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36 side T

1.

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数日間、とりあえず予定は入れずに、旅行らしく観光を楽しんだ。

自由の女神の足元まで行ったり、有名美術館に行ったり。ずっと瑤子は楽しんでくれて、俺も連れてきた甲斐があったと満足した。

そして今日。振り出しに戻ったかのように俺達はその場所にいた。

「今日は2人ともいるよね?」
「さすがに今日この時間に行くっつって連絡してあるのにいなかったら俺は代金払わねーぞ」

何の代金か言わなくても分かったようで、瑤子は呆れたように「それはダメでしょ」と俺に言う。

「冗談だ」

そう言いながら、俺は瑤子の手を引いてガラスの扉を押した。

「ハーイ!いらっしゃ~い!待ってたわよ」

早速アンが、ニヤニヤ意味深な笑顔を浮かべて俺達を出迎えた。

「こんにちは。これ良かったら2人で食べて下さい」

そう言って瑤子は、こいつらの好きな店のスイーツを差し出した。

「ワォ!サンキュー!ツカサ、ヨーコ」

袋だけで中身が分かったのかアンは嬉しげにそれを受け取った。

「で、レイは?いねーの?」

俺は姿のないレイの事を尋ねる。

「いるわよ?心配しなくても。レーイ!ツカサとヨーコが来たわよ!」

奥の部屋に向かってアンが叫んでしばらくすると、眠そうに頭を掻きながら奥からレイが姿を現した。

「おはよ~」
「おはようじゃねーだろ!もう昼はとっくに過ぎてんぞ」

まだ目を開けにくそうに瞬きすると、「あぁ。もうこんな時間か」と時計を見てレイは言った。

「ん?ヨーコ!今日は一段と綺麗だね」

急にそんな事を言い出して、レイは瑤子に近づいてその左手を取る。

「えっ?あ、の」

瑤子は戸惑いながら、されるがままに手を持ち上げられている。
レイは傅くようにそのまま左手を自分の目の前に持って行ったかと思うと、そこにつけられている指輪にじっと見入っている。

「うん。やっぱりイメージ通りだ。我ながらいい仕事したよ」

得意げに自画自賛するレイに、「何言ってんだお前……」と俺は呆れながら言う。

「だってさ。まだ見ぬEmpressをイメージして作ったんだよ?凄くない?」

目を輝かせて言うレイに俺は一番謎だった事を投げかける。

「お前、普通に作ったら数ヶ月かかるだろーが。一体いつ取り掛かったんだ?」

「んー……」と宙を見上げてレイは考えると「9月くらいだよね?」とアンの方を向いた。
アンも「そうね。9月の頭くらいね」とレイに答えていた。

それを聞いて俺と瑤子は顔を見合わせると、瑤子は驚いたように「9月……」と呟いていた。
そして俺は、

やっぱりこいつら怖ぇーよ

と思っていた。

アンが店のガラス戸にcloseの札を下げると、俺達を店の奥に促す。
さっきまでレイが寝ていたと思しきソファにはブランケットが無造作に放置されていた。

「まあ座ってよ。アン~?コーヒー入れてくんない?」

レイは対面に置かれたソファの間にあるガラステーブルに散らばった紙を纏めながらまだ店にいるアンに声をかけている。

「ヨーコはそれ、気に入ってくれた?」

レイがどっかりソファに座ると、まず瑤子に無駄に整った顔を綻ばせて尋ねた。

「もちろん!ありがとうレイ。凄く素敵。この石……ダイアモンドだよね?色が付いてるけど」

そう言って瑤子は自分の指に視線を落とす。
確かに全て任すと、予算だけ告げて頼んだもので、俺も開けるまでどんなものか知らなかった。
そこに付いていた石は大きくは無いが、恐らくそれなりにするだろうピンクダイアモンド。

「いいでしょ?その子・・・が一番イメージに合ってたんだよね。日本人ってあんまりエンゲージリングを普段しないって聞くからさ、邪魔にならない大きさにしたんだよ?」

そう言うレイに、瑤子は「うん。これならずっと出来そう」と微笑む。

「ヨーコならきっと大事にしてくれるね。良かったねツカサ。あんな破格な予算提示されたから腕が鳴ったよ!」

すこぶる笑顔のレイに「金の話するんじゃねーよ!」と俺は顔を顰め返す。

まだ実際の値段は見ていないが、俺が提示した予算は、俺の乗る車とさほど変わらない。
そんな事知られたら、間違いなく瑤子は金庫にしまっておくとか言い出しそうだ。
レイが、大きさに拘るアメリカ人こっちに合わせず、日本人に合わせてくれて正直助かった。

「コーヒー入ったよ~!」

アンがトレーを持って現れる。それをテーブルに乗せて、レイの横に座ると、また意味深に笑いながらアンは瑤子を見ていた。

「じゃあヨーコ。後で貴女を占わせてね!ずっと楽しみにしてたんだから。ね?」

とアンはレイにアンコンタクトを送る。

「そうだよ?こんなにウキウキしてるアンを見るのは珍しいんだから。よろしくね。ヨーコ」

案の定、瑤子は隣で引き攣った顔を見せながらカップを持ち上げている。

「ま、ここまで来たら逃れるのは無理だな。せっかくなんだからアンの気が済むようにしてやれ」

俺も横からそう口を出す。
確かに、ここまで占いたいとアンから言うのは珍しい。どれだけ金を積まれようが、どれだけ権力を持っているやつに頼まれようが、その気にならならければ絶対占わないアンだ。

「じゃ……じゃあ。お願いします」

辿々しく瑤子はそう言っていた。
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