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2.吹き荒れるは、春疾風
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依澄さんの淹れた美味しいコーヒーとともに、あっという間にパイは皿から消えていた。
コーヒーのお礼にと片付けを申し出ると、彼は「じゃあ、頼むよ」と答えリビングから消えていく。その間にキッチンに向かうと、先に洗ってあった皿を拭き、次に皿とカップを洗うとカゴに入れる。それが終わりリビングに戻ると、戻っていた依澄さんは神妙な面持ちでソファに座っていた。
きっと、"受け取って欲しいもの"を取ってきたのだろう。けれどそれが何なのか、いまだに想像はつかない。
恐る恐る依澄さんの横に座る。彼はこちらを見ようともせず、真っ直ぐ前を向いていた。
「あの……。依澄さん?」
張り詰めた空気が伝わってきて、小さく呼びかけてみる。彼は意を決したように膝に置いた拳を握ると、こちらを向いた。
「…………。これを恵舞に受け取ってもらいたい」
差し出されたレモンイエローの包装紙は、デパートのものでは無さそうだ。彼の手を大きくはみ出す細長い箱は、その中身はもしかしてと思わせる、見覚えのある大きさだった。
「どう……して……?」
理由を尋ねたくなる。どうしてそれを渡したいと思ったのか、どうして……今日、なのか。
「理由がなきゃ、駄目?」
困ったように眉を下げたその顔は、まるで"理由は言いたくない"と書いてあるようだ。それを感じて、打ち消すようにふるふると首を振った。
「……いえ」
それだけ口にすると、依澄さんはそれ以上追求されなかったからか、安堵しているようだ。
そんな彼が差し出されたものを受け取ると、笑顔を作って見せた。
「ありがとう……ございます。開けてもいいですか?」
「ああ」
包装紙を剥がし脇に置き、箱を開ける。予想した通り、そこに入っていたのはペンダントだった。
「これ……」
ゴールドのチェーンに付けられているペンダントトップは、花の形をしていて、その真ん中にはイエローの透明な石が嵌め込まれいた。
(似て……る……?)
確認するように、自分からは見えないイヤリングに指で触れる。
花をかたどったイヤリングは少し特徴的だ。細長い花びらが五枚に、真ん中には大きな雄しべが円を描いている。花屋でこんな花を見かけたことはなく、実在するのかもわからない。
そして今、目の前にあるペンダントもそれに似た形状をしていた。
「依澄さん。この花、何か知ってるんですか?」
「……いや? 知らない。それより、着けて見せてくれないか?」
はぐらかされたようにも思えるが、それに気づかなったふりをして頷く。
ネックレスを手に取り、留め具を外して首に回す。今度はそれを留めようとするが、引き輪がうまくプレートに嵌められず、悪戦苦闘してしまっていた。
そんなとき、「手伝おうか?」彼の穏やかな声が頭上から響いた。
コーヒーのお礼にと片付けを申し出ると、彼は「じゃあ、頼むよ」と答えリビングから消えていく。その間にキッチンに向かうと、先に洗ってあった皿を拭き、次に皿とカップを洗うとカゴに入れる。それが終わりリビングに戻ると、戻っていた依澄さんは神妙な面持ちでソファに座っていた。
きっと、"受け取って欲しいもの"を取ってきたのだろう。けれどそれが何なのか、いまだに想像はつかない。
恐る恐る依澄さんの横に座る。彼はこちらを見ようともせず、真っ直ぐ前を向いていた。
「あの……。依澄さん?」
張り詰めた空気が伝わってきて、小さく呼びかけてみる。彼は意を決したように膝に置いた拳を握ると、こちらを向いた。
「…………。これを恵舞に受け取ってもらいたい」
差し出されたレモンイエローの包装紙は、デパートのものでは無さそうだ。彼の手を大きくはみ出す細長い箱は、その中身はもしかしてと思わせる、見覚えのある大きさだった。
「どう……して……?」
理由を尋ねたくなる。どうしてそれを渡したいと思ったのか、どうして……今日、なのか。
「理由がなきゃ、駄目?」
困ったように眉を下げたその顔は、まるで"理由は言いたくない"と書いてあるようだ。それを感じて、打ち消すようにふるふると首を振った。
「……いえ」
それだけ口にすると、依澄さんはそれ以上追求されなかったからか、安堵しているようだ。
そんな彼が差し出されたものを受け取ると、笑顔を作って見せた。
「ありがとう……ございます。開けてもいいですか?」
「ああ」
包装紙を剥がし脇に置き、箱を開ける。予想した通り、そこに入っていたのはペンダントだった。
「これ……」
ゴールドのチェーンに付けられているペンダントトップは、花の形をしていて、その真ん中にはイエローの透明な石が嵌め込まれいた。
(似て……る……?)
確認するように、自分からは見えないイヤリングに指で触れる。
花をかたどったイヤリングは少し特徴的だ。細長い花びらが五枚に、真ん中には大きな雄しべが円を描いている。花屋でこんな花を見かけたことはなく、実在するのかもわからない。
そして今、目の前にあるペンダントもそれに似た形状をしていた。
「依澄さん。この花、何か知ってるんですか?」
「……いや? 知らない。それより、着けて見せてくれないか?」
はぐらかされたようにも思えるが、それに気づかなったふりをして頷く。
ネックレスを手に取り、留め具を外して首に回す。今度はそれを留めようとするが、引き輪がうまくプレートに嵌められず、悪戦苦闘してしまっていた。
そんなとき、「手伝おうか?」彼の穏やかな声が頭上から響いた。
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