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気がつけば室内には温かな空気が流れている。司は空調を入れに行ったのか、と思っていると何かを手に戻って来た。
「何持ってるの?」
袋に入っているそれを、司は脇に抱えていた。
「あぁ。薪だ」
そう言って暖炉の前まで来ると、それをそのまま放り込んだ。
どうするのか見守っていると、司はそのまま立ち上がりこちらを向く。
「つけるのは後にするか。どうせ飾りみたいなもんだし」
「え?飾りなの?」
確かに空調が効き始めた部屋の中は、小さな暖炉一つで温まるとは思えない広さだ。
「そ。オーナーの趣味」
そう言いながら司はソファに座ったままの私の隣に座った。
「そろそろいいだろ」
体を私の方に向けて司は悪巧みを思いついたような顔して、突然私の足を持ち上げた。
「へっ?何?」
持ち上げられた反動で、背もたれに背中を預けていなかった私の体は向こう側へ倒れ込む。
「何かいけない事してる気分だよな」
なんて含み笑いをしながら私の右足首を掴むとブーツのファスナーを下ろしにかかる。
「気分じゃなくてやってるじゃない!自分で脱ぐから!」
そう言いながら上体を起こそうとするが、足を持ち上げられている所為で、もがくだけになってしまう。
「別にいいじゃねーの。何か楽しいし」
司は嬉々としながらその行為をそのまま続けている。
「全然楽しくない!どんな罰ゲームなの⁈」
声を荒げるように司に言っても、全く聞き耳を持つ事はなく、寧ろ「いや、ご褒美だろ。これ」なんてより一層口の端を上げて笑う。
そうしているうち右足に解放感が訪れて、脱がされたブーツはその辺りに投げられて、今度は左足首を掴まれた。
もう抵抗しても無駄だ……
私は諦めて、されるがままにその行為を眺めていた。
両足が靴から解放され、やっとこの羞恥プレイから解放される……と思ったのも束の間、今度はそのまま司にのしかかられた。
「ちょっと!何やってんのよ!」
「ん~?まだ何もしてねーけど?それとも今からやる?」
押し返そうと思ったのに、先に手首を捕まえられ動けない。それをいいことに、司はわざと私の耳元で囁くように言っている。
「しない……からっ!今したら、こっちにいる間は一緒の部屋で寝ないからね!」
司から逃れるように顔を背けて言うと、「ちぇっ。残念」と言葉通り残念そうに言ってから、私の頰に唇を落とした。
「しゃーねーな。コーヒーでも入れるか。キッチンの物も好きに使っていいって言われてるしな。どうせあの人の事だ。俺好みのもん用意してくれてるだろ」
そう言って司は起きあがり、私はホッとした。
スリッパに履き替えて、司と一緒にキッチンへ向かう。やっぱりここも無駄に広い。
司は当たり前のように戸棚を開けて、そこからコーヒーが入っているらしき缶を取り出す。
「さすがに豆挽くところからか。まぁ仕方ねーな」
と言いながら、司はケトルに水を入れて沸かし始めた。
「そうだ。冷蔵庫何入ってるか見といて」
司はミルに豆をいれながら私にそう言う。
え?空じゃないの?
なんて思いながら開けてみると、予想以上にぎっしりと食品が入っている。
まるで、人の家の冷蔵庫を覗いてしまったような気分だ。
「何か……物凄くたくさん入ってるんだけど」
「ん?あぁ。思ったより入ってんな。ま、普通に食ってりゃなくなるだろ」
私の隣で冷蔵庫を覗き込んで司はそう言う。
確かにホテルじゃない分、食べるものは自分達でなんとかしなきゃいけない。3食ずっと外に出るより、ここで何か作った方が経済的だし気楽だ。
それにしても……ハムにローストビーフかな?とにかく野菜は何処?な冷蔵庫だ。日持ちしないから?
そんな事を思いながら扉を閉めた。
司はビーカーにペーパーをセットして、コーヒーを入れ始めている。
家ではコーヒーメーカーを使っているから手で入れている姿は珍しい。
私は司が立つテーブルの向かい側に座ってその姿を眺めた。
「なんかサマになってるけど、やってたの?」
両手で頬杖を付いて司を見上げる。
「ロイに……ここのオーナーに教えられた。っつっても結構な大雑把っぷりだったけどな」
「ふーん……」
何となく楽しそうな顔をして司は言う。
ここでの6年の間、司はいろんな出会いをしてきて、きっとそれは自分が思っている以上に実りあるものだったんじゃないかな?なんてその顔を見て思う。
それを少し羨ましく思いながら、司の姿を見つめた。
お湯を注ぎ終わると、司は食器棚に向かいカップを取り出す。
「何か食べるもんねーかな?」
棚に向かったまま、司はゴソゴソと物色している。
何か見つけたのか、箱を手に戻ってきた。そしてカップに淹れたてのコーヒーを注ぐとテーブルについた。
「ほら。熱いから気をつけろよ?」
そう言って差し出されたカップの中身は、やっぱりと言うべきかかなり薄い。
こちらでは薄めの、所謂アメリカンと言われているようなコーヒーが好まれるとかで、すっかりそれに慣れてしまった司は、家では薄めのコーヒーを飲んでいる。
お茶のように飲んでいるから、家では夕方からカフェインレスに切り替えているのだ。
「何持ってるの?」
袋に入っているそれを、司は脇に抱えていた。
「あぁ。薪だ」
そう言って暖炉の前まで来ると、それをそのまま放り込んだ。
どうするのか見守っていると、司はそのまま立ち上がりこちらを向く。
「つけるのは後にするか。どうせ飾りみたいなもんだし」
「え?飾りなの?」
確かに空調が効き始めた部屋の中は、小さな暖炉一つで温まるとは思えない広さだ。
「そ。オーナーの趣味」
そう言いながら司はソファに座ったままの私の隣に座った。
「そろそろいいだろ」
体を私の方に向けて司は悪巧みを思いついたような顔して、突然私の足を持ち上げた。
「へっ?何?」
持ち上げられた反動で、背もたれに背中を預けていなかった私の体は向こう側へ倒れ込む。
「何かいけない事してる気分だよな」
なんて含み笑いをしながら私の右足首を掴むとブーツのファスナーを下ろしにかかる。
「気分じゃなくてやってるじゃない!自分で脱ぐから!」
そう言いながら上体を起こそうとするが、足を持ち上げられている所為で、もがくだけになってしまう。
「別にいいじゃねーの。何か楽しいし」
司は嬉々としながらその行為をそのまま続けている。
「全然楽しくない!どんな罰ゲームなの⁈」
声を荒げるように司に言っても、全く聞き耳を持つ事はなく、寧ろ「いや、ご褒美だろ。これ」なんてより一層口の端を上げて笑う。
そうしているうち右足に解放感が訪れて、脱がされたブーツはその辺りに投げられて、今度は左足首を掴まれた。
もう抵抗しても無駄だ……
私は諦めて、されるがままにその行為を眺めていた。
両足が靴から解放され、やっとこの羞恥プレイから解放される……と思ったのも束の間、今度はそのまま司にのしかかられた。
「ちょっと!何やってんのよ!」
「ん~?まだ何もしてねーけど?それとも今からやる?」
押し返そうと思ったのに、先に手首を捕まえられ動けない。それをいいことに、司はわざと私の耳元で囁くように言っている。
「しない……からっ!今したら、こっちにいる間は一緒の部屋で寝ないからね!」
司から逃れるように顔を背けて言うと、「ちぇっ。残念」と言葉通り残念そうに言ってから、私の頰に唇を落とした。
「しゃーねーな。コーヒーでも入れるか。キッチンの物も好きに使っていいって言われてるしな。どうせあの人の事だ。俺好みのもん用意してくれてるだろ」
そう言って司は起きあがり、私はホッとした。
スリッパに履き替えて、司と一緒にキッチンへ向かう。やっぱりここも無駄に広い。
司は当たり前のように戸棚を開けて、そこからコーヒーが入っているらしき缶を取り出す。
「さすがに豆挽くところからか。まぁ仕方ねーな」
と言いながら、司はケトルに水を入れて沸かし始めた。
「そうだ。冷蔵庫何入ってるか見といて」
司はミルに豆をいれながら私にそう言う。
え?空じゃないの?
なんて思いながら開けてみると、予想以上にぎっしりと食品が入っている。
まるで、人の家の冷蔵庫を覗いてしまったような気分だ。
「何か……物凄くたくさん入ってるんだけど」
「ん?あぁ。思ったより入ってんな。ま、普通に食ってりゃなくなるだろ」
私の隣で冷蔵庫を覗き込んで司はそう言う。
確かにホテルじゃない分、食べるものは自分達でなんとかしなきゃいけない。3食ずっと外に出るより、ここで何か作った方が経済的だし気楽だ。
それにしても……ハムにローストビーフかな?とにかく野菜は何処?な冷蔵庫だ。日持ちしないから?
そんな事を思いながら扉を閉めた。
司はビーカーにペーパーをセットして、コーヒーを入れ始めている。
家ではコーヒーメーカーを使っているから手で入れている姿は珍しい。
私は司が立つテーブルの向かい側に座ってその姿を眺めた。
「なんかサマになってるけど、やってたの?」
両手で頬杖を付いて司を見上げる。
「ロイに……ここのオーナーに教えられた。っつっても結構な大雑把っぷりだったけどな」
「ふーん……」
何となく楽しそうな顔をして司は言う。
ここでの6年の間、司はいろんな出会いをしてきて、きっとそれは自分が思っている以上に実りあるものだったんじゃないかな?なんてその顔を見て思う。
それを少し羨ましく思いながら、司の姿を見つめた。
お湯を注ぎ終わると、司は食器棚に向かいカップを取り出す。
「何か食べるもんねーかな?」
棚に向かったまま、司はゴソゴソと物色している。
何か見つけたのか、箱を手に戻ってきた。そしてカップに淹れたてのコーヒーを注ぐとテーブルについた。
「ほら。熱いから気をつけろよ?」
そう言って差し出されたカップの中身は、やっぱりと言うべきかかなり薄い。
こちらでは薄めの、所謂アメリカンと言われているようなコーヒーが好まれるとかで、すっかりそれに慣れてしまった司は、家では薄めのコーヒーを飲んでいる。
お茶のように飲んでいるから、家では夕方からカフェインレスに切り替えているのだ。
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