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☆番外編3☆
emotional 6
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-side T-
「こんなにゆっくり2人でご飯食べるなんて、久しぶりだね」
部屋に運ばれてきたディナーは二人分。最初にそれに驚いた瑤子に、俺は種明かしをした。
お袋は、俺がミラノに経つ前から2人の時間を作ろうとしてくれていたらしい。それは東藤から聞いた話だ。
そして、ミラノでの日程を一日前倒しできないか相談されたのだと言う。今回に限っては、そのたった一日を捻出するのも骨が折れたことだろう。だが、東藤は東藤で、俺たちのためにそれをやり遂げてくれた。
お袋のほうは、俺が一日早く帰ることを知らせず瑤子をここに来させた。お袋なりのサプライズ、と言うところだろう。
瑤子の言う通り、2人だけで話をしながら食事をするなんて、1年以上振りかも知れない。もちろん不満があったわけじゃないが、それでも壱花が生まれる前の蜜月を思い出したりはした。
「だな」
なんて言いながら、俺は料理に舌鼓を打つ。出てきた料理は創作和懐石と言ったところだ。おそらく海外から帰ったばかりの俺に合わせたのだろう。向こうで和食などほとんど食べることはない。そろそろ日本人らしく和食が恋しくなっていた。
それすら見越して用意をしたお袋の気遣いに、さすが長門の家を長く守ってきただけあるな、と心の中で敬意を表するしかなかった。
俺たちは、食事を楽しみながらこの一ヵ月にあったことを語り合った。お互い話は尽きず、気がつけばもう皿の上は綺麗になっていた。
「お腹いっぱい! ご馳走様でした」
ニコニコと手を合わせて瑤子は言う。
「本当に。見た目以上に腹一杯になるな」
俺も笑いながら返す。そして、瑤子は笑顔のまま俺を見つめた。
「お義母様には感謝しかないな。私のためにこんなに色々してくださって。明日は何かお好きなもの、お土産に買って帰ろうね?」
「確かに。今回の件で、俺はお袋にも頭上がんねぇの思い知ったからな」
くつくつと笑いながら言うと、瑤子は少しだけ眉を顰めた。
「も、って。他に誰がいるのよ?」
「ん? もちろんお前だろ?」
そう言うと瑤子は決まりの悪そうな顔で「そんなことないもん」なんて返している。その顔を見ながら俺は立ち上がり、瑤子の元へ向かうとその手を引いた。
「とりあえず、ちょっとこっちな」
テーブルから離れ、ソファに向かうと瑤子を座らせる。それから俺は内線で食事が終わったことを告げた。
とっとと片付けてもらわねぇと、その先に進めねぇし
なんて俺が思っていることはつゆ知らず、瑤子は不思議そうに俺の様子を伺っていた。
そして、俺がソファの横に座ると瑤子は口を開いた。
「ねぇねぇ。お義母様にお土産、何がいいかな? 本当はあの和菓子屋さんまで行きたいけど、車を取りに帰るのも変だし。司は何がいいと思う?」
真剣に考えている瑤子を抱き寄せると、俺はその耳元に顔を近づける。
「……。もう一人、孫を増やすってのはどう?」
囁くようにそう言うと、瑤子は体をビクッと震わせてから俺から離れる。
「なっ、何言ってるのよ!」
頰を赤らめて瑤子は俺を見ている。その顔を見て、変わらず可愛いやつ、なんて思いながら俺は返す。
「結構マジなんだけど? ダメか?」
子どもはいらない、なんて思っていた俺の元に壱花はやって来た。そして、こんなにも愛おしく思える存在なんだと実感していた。その壱花が成長するにつれ、やっぱり兄弟を作ってやりたいと思う自分がいた。けれど、瑤子の負担がより大きくなることを、俺は危惧していた。
「え、と……。いいの? 本当に?」
「……なんで?」
驚いた様子の瑤子に、俺は静かに尋ねる。
「一人で充分、って思ってるだと思って……」
そんなことを言う瑤子を、俺は抱き寄せる。
「確かに。そう思われても仕方ねぇよな。でも、俺にまどかがいるように、壱花にもそんな存在がいたらいいよな、とは思ってる」
なんだかんだで、俺はまどかに救われていた。もし俺が一人だったら、余計に腐った人生を歩んでいたかも知れない。
「うん……。そうだね。私も同じ気持ちだよ?」
そう言うと、俺の背中に回した腕に力を込める。
「そっか。よかった」
軽い調子でそう返し、俺は瑤子の背中を撫でていた。
「こんなにゆっくり2人でご飯食べるなんて、久しぶりだね」
部屋に運ばれてきたディナーは二人分。最初にそれに驚いた瑤子に、俺は種明かしをした。
お袋は、俺がミラノに経つ前から2人の時間を作ろうとしてくれていたらしい。それは東藤から聞いた話だ。
そして、ミラノでの日程を一日前倒しできないか相談されたのだと言う。今回に限っては、そのたった一日を捻出するのも骨が折れたことだろう。だが、東藤は東藤で、俺たちのためにそれをやり遂げてくれた。
お袋のほうは、俺が一日早く帰ることを知らせず瑤子をここに来させた。お袋なりのサプライズ、と言うところだろう。
瑤子の言う通り、2人だけで話をしながら食事をするなんて、1年以上振りかも知れない。もちろん不満があったわけじゃないが、それでも壱花が生まれる前の蜜月を思い出したりはした。
「だな」
なんて言いながら、俺は料理に舌鼓を打つ。出てきた料理は創作和懐石と言ったところだ。おそらく海外から帰ったばかりの俺に合わせたのだろう。向こうで和食などほとんど食べることはない。そろそろ日本人らしく和食が恋しくなっていた。
それすら見越して用意をしたお袋の気遣いに、さすが長門の家を長く守ってきただけあるな、と心の中で敬意を表するしかなかった。
俺たちは、食事を楽しみながらこの一ヵ月にあったことを語り合った。お互い話は尽きず、気がつけばもう皿の上は綺麗になっていた。
「お腹いっぱい! ご馳走様でした」
ニコニコと手を合わせて瑤子は言う。
「本当に。見た目以上に腹一杯になるな」
俺も笑いながら返す。そして、瑤子は笑顔のまま俺を見つめた。
「お義母様には感謝しかないな。私のためにこんなに色々してくださって。明日は何かお好きなもの、お土産に買って帰ろうね?」
「確かに。今回の件で、俺はお袋にも頭上がんねぇの思い知ったからな」
くつくつと笑いながら言うと、瑤子は少しだけ眉を顰めた。
「も、って。他に誰がいるのよ?」
「ん? もちろんお前だろ?」
そう言うと瑤子は決まりの悪そうな顔で「そんなことないもん」なんて返している。その顔を見ながら俺は立ち上がり、瑤子の元へ向かうとその手を引いた。
「とりあえず、ちょっとこっちな」
テーブルから離れ、ソファに向かうと瑤子を座らせる。それから俺は内線で食事が終わったことを告げた。
とっとと片付けてもらわねぇと、その先に進めねぇし
なんて俺が思っていることはつゆ知らず、瑤子は不思議そうに俺の様子を伺っていた。
そして、俺がソファの横に座ると瑤子は口を開いた。
「ねぇねぇ。お義母様にお土産、何がいいかな? 本当はあの和菓子屋さんまで行きたいけど、車を取りに帰るのも変だし。司は何がいいと思う?」
真剣に考えている瑤子を抱き寄せると、俺はその耳元に顔を近づける。
「……。もう一人、孫を増やすってのはどう?」
囁くようにそう言うと、瑤子は体をビクッと震わせてから俺から離れる。
「なっ、何言ってるのよ!」
頰を赤らめて瑤子は俺を見ている。その顔を見て、変わらず可愛いやつ、なんて思いながら俺は返す。
「結構マジなんだけど? ダメか?」
子どもはいらない、なんて思っていた俺の元に壱花はやって来た。そして、こんなにも愛おしく思える存在なんだと実感していた。その壱花が成長するにつれ、やっぱり兄弟を作ってやりたいと思う自分がいた。けれど、瑤子の負担がより大きくなることを、俺は危惧していた。
「え、と……。いいの? 本当に?」
「……なんで?」
驚いた様子の瑤子に、俺は静かに尋ねる。
「一人で充分、って思ってるだと思って……」
そんなことを言う瑤子を、俺は抱き寄せる。
「確かに。そう思われても仕方ねぇよな。でも、俺にまどかがいるように、壱花にもそんな存在がいたらいいよな、とは思ってる」
なんだかんだで、俺はまどかに救われていた。もし俺が一人だったら、余計に腐った人生を歩んでいたかも知れない。
「うん……。そうだね。私も同じ気持ちだよ?」
そう言うと、俺の背中に回した腕に力を込める。
「そっか。よかった」
軽い調子でそう返し、俺は瑤子の背中を撫でていた。
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