議なことや恐ろしいことを言われたら、すぐに香山くんとつづみに相談しよう。
不安はありながらも、私は家に着くと蒼馬を招き入れた。
「このお茶、お母さんが買ってきたんだけど、おいしいからぜひ飲んでみて」
「ありがとう柚月」
そう言ってお茶を飲む蒼馬はいつも通りの彼に見えた。家だからというのもあって安心した気持ちでいると、突然彼が話を切り出した。
「それで、話なんだけどな」
「うん。どうしたの?」
「柚月のお兄さんの死因についてなんだが」
「……」
突然、何だというのだ。急に私の兄の話? 今話している蒼馬は本当に私の知る蒼馬なのだろうか? 何も言えずに彼の言葉の続きを待った。
「やっぱりあれは、お前のせいだ」
「え」
ひゅっと喉が鳴る。嘘だ。蒼馬はそんなこと言わない。蒼馬に限ってそんなこと……。
「みんな遠慮して言わないが、あの時お前がすぐに気づけば、お兄さん……真さんは死なずに済んだ」
「やめて……」
今私と話しているこの人は、誰だ。私はゆっくり後ずさる。蒼馬のフリをした誰かも私にゆっくり近づいてくる。
「お前のためを思って、本当のことを言っているんだよ、柚月。お前が……
真さんを殺したんだ」
「やめて……!!」
その言葉の数々が私に突き刺さる。私は耐え切れなくなって、叫びを上げた。
ダメだ。正体を知っていることを、彼に知られてはいけないのに。私は彼の言葉に混乱し、つい言ってはいけないことを口走ってしまった。
「あなた……誰なの?」
私の言葉に、蒼馬のフリをした誰かは首を傾げる。
「何言ってるんだ柚月。俺は村雲蒼馬だよ」
何でもなさそうにそう彼は言う。
「嘘……私は知ってるんだから。あなたが蒼馬じゃないってことぐらい……!?」
すると、彼は突然私を抱きすくめる。彼を見上げると同時に、唇に何かが触れた。
私は彼にキスされたのだと悟ると、思いっきり彼を突き飛ばした。
「何するの!」
「痛いな。……決まってるじゃないか。これが"村雲蒼馬"の気持ちだよ」
「意味が分からない。出て行ってよ!」
私が憤慨してそう告げると、彼はふふっと笑ってこう告げた。
「なら、取り引きしないか?」
「あなたなんかと取り引きなんてするわけないでしょう」
「大切な人を返してほしくないの?」
「……」
蒼馬のことだ。この人は、蒼馬と引き換えに、私を脅している。
「……取り引きの要件は?」
「今週の週末、午後三時にここに来てほしい」
そう言って蒼馬のスマホから示された場所は、私が住んでいる県内の名所だった。この人は一体何を企んでいるのだろう。
「分かった。その代わり、約束を守ったら蒼馬を返して」
「いいよ。でも、間違ってもお友達を連れてきてはいけないよ。君一人で来るんだ。知らせることも許さない。約束を一つでも違えたら……分かるよね?」
蒼馬の顔で、そいつは笑う。
「分かった……」
「契約成立だ。またね、柚月」
そう言ってそいつは私の家を出て行った。
「君は本当に賢い子だ。これで約束は果たされる。望み通り十年後に、君のお兄さんをこの地に返そう。
……なぜ十年後かって? この約束は、今果たされてはいけないんだ。だから、十年後。そう、その時にまた
君に会いにいく」
そう言って、白い髪の大人の人は私に笑いかけた。
***
アラーム音に目が覚める。私は起きていつものように身支度を済ませた。
蒼馬の様子はいつも通りだった。いつもと変わらない優しい笑みを私に向ける。昨日の蒼馬はあんなに怖く感じたのに。この違和感は何なのだろうか。
今日でも遅くない。蒼馬のことを香山くんに相談しなければいけない。私は蒼馬を疑う気持ちを隠しながら自然な振る舞いを装って彼と話した。
一先ず学校に着き、私は初めに由香の席に向かう。彼女に怪我はなかったが、女狐に何をされたか分からない。教室に入ると、由香の姿が見えた。
「由香、おはよう」
「あ、おはよう優等生!」
彼女もいつもと変わらない様子だった。その様子にほっとする。彼女に何もなくて本当に良かった。
「ん、なになに? 考え込んで」
「ううん、何でもない。由香、どこか痛いところとかない?」
「? 別にないよ?」
由香はそう答えた後、突然私の手を両手で握る。
「そういえば、柚月が私のこと見つけてくれたんでしょ? 私何で屋上なんかにいたのか何も覚えてないんだけど、とにかくありがとう!!」
そう言って強く手を握ってぶんぶん振られる。
「由香に何もなくて良かったよ」
由香には女狐に攫われた記憶がないようだった。記憶がないというのは、案外良かったかもしれない。恐ろしい記憶が残っていたら心の傷になってしまうかもしれないから。
その後、授業が始まり、あっという間に放課後が訪れる。今日は私も蒼馬も部活が無い。ということは、今日は蒼馬と一緒に帰る日だった。
その前に、私は香山くんと話さなければならない。昨日の蒼馬のことを。
そう思い至り、香山くんの席に向かおうとした時だった。
「柚月、帰ろう」
蒼馬が私の机の前に来る。しかし私は、今日もこのまま帰るわけにはいかない。昨日話せなかったことをちゃんと話すべきだ。
私は蒼馬にはっきりと伝えることにした。
「昨日香山くんと話せなかったから、今日は話をしてから帰りたいんだけど、いいかな?」
「そうか、別に構わないが……」
「それか、先に帰ってても大丈夫だよ」
「……いや、待ってるよ」
少し考えてからそう告げる蒼馬に、ある種の疑念を抱く。彼の様子がいつもとどこか違う気がする。まるで昨日みたいに。
「最近、景と仲が良いんだな」
ふと、蒼馬が聞こえるか聞こえないかのような小さな声でそう呟く。
「……え?」
「いや、何でもない。図書室で待ってるな」
そう言って蒼馬は図書室の方へ歩いていった。彼が見えなくなったのを確認すると、私は香山くんのところに向かう。
「香山くん」
「宮坂さん。どうしたの?」
「話があるの……できれば誰にも聞かれない場所で」
「……分かった」
香山くんは私の話したいことの趣旨を察してくれたみたいだった。
「それじゃあ、茶室に行こう。そこなら誰にも聞かれないはず」
「うん。私、鍵取ってくる!」
蒼馬を長く待たせたら怪しまれるかもしれない。私は急いで茶室の鍵を取りに行った。
鍵を取って茶室の前に着くと、香山くんとともにつづみの姿が見える。
「あ、宮坂先輩こんにちはー」
「つづみ?」
「宮坂さん。話なんだけど、つづみも一緒でいいかな?」
「うん、もちろん!」
つづみもいてくれるなんて心強い。
私達は茶室に入ると、戸をしっかりと閉める。これで誰にも聞かれないはずだ。
「それで、話って?」
「それが、蒼馬のことなの……」
私は昨日見た出来事を包み隠さず二人に話した。蒼馬が見えないはずの女狐と会話をしていたこと、女狐に酷い言葉を浴びせていたこと、私について言及していたこと、そして……女狐が彼を主人と呼んでいたこと。
「なるほどね……」
「先輩! 何がなるほどなんですか? 私には全く分からないんですが」
私の話に混乱しているつづみに対して、香山くんは何だか納得している様子だった。
「どうしたら、いいだろう……」
私は蒼馬を疑うべきなのだろうか。でも、本当は疑いたくなんてない。彼は大切な幼馴染みなのだから。
「黒幕が分かったかも」
「え!?」
「本当ですか?」
つづみと二人で驚きの声を上げる。すると、確証はないけど、と彼は付け足した。黒幕が分かったということは、やはり蒼馬が黒幕なのだろうか?
「でも、僕の推測が合っているなら、今は何もすべきじゃない」
「今はって……?」
「蒼馬くんが危険だからだ」
「蒼馬が?」
香山くんが言うには、蒼馬は黒幕ではなく、黒幕に操られている恐れがあるらしい。もし本当にそうならば、蒼馬はその黒幕に利用されていることになる。早く助けなければ……。
「でも、焦ってはいけない。それでは敵の思う壺だ」
「そんな……」
「いいかい、宮坂さん。今は彼が操られていることは知らないフリをするんだ。彼とはいつも通りに接してほしい。だけど、もし何か不可解なことを言われたら、すぐに僕らに相談して」
「うん、分かった……」
私は昨日、あの場面を目撃した後も蒼馬とはいつも通りに会話が出来ていたはず。彼が操られているという事実も、知らないフリをすることはきっと出来る。彼を黒幕から救うためにも。
話が終わり、私達は茶室を出た。二人とは茶室の前で別れた。鍵は二人が職員室に返してくれるらしい。
私はすぐに図書室に向かうと、図書室内で蒼馬を見つける。彼は課題をやっていたようだ。
「蒼馬! ごめん待たせて」
「ああ、柚月。話は終わったのか?」
「うん。帰ろう」
私達は一緒に図書室を出ると、昇降口へ向かった。そして、いつも通りの帰り道を歩く。
口調も、仕草も、いつもと同じ蒼馬にしか見えない。今日は操られていないのかもしれない。そう思った時だった。
「柚月……俺もお前に話したいことがあるんだ。今日、良かったら家に少し寄ってもいいか?」
突然家に寄りたいと言われた。蒼馬が家に来ることは別に珍しくない。普段なら断る理由もないのだが、先ほどの香山くんの忠告を思い出す。
少し怖い気もするが、ここで断るのは不自然だと思い、普段通りの振る舞いで承諾した。
「うん、いいよ」
「ありがとう」
そう言って蒼馬はにこっと笑う。
もし何か不思議なことや恐ろしいことを言われたら、すぐに香山くんとつづみに相談しよう。
不安はありながらも、私は家に着くと蒼馬を招き入れた。
「このお茶、お母さんが買ってきたんだけど、おいしいからぜひ飲んでみて」
「ありがとう柚月」
そう言ってお茶を飲む蒼馬はいつも通りの彼に見えた。家だからというのもあって安心した気持ちでいると、突然彼が話を切り出した。
「それで、話なんだけどな」
「うん。どうしたの?」
「柚月のお兄さんの死因についてなんだが」
「……」
突然、何だというのだ。急に私の兄の話? 今話している蒼馬は本当に私の知る蒼馬なのだろうか? 何も言えずに彼の言葉の続きを待った。
「やっぱりあれは、お前のせいだ」
「え」
ひゅっと喉が鳴る。嘘だ。蒼馬はそんなこと言わない。蒼馬に限ってそんなこと……。
「みんな遠慮して言わないが、あの時お前がすぐに気づけば、お兄さん……真さんは死なずに済んだ」
「やめて……」
今私と話しているこの人は、誰だ。私はゆっくり後ずさる。蒼馬のフリをした誰かも私にゆっくり近づいてくる。
「お前のためを思って、本当のことを言っているんだよ、柚月。お前が……
真さんを殺したんだ」
「やめて……!!」
その言葉の数々が私に突き刺さる。私は耐え切れなくなって、叫びを上げた。
ダメだ。正体を知っていることを、彼に知られてはいけないのに。私は彼の言葉に混乱し、つい言ってはいけないことを口走ってしまった。
「あなた……誰なの?」
私の言葉に、蒼馬のフリをした誰かは首を傾げる。
「何言ってるんだ柚月。俺は村雲蒼馬だよ」
何でもなさそうにそう彼は言う。
「嘘……私は知ってるんだから。あなたが蒼馬じゃないってことぐらい……!?」
すると、彼は突然私を抱きすくめる。彼を見上げると同時に、唇に何かが触れた。
私は彼にキスされたのだと悟ると、思いっきり彼を突き飛ばした。
「何するの!」
「痛いな。……決まってるじゃないか。これが"村雲蒼馬"の気持ちだよ」
「意味が分からない。出て行ってよ!」
私が憤慨してそう告げると、彼はふふっと笑ってこう告げた。
「なら、取り引きしないか?」
「あなたなんかと取り引きなんてするわけないでしょう」
「大切な人を返してほしくないの?」
「……」
蒼馬のことだ。この人は、蒼馬と引き換えに、私を脅している。
「……取り引きの要件は?」
「今週の週末、午後三時にここに来てほしい」
そう言って蒼馬のスマホから示された場所は、私が住んでいる県内の名所だった。この人は一体何を企んでいるのだろう。
「分かった。その代わり、約束を守ったら蒼馬を返して」
「いいよ。でも、間違ってもお友達を連れてきてはいけないよ。君一人で来るんだ。知らせることも許さない。約束を一つでも違えたら……分かるよね?」
蒼馬の顔で、そいつは笑う。
「分かった……」
「契約成立だ。またね、柚月」
そう言ってそいつは私の家を出て行った。
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