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3. 夏の兆しとめぐる想い
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「それは……どう言うことだ?」
依澄さんは地を這うような低い声を出す。
確かに、その意味が理解できないし、全く状況が掴めていない。彼らがどうやって知り合ったのか、どうして依澄さんが挑発的なのか、理由がわからない。
「あの、聞いていいかな。まず、依澄さんと爽くんは、どうして顔見知りなの?」
私が質問すると、依澄さんは我に返ったようにこちらに向いた。
「ごめん、恵舞。少し熱くなっていたようだ。彼とは、ここでの食事会の帰りに、羽瑠と歩いていたところで会ったんだ」
そんな偶然が、と思うが、ここは爽くんの職場にわりと近い。バッタリ会うことだってあるかも知れない。でもあんな態度を取る理由にはならない。
不思議に思っていると、彼は軽く息を吐き続けた。
「友人だと紹介されたが、羽瑠が、デートの邪魔をしては悪いと言うものだから、すぐに別れた」
「爽くん、デート中だったんだ。新しい彼女?」
何の疑問もなく、そう口にする。
今まで彼女の話を聞いたことはあった。わりと長続きしないほうで、年末も別れたばかりだと聞いていたのだ。
「いや、あの子は彼女じゃなくて……」
「なら君は普段から、彼女でもない女性と腕を組んで歩くのか?」
「すみません。誤解させたことは謝ります。あの子とはあの日会ったばかりで、駅まで送るために一緒に歩いてただけです。付き合う気はないってはっきり断りましたし、連絡先も知りません」
急に殊勝な態度になったかと思うと、爽くんはきっぱりと言う。そのあと気まずそうに視線を逸らして言葉を続けた。
「俺だって、あんときは上司だって紹介されたけど、そんな風には見えなくって」
どこか煮え切らない様子でゴニョゴニョと話す爽くんに続き、ようやく羽瑠ちゃんが口を開いた。
「依澄、ごめんなさい。あのとき私の様子がおかしかったのに、気づいてたよね。私……爽が女の子といるを目の当たりにして、あんなにショック受けるなんて、自分でも思わなかったの」
「俺も、羽瑠が男と仲良さげに歩いてるのを見て、めちゃくちゃ嫉妬して……。だから竹篠さんが、俺たちのキューピッドみたいなもんですね」
最後にニッコリ笑う爽くんに、依澄さんは唖然としていた。
「じゃあ、もしかして二人は付き合い始めたの? おめでとう! なんか嬉しい」
友人たちが収まるところに収まり、手放しで祝福すると、向かいで二人は顔を見合わせていた。
「そのことなんだけど。実は……」
羽瑠ちゃんは、恐る恐るそう切り出した。
依澄さんは地を這うような低い声を出す。
確かに、その意味が理解できないし、全く状況が掴めていない。彼らがどうやって知り合ったのか、どうして依澄さんが挑発的なのか、理由がわからない。
「あの、聞いていいかな。まず、依澄さんと爽くんは、どうして顔見知りなの?」
私が質問すると、依澄さんは我に返ったようにこちらに向いた。
「ごめん、恵舞。少し熱くなっていたようだ。彼とは、ここでの食事会の帰りに、羽瑠と歩いていたところで会ったんだ」
そんな偶然が、と思うが、ここは爽くんの職場にわりと近い。バッタリ会うことだってあるかも知れない。でもあんな態度を取る理由にはならない。
不思議に思っていると、彼は軽く息を吐き続けた。
「友人だと紹介されたが、羽瑠が、デートの邪魔をしては悪いと言うものだから、すぐに別れた」
「爽くん、デート中だったんだ。新しい彼女?」
何の疑問もなく、そう口にする。
今まで彼女の話を聞いたことはあった。わりと長続きしないほうで、年末も別れたばかりだと聞いていたのだ。
「いや、あの子は彼女じゃなくて……」
「なら君は普段から、彼女でもない女性と腕を組んで歩くのか?」
「すみません。誤解させたことは謝ります。あの子とはあの日会ったばかりで、駅まで送るために一緒に歩いてただけです。付き合う気はないってはっきり断りましたし、連絡先も知りません」
急に殊勝な態度になったかと思うと、爽くんはきっぱりと言う。そのあと気まずそうに視線を逸らして言葉を続けた。
「俺だって、あんときは上司だって紹介されたけど、そんな風には見えなくって」
どこか煮え切らない様子でゴニョゴニョと話す爽くんに続き、ようやく羽瑠ちゃんが口を開いた。
「依澄、ごめんなさい。あのとき私の様子がおかしかったのに、気づいてたよね。私……爽が女の子といるを目の当たりにして、あんなにショック受けるなんて、自分でも思わなかったの」
「俺も、羽瑠が男と仲良さげに歩いてるのを見て、めちゃくちゃ嫉妬して……。だから竹篠さんが、俺たちのキューピッドみたいなもんですね」
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「じゃあ、もしかして二人は付き合い始めたの? おめでとう! なんか嬉しい」
友人たちが収まるところに収まり、手放しで祝福すると、向かいで二人は顔を見合わせていた。
「そのことなんだけど。実は……」
羽瑠ちゃんは、恐る恐るそう切り出した。
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