136 / 247
32 side T
1.
しおりを挟む
睦月が市販のルーの箱に書かれた通りに作ったと言うシチューを食べ、俺達は早めにベッドに入った。
2週間後にはもうニューヨークにいる事を考えると、そろそろ瑤子を向こうの時差に慣らしておいた方がいいだろう。
少しずつ早く寝て早く起きる。これだけの事だが、この寒い冬の時期に早く起きるのは中々難しいだろう。
「明日からちゃんと早めに起きられたら俺の話してやるよ」
布団の中で瑤子を抱きしめながら、俺がそう言うと瑤子は顔を上げた。
「じゃあ……頑張る。何聞こうかなぁ。小さい頃の話聞きたいな」
そう言って、少し眠そうな顔をして笑う。
「あー……昔過ぎて忘れてるかも知れねーけど、夢の中で思い出しとくわ」
「うん……。きっと……可愛かったんだろうなぁ……。会ってみたかった……な……」
そう言って、瑤子は眠りに落ちた。
「それは俺の台詞だ」
小さく呟いて、眠る瑤子の額に軽くキスを落とす。
こうやって、安心したように眠るその顔を見ているだけで、俺も何処か安心したような気持ちになる。
まどかに一体何を聞いたんだろうか。まぁ、なんだかんだで一応俺の味方でいてくれた姉の事だ。今更俺の不利になるような事を言ったりはしないだろう。
歳が7つ離れているし、高校卒業と同時に結婚して家を出て行った所為で、まどかと過ごした記憶は小学生の頃までだ。
だが思い返せば、その時も、今も、俺の事を気にかけてくれているのだと思う。
この世に1人しかいない大事な姉と、何よりも大事な女が仲良くするのも悪くはないか
そう思いながら俺も眠りについた。
ベッドボードに置いてあったスマホのアラームに起こされる。
時間は6時。いつも7時過ぎに起きる事を考えると1時間早い。これから先、来週1週間は特に、仕事をしながら少しずつ時間の調整をしなくてはならない。
まぁ、こうしとかなきゃ、俺はともかく瑤子の方が向こうに着いた途端に時差ぼけで何もできそうにないから仕方ねーよな、と思いながら、まだ眠っている瑤子を起こした。
「ん~?なぁに?」
まだ寝ぼけているのか、目を瞑ったまま瑤子は言う。
「ほら。起きろ?今日から早く起きろっつっただろ?」
「やだぁ。まだ寝る」
そう言って瑤子は布団に潜り込む。
初日からこれじゃあ先が思いやられるぞ……
そう思いながら、俺は思い切り布団を剥ぎ取る。
「寒いっー!」
恨めしそうに俺を見上げる瑤子に、笑いながら言う。
「ほら、遠出してどっかで朝飯でも食おーぜ」
渋々瑤子は「分かったよぉ」と身を縮こませながら答えた。
「言っとくが、車の中で寝るなよ。早起きした意味ねーから」
車に乗り込み俺がそう釘を刺すと、瑤子は「え~……」と不服そうな顔を見せる。
放っておいたらすぐに寝てしまいそうな勢いの瑤子に、「話聞きたいんだろ?」とシートベルトをしながら俺は言った。
「うん。じゃあ……前に百合さんが話してたじゃない?司を着せ替え人形にして遊んだって。あれ、何だったの?」
そんな事覚えてたのかと思いながら車のエンジンをかける。
「あれな。何才くらいだっけな」
車を走らせて駐車場を出ると、起きた頃にはまだ薄暗かった空は、薄い青色が美しい空に変わっていた。
今日は晴天。その分よく冷え込んでいた。まだ温まっていない車内で、瑤子は家から持って来た膝掛けに寒そうに包まっている。
土曜日の早朝だけあって、まだ車は少ない。さて、どこまで走るかな?と思いながらも、適当に浮かんだ方面に向かう。
その間、まず瑤子に尋ねられた話を始めた。
「百合さん、もう中学生の頃には自分で服縫える人でさ。あれ、俺が小学生になったばかりだったかな。服を作ってくれてた」
「へー。さすが百合さんだね!どんなの?」
「普通にフォーマルスーツ。それ希海にやったしな。七五三で着るっつーから」
「えっ?凄っ!」
俺の方に顔を向けて瑤子は驚いている。確かに、その時は何も思わなかったが、今となれば百合さんの腕の凄さを思い知っている。
「その時の写真はないの?見たい!」
どうしてこうも俺の昔の写真を見たがるんだよと思いながら、
「まだあるんじゃねーの?実家に」
と答えた。
「そっか。実家かぁ……」
そう瑤子は呟いた。
俺が寄り付かない場所にある事を残念がっているのだろうか。まどかに頼んだら……いや、今なら自分で行けと言われそうだなと思い直した。
「そのうち取りに行ける機会もあるだろ。そんなに見たいか?」
「見たいよ!私の知らない司はどんなだったのかな……とか思うし」
最後は口籠るようにそう言う。
確かにまぁ、知りたい気持ちは分からないでもない。
「俺はお前の見たいけど?ないの?」
「えっ?私のはいいよ!見ても楽しくないし!」
前を向いていた視線をこちらに寄越して慌ててそう瑤子は言った。
「じゃあ俺のも楽しくない」
素っ気なくそう言うと、おそらくちょっとだけ悔しそうな顔をしているだろう。瑤子は「うっ」っとだけ声を漏らすと黙った。
「知りたいって気持ちはお互い様じゃね?」
タイミングよく赤信号に引っかかり、俺は瑤子の方を向く。
「確かに……その通り……です」
照れたように顔を赤らめている瑤子を見て俺はふっと息を漏らした。
2週間後にはもうニューヨークにいる事を考えると、そろそろ瑤子を向こうの時差に慣らしておいた方がいいだろう。
少しずつ早く寝て早く起きる。これだけの事だが、この寒い冬の時期に早く起きるのは中々難しいだろう。
「明日からちゃんと早めに起きられたら俺の話してやるよ」
布団の中で瑤子を抱きしめながら、俺がそう言うと瑤子は顔を上げた。
「じゃあ……頑張る。何聞こうかなぁ。小さい頃の話聞きたいな」
そう言って、少し眠そうな顔をして笑う。
「あー……昔過ぎて忘れてるかも知れねーけど、夢の中で思い出しとくわ」
「うん……。きっと……可愛かったんだろうなぁ……。会ってみたかった……な……」
そう言って、瑤子は眠りに落ちた。
「それは俺の台詞だ」
小さく呟いて、眠る瑤子の額に軽くキスを落とす。
こうやって、安心したように眠るその顔を見ているだけで、俺も何処か安心したような気持ちになる。
まどかに一体何を聞いたんだろうか。まぁ、なんだかんだで一応俺の味方でいてくれた姉の事だ。今更俺の不利になるような事を言ったりはしないだろう。
歳が7つ離れているし、高校卒業と同時に結婚して家を出て行った所為で、まどかと過ごした記憶は小学生の頃までだ。
だが思い返せば、その時も、今も、俺の事を気にかけてくれているのだと思う。
この世に1人しかいない大事な姉と、何よりも大事な女が仲良くするのも悪くはないか
そう思いながら俺も眠りについた。
ベッドボードに置いてあったスマホのアラームに起こされる。
時間は6時。いつも7時過ぎに起きる事を考えると1時間早い。これから先、来週1週間は特に、仕事をしながら少しずつ時間の調整をしなくてはならない。
まぁ、こうしとかなきゃ、俺はともかく瑤子の方が向こうに着いた途端に時差ぼけで何もできそうにないから仕方ねーよな、と思いながら、まだ眠っている瑤子を起こした。
「ん~?なぁに?」
まだ寝ぼけているのか、目を瞑ったまま瑤子は言う。
「ほら。起きろ?今日から早く起きろっつっただろ?」
「やだぁ。まだ寝る」
そう言って瑤子は布団に潜り込む。
初日からこれじゃあ先が思いやられるぞ……
そう思いながら、俺は思い切り布団を剥ぎ取る。
「寒いっー!」
恨めしそうに俺を見上げる瑤子に、笑いながら言う。
「ほら、遠出してどっかで朝飯でも食おーぜ」
渋々瑤子は「分かったよぉ」と身を縮こませながら答えた。
「言っとくが、車の中で寝るなよ。早起きした意味ねーから」
車に乗り込み俺がそう釘を刺すと、瑤子は「え~……」と不服そうな顔を見せる。
放っておいたらすぐに寝てしまいそうな勢いの瑤子に、「話聞きたいんだろ?」とシートベルトをしながら俺は言った。
「うん。じゃあ……前に百合さんが話してたじゃない?司を着せ替え人形にして遊んだって。あれ、何だったの?」
そんな事覚えてたのかと思いながら車のエンジンをかける。
「あれな。何才くらいだっけな」
車を走らせて駐車場を出ると、起きた頃にはまだ薄暗かった空は、薄い青色が美しい空に変わっていた。
今日は晴天。その分よく冷え込んでいた。まだ温まっていない車内で、瑤子は家から持って来た膝掛けに寒そうに包まっている。
土曜日の早朝だけあって、まだ車は少ない。さて、どこまで走るかな?と思いながらも、適当に浮かんだ方面に向かう。
その間、まず瑤子に尋ねられた話を始めた。
「百合さん、もう中学生の頃には自分で服縫える人でさ。あれ、俺が小学生になったばかりだったかな。服を作ってくれてた」
「へー。さすが百合さんだね!どんなの?」
「普通にフォーマルスーツ。それ希海にやったしな。七五三で着るっつーから」
「えっ?凄っ!」
俺の方に顔を向けて瑤子は驚いている。確かに、その時は何も思わなかったが、今となれば百合さんの腕の凄さを思い知っている。
「その時の写真はないの?見たい!」
どうしてこうも俺の昔の写真を見たがるんだよと思いながら、
「まだあるんじゃねーの?実家に」
と答えた。
「そっか。実家かぁ……」
そう瑤子は呟いた。
俺が寄り付かない場所にある事を残念がっているのだろうか。まどかに頼んだら……いや、今なら自分で行けと言われそうだなと思い直した。
「そのうち取りに行ける機会もあるだろ。そんなに見たいか?」
「見たいよ!私の知らない司はどんなだったのかな……とか思うし」
最後は口籠るようにそう言う。
確かにまぁ、知りたい気持ちは分からないでもない。
「俺はお前の見たいけど?ないの?」
「えっ?私のはいいよ!見ても楽しくないし!」
前を向いていた視線をこちらに寄越して慌ててそう瑤子は言った。
「じゃあ俺のも楽しくない」
素っ気なくそう言うと、おそらくちょっとだけ悔しそうな顔をしているだろう。瑤子は「うっ」っとだけ声を漏らすと黙った。
「知りたいって気持ちはお互い様じゃね?」
タイミングよく赤信号に引っかかり、俺は瑤子の方を向く。
「確かに……その通り……です」
照れたように顔を赤らめている瑤子を見て俺はふっと息を漏らした。
0
お気に入りに追加
293
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
ただいま冷徹上司を調・教・中!
伊吹美香
恋愛
同期から男を寝取られ棄てられた崖っぷちOL
久瀬千尋(くぜちひろ)28歳
×
容姿端麗で仕事もでき一目置かれる恋愛下手課長
平嶋凱莉(ひらしまかいり)35歳
二人はひょんなことから(仮)恋人になることに。
今まで知らなかった素顔を知るたびに、二人の関係は近くなる。
意地と恥から始まった(仮)恋人は(本)恋人になれるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる