上 下
44 / 100
2.吹き荒れるは、春疾風

22

しおりを挟む
 依澄さんの淹れた美味しいコーヒーとともに、あっという間にパイは皿から消えていた。
 コーヒーのお礼にと片付けを申し出ると、彼は「じゃあ、頼むよ」と答えリビングから消えていく。その間にキッチンに向かうと、先に洗ってあった皿を拭き、次に皿とカップを洗うとカゴに入れる。それが終わりリビングに戻ると、戻っていた依澄さんは神妙な面持ちでソファに座っていた。
 きっと、"受け取って欲しいもの"を取ってきたのだろう。けれどそれが何なのか、いまだに想像はつかない。
 恐る恐る依澄さんの横に座る。彼はこちらを見ようともせず、真っ直ぐ前を向いていた。

「あの……。依澄さん?」

 張り詰めた空気が伝わってきて、小さく呼びかけてみる。彼は意を決したように膝に置いた拳を握ると、こちらを向いた。

「…………。これを恵舞に受け取ってもらいたい」

 差し出されたレモンイエローの包装紙は、デパートのものでは無さそうだ。彼の手を大きくはみ出す細長い箱は、その中身はもしかしてと思わせる、見覚えのある大きさだった。

「どう……して……?」

 理由を尋ねたくなる。どうしてそれを渡したいと思ったのか、どうして……今日、なのか。

「理由がなきゃ、駄目?」

 困ったように眉を下げたその顔は、まるで"理由は言いたくない"と書いてあるようだ。それを感じて、打ち消すようにふるふると首を振った。

「……いえ」

 それだけ口にすると、依澄さんはそれ以上追求されなかったからか、安堵しているようだ。
 そんな彼が差し出されたものを受け取ると、笑顔を作って見せた。

「ありがとう……ございます。開けてもいいですか?」
「ああ」

 包装紙を剥がし脇に置き、箱を開ける。予想した通り、そこに入っていたのはペンダントだった。
 
「これ……」

 ゴールドのチェーンに付けられているペンダントトップは、花の形をしていて、その真ん中にはイエローの透明な石が嵌め込まれいた。

(似て……る……?)

 確認するように、自分からは見えないイヤリングに指で触れる。
 花をかたどったイヤリングは少し特徴的だ。細長い花びらが五枚に、真ん中には大きな雄しべが円を描いている。花屋でこんな花を見かけたことはなく、実在するのかもわからない。
 そして今、目の前にあるペンダントもそれに似た形状をしていた。

「依澄さん。この花、何か知ってるんですか?」
「……いや? 知らない。それより、着けて見せてくれないか?」

 はぐらかされたようにも思えるが、それに気づかなったふりをして頷く。
 ネックレスを手に取り、留め具を外して首に回す。今度はそれを留めようとするが、引き輪がうまくプレートに嵌められず、悪戦苦闘してしまっていた。
 そんなとき、「手伝おうか?」彼の穏やかな声が頭上から響いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

年下王子の重すぎる溺愛

文月 澪
恋愛
十八歳で行き遅れと言われるカイザーク王国で、婚約者が現れないまま誕生日を迎えてしまうリージュ・フェリット。 しかし、父から突如言い渡された婚約相手は十三歳の王太子アイフェルト・フェイツ・カイザーク殿下で!? 何故好意を寄せられているのかも分からないリージュは恐る恐る王城へと向かうが……。 雄過ぎるショタによる溺愛ファンタジー!!

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

処理中です...