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3. 夏の兆しとめぐる想い
9.
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キッチンにへたり込んだままの私に、依澄さんは「場所を変えよう」と促す。なんとか支えられリビングに移動すると、ソファの背に体を預けた。
それを見届けた依澄さんはまたキッチンへ戻る。しばらくすると手にグラスを二つ持ち戻り、一つを私の前に置く。それから、離れた一人掛けのソファの一つに座ると、彼はグラスに入ったお茶を一気にあおった。
軽く息を吐き出すと、空になったグラスをテーブルに置く。それを見つめたまま、緩やかに唇を開いた。
「何から……話せばいいんだろうな。長い話しになりそうだが、聞いてくれるか?」
やおらこちらに顔を向けると、彼はどこか自虐的にも見える笑みを浮かべる。そんな彼に静かに頷くと、話しは始まった。
「ハワードは、知っての通りアメリカ有数の財閥で一族は多い。だが、なかにはアジア人をよく思っていないものもいるのは事実だ」
日本に住んでいると、忘れてしまいそうになる人種差別。無くす努力をしたところで、アメリカでは未だそれが根付いているのを、自分も経験してきた。自分が住んでいた地域はまだましなほうだったけれど、それでも日本人の血が流れているだけで、揶揄いの対象になることだってあった。
「俺が生まれた頃には亡くなっていた祖父は、日本人の祖母と結婚した。それをよく思わないものが大勢いたのをわかっていながら、父は日系人だった母と結婚した。そのときにはもう、祖母は病気を患っていて、ハワードの家があるニューヨークから離れた場所に住んでいた。その祖母は反対したらしい。自分のように苦労するのは目に見えているからと」
彼が大事にしている祖母に、そんな事情があるなんて思いもしなかった。依澄さんは……ルークは、想像もできない家で育っていたのだ。
話しが途切れると、彼は深く息を吐く。私は何も言えないまま、グラスを持つと少しだけ口に含んだ。それを置くと、依澄さんは再び言葉を紡ぎ始めた。
「母は、祖母が心配した通りになった。生まれた子は父に似ず黒い髪。それもあって、父の目の届かないところで散々嫌がらせを受け、心を病み、そして、父に捨てられた」
「そんな……」
反対を押し切ってまで結婚し、結果見捨てられたなんて悲しすぎる。そう思うと胸が痛くなる。依澄さんも、身を切られるような辛い表情を見せていた。
「だが、救いの神はいた。母の主治医の元に来ていた、日本人研修医。それが羽瑠の父だ。俺も感謝している。母に幸せを与えてくれて」
ほんの少し彼の表情が緩む。それに救われた気持ちになっていた。
それを見届けた依澄さんはまたキッチンへ戻る。しばらくすると手にグラスを二つ持ち戻り、一つを私の前に置く。それから、離れた一人掛けのソファの一つに座ると、彼はグラスに入ったお茶を一気にあおった。
軽く息を吐き出すと、空になったグラスをテーブルに置く。それを見つめたまま、緩やかに唇を開いた。
「何から……話せばいいんだろうな。長い話しになりそうだが、聞いてくれるか?」
やおらこちらに顔を向けると、彼はどこか自虐的にも見える笑みを浮かべる。そんな彼に静かに頷くと、話しは始まった。
「ハワードは、知っての通りアメリカ有数の財閥で一族は多い。だが、なかにはアジア人をよく思っていないものもいるのは事実だ」
日本に住んでいると、忘れてしまいそうになる人種差別。無くす努力をしたところで、アメリカでは未だそれが根付いているのを、自分も経験してきた。自分が住んでいた地域はまだましなほうだったけれど、それでも日本人の血が流れているだけで、揶揄いの対象になることだってあった。
「俺が生まれた頃には亡くなっていた祖父は、日本人の祖母と結婚した。それをよく思わないものが大勢いたのをわかっていながら、父は日系人だった母と結婚した。そのときにはもう、祖母は病気を患っていて、ハワードの家があるニューヨークから離れた場所に住んでいた。その祖母は反対したらしい。自分のように苦労するのは目に見えているからと」
彼が大事にしている祖母に、そんな事情があるなんて思いもしなかった。依澄さんは……ルークは、想像もできない家で育っていたのだ。
話しが途切れると、彼は深く息を吐く。私は何も言えないまま、グラスを持つと少しだけ口に含んだ。それを置くと、依澄さんは再び言葉を紡ぎ始めた。
「母は、祖母が心配した通りになった。生まれた子は父に似ず黒い髪。それもあって、父の目の届かないところで散々嫌がらせを受け、心を病み、そして、父に捨てられた」
「そんな……」
反対を押し切ってまで結婚し、結果見捨てられたなんて悲しすぎる。そう思うと胸が痛くなる。依澄さんも、身を切られるような辛い表情を見せていた。
「だが、救いの神はいた。母の主治医の元に来ていた、日本人研修医。それが羽瑠の父だ。俺も感謝している。母に幸せを与えてくれて」
ほんの少し彼の表情が緩む。それに救われた気持ちになっていた。
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※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
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