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36 side T

4.

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そろそろ休もうかとみか達と別れる。
みかは「私達の部屋まで声は聞こえてこないと思うんで安心して下さいね~」何て俺に言うから、「お前も言うようになったじゃねーか」と返す。
出会った頃は、何となく自分に自信の無さそうな中学生だったのに。

「さすがに私もいい年した大人なんで」

そう笑いながら俺に返すみかを、瑤子はキョトンとした顔で見ていた。

部屋に戻ると、まるで今、日本に住んでいるのが嘘のような感覚になるが、瑤子が隣にいる事で、それが現実なんだと教えてくれた。

別々にシャワーを浴びて、ベッドに入る頃にはもう2時をとうに回っている。
先にベッドに入っていた俺がなんとなくウトウトしていると、瑤子が静かにベッドに入ってくる気配がした。
俺が軽く布団を持ち上げると「起こしちゃった?」と小さく言って俺の腕に収まった。

「いや?お前を待ってた」

そう言って、ベッドの中で抱きしめ背中を撫でる。

「何か……早いね。もう明日には日本に戻るなんて嘘みたい」

そう言うと瑤子は猫が擦り寄るように俺の首元に顔を埋める。

「だな。楽しい時間ってあっという間だ」
「私、すごく楽しくて幸せ。連れて来てくれてありがとう」

俺の背中に手を回して、瑤子は俺により体を近づける。

「俺もだ。来てくれてありがとう。こんな気持ちなんだな幸せってやつは」

何処かふわふわするような、それでいて心に痛みを感じているような、なんとも言えないその感覚。
それを感じながら腕に収めた瑤子の髪に唇を寄せた。

「まさかこの部屋で、このベッドの上でお前と眠る日が来るなんて思ってもなかった」
「そうだね。ずっと電話の向こう側だった場所にいるなんて、私も信じられないや。……その……」

瑤子はそこで口籠る。

「何?」
「誰かとここで、こうしてた事あったのかな……って」

小さな嫉妬に笑いながら、俺は体を起こす。

「ないよ。この家自体、呼んだ事あるやつは全員お前が知ってるやつだ。俺は、夏に叶わなかった夢が叶ってちょっと嬉しい」

そう言って瑤子の額に唇を落とすと、瑤子は俺を見上げた。

「夢?」
「そ。あの時、本当はどれだけお前に会いたかった知らねーだろ?1人で寝るたび、お前が横にいてくれたらいいのにって思ってた」

瑤子は少し目を開いて、またすぐに細めて俺を見る。

「私も、本当はずっと寂しかったんだよ?」

そう言って笑う瑤子に吸い寄せられるように、俺は瑤子と唇を重ねた。

「じゃあ、その夢の続き、いい?」

そう言ってパジャマの下から手を滑り込ませると「一体どんな夢なのよ?」と言いながらも、満更でもない顔して笑った。


◆◆


1月2日の午前の空港。

気付けばこっちで会った人間全員が俺達を見送りに来てくれていた。

「世話になったな」

そう言いながら一人一人と俺は笑顔で言葉を交わす。
それと対象的なのは瑤子だ。

「もうそんなに泣かないで下さいよ、瑤子さん」
「そうだよヨーコ!美人が台無しだ」

みかとレイにそんな事を言われながらも、瑤子はボロボロと涙を零す。

「だって寂しくて。皆さんとお別れするのが」

瑤子が涙声でそう言うと、レイが「じゃあこっちに住む?大歓迎!」と瑤子に抱きつこうとしてアンに腕を引っ張れている。

「ヨーコ。今生の別れじゃないんだから。今度は私達が日本に行くから。その時はよろしくね」

アンの言葉に瑤子は頷く。

「そうですよ、ヨーコ。私達の次のバカンスは日本に参りますから。案内頼みますよ?」

メグが優しく諭すように言うと「はい。楽しみにしてます」と、ようやく落ち着きそう言った。

「ツカサ!本当に日本へはバカンスに行くからな?たくさん旨い日本酒飲ませてくれよ!」

ジョーは俺の肩を叩き、豪快に笑いながら言う。

「あぁ。分かってる」

その横にいたロイも同じように腹を揺らしながら笑っている。

「ツカサ!また仕事で戻る事があればいつでも寄ってくれ!ムツキにもよろしく伝えてくれよ」
「色々ありがとな。ロイのおかげで瑤子も喜んでたよ。睦月にも伝えとく」

そして俺は、ロイとがっちりと握手を交わした。

「司さんのおかげで、みかちゃんこれからも頑張って行けそうです。本当にありがとうございます」

直也には真剣な顔でそう言われた。

「俺は何もしてねーよ。みかはお前がいるから頑張れるんじゃねーの?胸を張れ」

そう言って直也の肩を叩くと、直也は元気よく「はい!」と返事をして笑顔になった。

「じゃあ、皆さんありがとうございました。お元気で!」

名残惜しそうに手を振る瑤子と俺はゲートに向かう。皆は最後の最後まで見送ってくれ、それに温かいものを感じながら。

「本当に……帰っちゃうんだ。やっぱり寂しいなぁ」

歩きながら瑤子は本当に寂しそうにポツリと呟く。

「そうだな。けど、みんなまた会える日が来る。何か知らねーけど、俺達の縁はそんなに簡単に切れない。そんな気がするよ」

人なんて信用しない、そんな事を思いながら生きてきたはずの俺は、いつの間にかこんなに信用できる奴らに囲まれて生きていた。
そしてそれに気づかせてくれたのは、隣にいる何よりも大事な存在。

「そうだね。きっとこれからも繋がってるね」

これからも俺にたくさんの事を教えてくれるだろう。
そう思いながら、笑顔を向ける瑤子を見下ろした。
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