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1.始まりの春
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「……美味い。全く味の想像ができなかったが、出汁の味がほんのりとして、このソースとのマリアージュも最高だ」
真面目腐った顔でそんなことを言う彼に、自然と笑い声が漏れる。
「ふふっ。たこ焼きにマリアージュなんて言う人に初めて会いました。でも良かった、口に合って。どんどん食べてくださいね。私はこれ貰います」
笑いを止められないまま、タレのかかった焼き鳥を手にする。炭火で焼いてあるのか、香ばしい匂いがたまらない。串に刺さったままの焼き鳥に、私は豪快にかぶりついた。
「ん! 美味しい!」
自然とそう口にしたあと、ビールを呷る。
今さら上品ぶったところで、すぐにメッキは剥がれるだけ。誤魔化すことなく素を曝け出す。気の置けない、社内通訳チームとの飲み会並みに。それで幻滅されるならそれでも構わないのだから。
けれど缶ビールから唇を離し前を向くと、彼はまるで小さな子どもでも見ているような、微笑ましいと言わんばかりの表情で私を見ていた。
「何か……?」
呆れているわけではなさそうだが、その意図が掴めず眉を顰める。
「いや……。美味しそうに食べて飲むところが恵舞らしいなって」
クスリと笑うその顔は、決して馬鹿にしているわけではなさそうだ。どちらかというと感慨深げ。どうしてそんな表情を見せるのか、思い当たるふしなどない。
「取り繕ってみせても仕方ないですから。ご想像通り、私は上品でもお淑やかでもないですし」
嫌味っぽいかも知れないが、本当のことだ。いくら宮藤という名家の血を引いていようが、自分は令嬢などと呼ばれる立場にないのだから。
ムッとしている私をよそに、彼は穏やかに細めた目をこちらに向けた。
「俺は、恵舞の自然な姿が見られて嬉しいよ。とても可愛いと思ってる」
「えっ! あ、あのっ、揶揄わないでくださいよ!」
偽りのなさそうな笑顔と言葉に反応し、私の頰はすぐさま熱くなる。冗談を真に受けて慌てふたいていると、彼は不思議そうに眺めていた。
「揶揄ってなどいないが? 思ったことを口にしたまでだ」
「わ、わかりました! そういうことにしておきます!」
恥ずかしすぎて彼の顔を真っ直ぐ見られず、ふいっと横を向くと気を紛らわせるようにビールに口を付ける。
(ルークと同じ顔なんて、心臓に悪いって……)
ルークには可愛いなんて言ってもらえたことはなかった。
初恋の人から聞きたかったセリフを違う人から聞かされ、口に含んだビールのようにほろ苦い気持ちになっていた。
真面目腐った顔でそんなことを言う彼に、自然と笑い声が漏れる。
「ふふっ。たこ焼きにマリアージュなんて言う人に初めて会いました。でも良かった、口に合って。どんどん食べてくださいね。私はこれ貰います」
笑いを止められないまま、タレのかかった焼き鳥を手にする。炭火で焼いてあるのか、香ばしい匂いがたまらない。串に刺さったままの焼き鳥に、私は豪快にかぶりついた。
「ん! 美味しい!」
自然とそう口にしたあと、ビールを呷る。
今さら上品ぶったところで、すぐにメッキは剥がれるだけ。誤魔化すことなく素を曝け出す。気の置けない、社内通訳チームとの飲み会並みに。それで幻滅されるならそれでも構わないのだから。
けれど缶ビールから唇を離し前を向くと、彼はまるで小さな子どもでも見ているような、微笑ましいと言わんばかりの表情で私を見ていた。
「何か……?」
呆れているわけではなさそうだが、その意図が掴めず眉を顰める。
「いや……。美味しそうに食べて飲むところが恵舞らしいなって」
クスリと笑うその顔は、決して馬鹿にしているわけではなさそうだ。どちらかというと感慨深げ。どうしてそんな表情を見せるのか、思い当たるふしなどない。
「取り繕ってみせても仕方ないですから。ご想像通り、私は上品でもお淑やかでもないですし」
嫌味っぽいかも知れないが、本当のことだ。いくら宮藤という名家の血を引いていようが、自分は令嬢などと呼ばれる立場にないのだから。
ムッとしている私をよそに、彼は穏やかに細めた目をこちらに向けた。
「俺は、恵舞の自然な姿が見られて嬉しいよ。とても可愛いと思ってる」
「えっ! あ、あのっ、揶揄わないでくださいよ!」
偽りのなさそうな笑顔と言葉に反応し、私の頰はすぐさま熱くなる。冗談を真に受けて慌てふたいていると、彼は不思議そうに眺めていた。
「揶揄ってなどいないが? 思ったことを口にしたまでだ」
「わ、わかりました! そういうことにしておきます!」
恥ずかしすぎて彼の顔を真っ直ぐ見られず、ふいっと横を向くと気を紛らわせるようにビールに口を付ける。
(ルークと同じ顔なんて、心臓に悪いって……)
ルークには可愛いなんて言ってもらえたことはなかった。
初恋の人から聞きたかったセリフを違う人から聞かされ、口に含んだビールのようにほろ苦い気持ちになっていた。
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(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
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