上 下
72 / 100
3. 夏の兆しとめぐる想い

20

しおりを挟む
「それは……どう言うことだ?」

 依澄さんは地を這うような低い声を出す。
 確かに、その意味が理解できないし、全く状況が掴めていない。彼らがどうやって知り合ったのか、どうして依澄さんが挑発的なのか、理由がわからない。

「あの、聞いていいかな。まず、依澄さんと爽くんは、どうして顔見知りなの?」

 私が質問すると、依澄さんは我に返ったようにこちらに向いた。

「ごめん、恵舞。少し熱くなっていたようだ。彼とは、ここでの食事会の帰りに、羽瑠と歩いていたところで会ったんだ」

 そんな偶然が、と思うが、ここは爽くんの職場にわりと近い。バッタリ会うことだってあるかも知れない。でもあんな態度を取る理由にはならない。
 不思議に思っていると、彼は軽く息を吐き続けた。

「友人だと紹介されたが、羽瑠が、デートの邪魔をしては悪いと言うものだから、すぐに別れた」
「爽くん、デート中だったんだ。新しい彼女?」

 何の疑問もなく、そう口にする。
 今まで彼女の話を聞いたことはあった。わりと長続きしないほうで、年末も別れたばかりだと聞いていたのだ。

「いや、あの子は彼女じゃなくて……」
「なら君は普段から、彼女でもない女性と腕を組んで歩くのか?」
「すみません。誤解させたことは謝ります。あの子とはあの日会ったばかりで、駅まで送るために一緒に歩いてただけです。付き合う気はないってはっきり断りましたし、連絡先も知りません」

 急に殊勝な態度になったかと思うと、爽くんはきっぱりと言う。そのあと気まずそうに視線を逸らして言葉を続けた。

「俺だって、あんときは上司だって紹介されたけど、そんな風には見えなくって」

 どこか煮え切らない様子でゴニョゴニョと話す爽くんに続き、ようやく羽瑠ちゃんが口を開いた。

「依澄、ごめんなさい。あのとき私の様子がおかしかったのに、気づいてたよね。私……爽が女の子といるを目の当たりにして、あんなにショック受けるなんて、自分でも思わなかったの」
「俺も、羽瑠が男と仲良さげに歩いてるのを見て、めちゃくちゃ嫉妬して……。だから竹篠さんが、俺たちのキューピッドみたいなもんですね」

 最後にニッコリ笑う爽くんに、依澄さんは唖然としていた。
 
「じゃあ、もしかして二人は付き合い始めたの? おめでとう! なんか嬉しい」

 友人たちが収まるところに収まり、手放しで祝福すると、向かいで二人は顔を見合わせていた。

「そのことなんだけど。実は……」

 羽瑠ちゃんは、恐る恐るそう切り出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

年下王子の重すぎる溺愛

文月 澪
恋愛
十八歳で行き遅れと言われるカイザーク王国で、婚約者が現れないまま誕生日を迎えてしまうリージュ・フェリット。 しかし、父から突如言い渡された婚約相手は十三歳の王太子アイフェルト・フェイツ・カイザーク殿下で!? 何故好意を寄せられているのかも分からないリージュは恐る恐る王城へと向かうが……。 雄過ぎるショタによる溺愛ファンタジー!!

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

処理中です...