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4.間違いを終わらせましょう
5.
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食事がすべて終わると龍は「海岸まで降りてみないか?」と実乃莉を誘った。もちろん実乃莉は、それに二つ返事で頷く。
眼下に見えていた海岸までは、邸宅の裏から降りられるようになっていた。
「海っ! こんなに近くで見るのは久しぶりです!」
ゲスト用に置いてあったビーチサンダルに履き替えていた二人は、波打ち際ギリギリまで寄っている。キャアキャアと声を上げはしゃぐ実乃莉を、龍は嬉しそうに眺めていた。
「実乃莉、転ぶなよ? 着替えはさすがにないぞ?」
「だって! 楽しいです!」
童心に返ったように波と追いかけっこをしながら、実乃莉は笑顔で答えた。
「そんなふうに笑えるんだな。実乃莉は」
実乃莉に近づくと龍はその手を取りしみじみと口にする。そんな龍を見上げ、実乃莉はまた笑顔を見せた。
「龍さんがいるからです。こんなに楽しんでいいんだって思えるのは」
「俺も。こんな、なんでもないことが楽しいし、幸せだって思えるのは実乃莉のおかげだ」
龍は穏やかな表情で実乃莉の顔を見つめている。その顔を見つめ返して、実乃莉もまた、この波が刻む心地よいリズムのように穏やかな気持ちになった。
「実乃莉。受け取ってもらいたいものがある」
そう言うと龍はポケットに手を入れる。そこから取り出されたものは、西に傾きかけた柔らかな陽の光を受けキラリと光った。
「最初から回りくどいことをせずに、ストレートに言っておけばよかったな」
実乃莉に向くと、龍はその左の手を持ち上げた。
「実乃莉。俺と結婚して欲しい。お前といるためなら俺はなんだってするから」
(なんて……幸せなんだろう……)
間違いだと思った。叶わない願いだと思った。そして、遠回りもした。
それはすべて、この瞬間のためにあったのかも知れないと、今は思う。
「龍さん。大丈夫です。父は無理に龍さんを後継者にしようなんて思っていません。私たちは、私たちが思う道を進んでいいんです。私は一生、龍さんを応援し続けますから」
実乃莉の頰に伝う涙を、龍はそっと指で掬う。それから「ありがとう」と小さく呟くと、実乃莉の薬指に指輪をゆっくりと嵌めた。
実乃莉は自分の指に美しく光る石を眺めたあと、龍と手のひらを合わせて指を絡めた。
「龍さん。私と出会ってくれて……ありがとうございます」
見上げると龍は目を細め笑みを浮かべた。
「出会ったのは、間違いなんかじゃないからな」
そう言って微笑んだ龍の顔はゆっくりと実乃莉に近づく。
そこから伝わる熱は、実乃莉の唇を優しく包んでいた。
実乃莉は、この日の夜を一生忘れることはないだろう。そう思った。
触れる唇の熱さも、そこから漏れる艶のある吐息も。優しく自分の体を滑る手に翻弄され、自分の体なのに、そうじゃないような感覚に、初めて陥ったことも。
羞恥心から声を噛み殺す実乃莉に、「我慢しないで、声、聞かせて?」と龍は甘い声で囁く。
「……恥ずかしい……です……」
薄目を開けた潤んだ瞳を龍に向けると、龍は嬉しそうに口角を上げる。
「じゃあ……。理性もドロドロに溶かしてみる?」
余裕のある笑みを浮かべる龍に、実乃莉が敵うはずもない。
言葉の通りに体も心も溶かされ、お互いの体は一つになっていく。押し開かれた体に走る痛みも、その先にある甘い痺れも、何もかもが初めてで怖い。けれどそれを、すべて龍が受け止めてくれるのだと思うだけで心が満たされていく。愛してると繰り返しながらお互いを求め合う。ただただ、幸せな夜だった。
――そして夜は明けて朝がくる。これからも繰り返し訪れるはずの、一緒に迎える新しい朝の始まりが。
眼下に見えていた海岸までは、邸宅の裏から降りられるようになっていた。
「海っ! こんなに近くで見るのは久しぶりです!」
ゲスト用に置いてあったビーチサンダルに履き替えていた二人は、波打ち際ギリギリまで寄っている。キャアキャアと声を上げはしゃぐ実乃莉を、龍は嬉しそうに眺めていた。
「実乃莉、転ぶなよ? 着替えはさすがにないぞ?」
「だって! 楽しいです!」
童心に返ったように波と追いかけっこをしながら、実乃莉は笑顔で答えた。
「そんなふうに笑えるんだな。実乃莉は」
実乃莉に近づくと龍はその手を取りしみじみと口にする。そんな龍を見上げ、実乃莉はまた笑顔を見せた。
「龍さんがいるからです。こんなに楽しんでいいんだって思えるのは」
「俺も。こんな、なんでもないことが楽しいし、幸せだって思えるのは実乃莉のおかげだ」
龍は穏やかな表情で実乃莉の顔を見つめている。その顔を見つめ返して、実乃莉もまた、この波が刻む心地よいリズムのように穏やかな気持ちになった。
「実乃莉。受け取ってもらいたいものがある」
そう言うと龍はポケットに手を入れる。そこから取り出されたものは、西に傾きかけた柔らかな陽の光を受けキラリと光った。
「最初から回りくどいことをせずに、ストレートに言っておけばよかったな」
実乃莉に向くと、龍はその左の手を持ち上げた。
「実乃莉。俺と結婚して欲しい。お前といるためなら俺はなんだってするから」
(なんて……幸せなんだろう……)
間違いだと思った。叶わない願いだと思った。そして、遠回りもした。
それはすべて、この瞬間のためにあったのかも知れないと、今は思う。
「龍さん。大丈夫です。父は無理に龍さんを後継者にしようなんて思っていません。私たちは、私たちが思う道を進んでいいんです。私は一生、龍さんを応援し続けますから」
実乃莉の頰に伝う涙を、龍はそっと指で掬う。それから「ありがとう」と小さく呟くと、実乃莉の薬指に指輪をゆっくりと嵌めた。
実乃莉は自分の指に美しく光る石を眺めたあと、龍と手のひらを合わせて指を絡めた。
「龍さん。私と出会ってくれて……ありがとうございます」
見上げると龍は目を細め笑みを浮かべた。
「出会ったのは、間違いなんかじゃないからな」
そう言って微笑んだ龍の顔はゆっくりと実乃莉に近づく。
そこから伝わる熱は、実乃莉の唇を優しく包んでいた。
実乃莉は、この日の夜を一生忘れることはないだろう。そう思った。
触れる唇の熱さも、そこから漏れる艶のある吐息も。優しく自分の体を滑る手に翻弄され、自分の体なのに、そうじゃないような感覚に、初めて陥ったことも。
羞恥心から声を噛み殺す実乃莉に、「我慢しないで、声、聞かせて?」と龍は甘い声で囁く。
「……恥ずかしい……です……」
薄目を開けた潤んだ瞳を龍に向けると、龍は嬉しそうに口角を上げる。
「じゃあ……。理性もドロドロに溶かしてみる?」
余裕のある笑みを浮かべる龍に、実乃莉が敵うはずもない。
言葉の通りに体も心も溶かされ、お互いの体は一つになっていく。押し開かれた体に走る痛みも、その先にある甘い痺れも、何もかもが初めてで怖い。けれどそれを、すべて龍が受け止めてくれるのだと思うだけで心が満たされていく。愛してると繰り返しながらお互いを求め合う。ただただ、幸せな夜だった。
――そして夜は明けて朝がくる。これからも繰り返し訪れるはずの、一緒に迎える新しい朝の始まりが。
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