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「ツカサは変わりましたね」

メグと2人、食事後のお茶をいただいていると、不意にそんな事を言われる。
司は、リビングのテーブルでジョーととても楽しそうにチェスに興じている。
私達は、ダイニングテーブルでメグの作ったプディングを食べながら話をしていた。

「そう……ですか?」

私がそう言うと、メグは司に視線を移し口を開いた。

「私どもの前では変わらないように見えますが、それでも時折見せる何処か孤独感のある瞳を、今日は見せなかった。きっと、貴女がいるからでしょう」

母親のような眼差しを向けて、メグはそう言った。

「そうだといいんですが……」

私が自信なさげに答えると、メグは私を見て微笑む。

「私は、ツカサには一生を添い遂げる相手は現れないのではないかと危惧しておりました。子供を持つ事の出来なかった私にとって、ツカサは息子のようなもの。私が最愛の伴侶と出会えたように、彼にもそんな相手が現れるのを願っておりました」

慈愛に満ちた表情でそう言うメグに偽りはない。本当に司の事を息子のように思ってくれているのが分かる。もちろん、ジョーも同じように思ってくれているのだと思う。

「司は……きっと2人を両親のように思っていると思います。だからこそ迷う事なく私を会わせてくれた。私は、司にそんな人達がいてくれて本当に良かったと思います」

司は、本当の両親から得られなかった愛情を彼らに感じているのだと私は思う。だからこそ、2人の前では子供に戻っているのだと。

私がそう言うと、メグはただ微笑みを浮かべ私を見ていた。

「そういえば、私はツカサが日本に発つ前手紙を書きました。あれを、ツカサは読んでくれたのでしょうか?」
「手紙……って、もしかして……Little women若草物語に挟んであった?司の本棚に珍しい本があるなって手に取ったら入ってて。もちろん中身は読んでないんですけど」

だいたいが写真やファッションに関する本が並ぶ中で、そっと並んでいた古い本。何か読もうと眺めていた時、私はそれに気づいた。

「日本に持って行ってくれたのですね。私の名前の由来だと、昔差し上げたものです。そうですか……。きっとあの手紙を読んだからこそ、今貴女がいるのですね」

1人納得したように笑みを浮かべ、メグはティーカップに口を付けた。
私は、2人の間にある温かい絆のようなものを感じながらメグを眺めていた。

楽しかった時間はあっという間に過ぎて、私達はメグの運転で家に帰る。
なんとメグは、その容姿には似合わない大きなジープで私達を送ってくれた。

そう言えばメグだけお酒飲んでないなぁ、なんて思っていたら、元々飲めない体質らしい。対して、ジョーはかなり飲んでいた。司が渡したお土産は日本酒らしく、前に飲んでみたいとジョーが言っていたのを思い出し用意したと司は言っていた。

「今日はありがとうございました。本当に、お会いできて良かったです」

私はメグと握手を交わしながらそう伝える。

「こちらこそ。久しぶりに賑やかなクリスマスが過ごせて嬉しゅうございました」

メグはそう言って微笑んだ。

「今度は日本に来ればいい。ジョー。京都でも神戸でも、何処でも酒蔵連れてくぞ?」

司も心の底から楽しそうに笑って言う。

「それは楽しみだ。その時は是非とも案内を頼むぞ。ツカサ」

赤くなった顔で豪快に笑いながらジョーは司の肩を叩いている。

「では、私達はこれで。ツカサ、どうかお幸せに」
「あぁ。ありがとな、メグ」

司は優しい眼差しを向けて、メグにそう言ってから頰にキスをする。

車が見えなくなるまで2人を見送って家に入ると、司はそのまま私を抱き寄せた。

「瑤子……」

肩越しに、私の名を呼ぶ司の声が聞こえて、私は「なぁに?」と答える。
司は私の背中を撫でるように手を動かしている。

「お前がいてくれたから、あの2人とあんな風に過ごす事が出来た。全部お前のおかげだ」

私も司の背中に手を回して、同じように背中を撫でた。

「私こそありがとう。2人を紹介してくれて。司の大事な人達に会わせて貰えて嬉しいよ」

顔を上げてそう言うと、司は目を細めて笑っている。きっと私だけに見せるとても優しい顔。
その顔を見るだけで、私は愛しさが込み上げてくる。

「今度は2人に日本に来てもらおうね」

私が笑いながらそう言うと、「そうだな。その日が楽しみだ」と司も笑い、私の額にキスを落とした。

けれど、私にはもう一つ願いがある。

ニューヨークこっちでの親代わりのジョーとメグだけじゃなくて、その時は、司のご両親も一緒に過ごせたらいいのに。

私はそう思った。

簡単じゃないのは分かっている。幼い頃からのわだかまりがそう簡単に解けるとは思っていない。
それでも、今日2人に見せたような顔をご両親にも見せる日が来る事を、私は切に願った。
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