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「誰か……来たよっ!!」
そう言って抗議するのに、胸を動く手は止まらない。
そうしてるうちに、また音がなる。
「司っ!!出なさいよ!」
ようやく手が離れると面倒くさそうな顔で、
「しゃーねーなぁ。ったく誰だよ」
と言いながら部屋を出て行く。
私はその隙にとばかりに寝室に飛び込んだ。
慌てて下着を付け直して、服を脱いで着替える。
さすがに『もう寝ます』みたいなゆるゆるな格好もどうかと思って、コンビニ行けるくらいにはちゃんとした格好にした。
閉めていた扉のそばまで近づくと、廊下から何か言い争うような声が聞こえてきた。
えっ?どうしたんだろ……
私はそぉーっと扉を開けて、廊下を盗み見た。
「だから、何でお前がここにいんだよ⁈」
「えー!酷くない?その言い草ー!」
あ、あれ?この声何処かで聞いたような……
その人を確かめようと私は少し顔を出す。見ると玄関には台車があって、そこにはいくつか箱が乗っている。
そして、そこに立っていたのは……
「あ、やっほー!長森さん。お邪魔してまーす!」
物凄く調子のいい口調でヒラヒラ手を振る岡田さんだった。
「えっ?岡田さん?」
私は玄関に出ていくと、微妙に機嫌の悪そうな顔をしている司の横に並んだ。
「昨日は大変失礼いたしました。改めまして、長森瑤子と申します」
そういえば昨日は一方的にこちらが名前を知っただけで、自分の名前を告げてないや……とつい仕事モードでそう言って礼をする。
「岡田睦月です!これからは睦月って読んでね、瑤子ちゃん!」
目尻に笑いじわを作りながらニコニコ笑う岡田さんに圧倒されながら、私は「はぁ……」と気の抜けた返事をするしかなかった。
そんな短い会話を終えると、後ろから司の両腕が回ってきて、私は動けないようガッチリホールドされた。
「で、何でこの時間なんだよ。来るなら昼間に来いよ!」
私の頭上から司の不機嫌そうな声。
そんな様子に物怖じすることなく、と言うより岡田さんは笑いを噛み殺したような顔になる。
「昼間に買いに行ってたからだろ~?要らないの?仕事用のパソコン」
「要ります!」
速攻私が答えると、「だよねー?」と私に同意を求めるように首を横に傾けた。
「あ、どうぞ、上がって下さい」
私が岡田さんにそう声をかけると、「あ?」と司が声を出した。
私は身をよじりながら司を見上げる。
「今日私が送ったメール!見てくれた?」
すると、物凄~くバツの悪そうなしかめっ面で、
「見て、ま……せん」
と司は答えた。
「やっぱり⁈じゃあ尚更、岡田さんよろしくお願いします」
「はーい!」
気前の良い返事と共に岡田さんは箱を持ち上げ、そそくさと奥に向かって行った。
岡田さんは一番奥のリビングに向かうと、テレビが設置されている壁の反対側にある壁面収納に向かった。
まだ何も置かれていなくて、扉付きの棚とそうでない棚が並ぶダークブラウンの収納。
岡田さんはその前にある空間の床にパソコンの箱を置くと、収納から板を引っ張り出した。
「へー。そこ、そんな風になってたのか」
「ライティングテーブル仕様なんだけどさー。まあパソコン置いたらもうしまえないけどね」
司も渋々ながらまだ残っている箱を運んで来て、岡田さんにそう話しかけている。
岡田さんは机だけセットすると、箱を開けながらふっと私たちの方を向いた。
「セッティング時間かかるし、俺のことは気にせずお二人さんは続きをどーぞ?」
さも当たり前のようにそう言う岡田さんに、さっきまでの事を思い出してカァッと顔が熱くなる。
「えっ!あのっ」
「あれ?違った?司が不機嫌なのは、俺がいいところで邪魔したからかなー?って思ったんだけど」
平然とそう言われて、顔から火が出そうだ。
すると、司が私のおでこをピンと指で跳ねた。
「ばーか。揶揄われてんの!お前は飯、今から用意するのか?」
「……もうちょっと後にする」
私が答えると、手首を掴まれて、
「じゃあ向こうで俺の片付けでも眺めてろ」
と不機嫌な様子で歩き出す。
背中越しに「ごゆっくり~」なんて岡田さんの声を聞きながら。
「お前。睦月に何つー顔見せてんだ」
部屋に入ると、溜め息と共にそう司は吐き出した。
私が何の事かと不思議そうに見上げると、一段と溜め息を吐かれてしまう。
「自覚ないのかよ……」
そんな事言われても心当たりはなく、より不思議そうな顔して首を傾げた。
「そんな唆る顔を睦月に見せんなよ」
司は私の顎を持ち上げて、唇をなぞってから、少し間が空いて額にチュッと軽くキスを落とす。
「俺以外にそんな可愛い顔見せるな」
そおっと胸の中に収められて、そんな悩ましげな様子の声を聞く。
私は司を安心させるように、背中に両腕を回して、ぎゅうっと抱きしめた。
「可愛いかどうかは別として……。心配しなくても大丈夫だよ?きっと岡田さんにも、他の人にも目を向けることないから。今は司だけを見てるよ?」
そうやって素直に気持ちを伝える。
急加速している自分の気持ちは抑えられない。
一緒にいるだけで楽しくて、安心できて、そして幸せだ。
できるものなら、これからもずっと一緒にいたいと願ってしまう。
それはきっと叶わないだろうから、今、この瞬間を大事にしたい。
「だから……安心してね」
そう言って胸に顔を埋める。
いつもの嗅ぎ慣れた、そしてとても心地の良い香りがそこから漂ってきた。
そう言って抗議するのに、胸を動く手は止まらない。
そうしてるうちに、また音がなる。
「司っ!!出なさいよ!」
ようやく手が離れると面倒くさそうな顔で、
「しゃーねーなぁ。ったく誰だよ」
と言いながら部屋を出て行く。
私はその隙にとばかりに寝室に飛び込んだ。
慌てて下着を付け直して、服を脱いで着替える。
さすがに『もう寝ます』みたいなゆるゆるな格好もどうかと思って、コンビニ行けるくらいにはちゃんとした格好にした。
閉めていた扉のそばまで近づくと、廊下から何か言い争うような声が聞こえてきた。
えっ?どうしたんだろ……
私はそぉーっと扉を開けて、廊下を盗み見た。
「だから、何でお前がここにいんだよ⁈」
「えー!酷くない?その言い草ー!」
あ、あれ?この声何処かで聞いたような……
その人を確かめようと私は少し顔を出す。見ると玄関には台車があって、そこにはいくつか箱が乗っている。
そして、そこに立っていたのは……
「あ、やっほー!長森さん。お邪魔してまーす!」
物凄く調子のいい口調でヒラヒラ手を振る岡田さんだった。
「えっ?岡田さん?」
私は玄関に出ていくと、微妙に機嫌の悪そうな顔をしている司の横に並んだ。
「昨日は大変失礼いたしました。改めまして、長森瑤子と申します」
そういえば昨日は一方的にこちらが名前を知っただけで、自分の名前を告げてないや……とつい仕事モードでそう言って礼をする。
「岡田睦月です!これからは睦月って読んでね、瑤子ちゃん!」
目尻に笑いじわを作りながらニコニコ笑う岡田さんに圧倒されながら、私は「はぁ……」と気の抜けた返事をするしかなかった。
そんな短い会話を終えると、後ろから司の両腕が回ってきて、私は動けないようガッチリホールドされた。
「で、何でこの時間なんだよ。来るなら昼間に来いよ!」
私の頭上から司の不機嫌そうな声。
そんな様子に物怖じすることなく、と言うより岡田さんは笑いを噛み殺したような顔になる。
「昼間に買いに行ってたからだろ~?要らないの?仕事用のパソコン」
「要ります!」
速攻私が答えると、「だよねー?」と私に同意を求めるように首を横に傾けた。
「あ、どうぞ、上がって下さい」
私が岡田さんにそう声をかけると、「あ?」と司が声を出した。
私は身をよじりながら司を見上げる。
「今日私が送ったメール!見てくれた?」
すると、物凄~くバツの悪そうなしかめっ面で、
「見て、ま……せん」
と司は答えた。
「やっぱり⁈じゃあ尚更、岡田さんよろしくお願いします」
「はーい!」
気前の良い返事と共に岡田さんは箱を持ち上げ、そそくさと奥に向かって行った。
岡田さんは一番奥のリビングに向かうと、テレビが設置されている壁の反対側にある壁面収納に向かった。
まだ何も置かれていなくて、扉付きの棚とそうでない棚が並ぶダークブラウンの収納。
岡田さんはその前にある空間の床にパソコンの箱を置くと、収納から板を引っ張り出した。
「へー。そこ、そんな風になってたのか」
「ライティングテーブル仕様なんだけどさー。まあパソコン置いたらもうしまえないけどね」
司も渋々ながらまだ残っている箱を運んで来て、岡田さんにそう話しかけている。
岡田さんは机だけセットすると、箱を開けながらふっと私たちの方を向いた。
「セッティング時間かかるし、俺のことは気にせずお二人さんは続きをどーぞ?」
さも当たり前のようにそう言う岡田さんに、さっきまでの事を思い出してカァッと顔が熱くなる。
「えっ!あのっ」
「あれ?違った?司が不機嫌なのは、俺がいいところで邪魔したからかなー?って思ったんだけど」
平然とそう言われて、顔から火が出そうだ。
すると、司が私のおでこをピンと指で跳ねた。
「ばーか。揶揄われてんの!お前は飯、今から用意するのか?」
「……もうちょっと後にする」
私が答えると、手首を掴まれて、
「じゃあ向こうで俺の片付けでも眺めてろ」
と不機嫌な様子で歩き出す。
背中越しに「ごゆっくり~」なんて岡田さんの声を聞きながら。
「お前。睦月に何つー顔見せてんだ」
部屋に入ると、溜め息と共にそう司は吐き出した。
私が何の事かと不思議そうに見上げると、一段と溜め息を吐かれてしまう。
「自覚ないのかよ……」
そんな事言われても心当たりはなく、より不思議そうな顔して首を傾げた。
「そんな唆る顔を睦月に見せんなよ」
司は私の顎を持ち上げて、唇をなぞってから、少し間が空いて額にチュッと軽くキスを落とす。
「俺以外にそんな可愛い顔見せるな」
そおっと胸の中に収められて、そんな悩ましげな様子の声を聞く。
私は司を安心させるように、背中に両腕を回して、ぎゅうっと抱きしめた。
「可愛いかどうかは別として……。心配しなくても大丈夫だよ?きっと岡田さんにも、他の人にも目を向けることないから。今は司だけを見てるよ?」
そうやって素直に気持ちを伝える。
急加速している自分の気持ちは抑えられない。
一緒にいるだけで楽しくて、安心できて、そして幸せだ。
できるものなら、これからもずっと一緒にいたいと願ってしまう。
それはきっと叶わないだろうから、今、この瞬間を大事にしたい。
「だから……安心してね」
そう言って胸に顔を埋める。
いつもの嗅ぎ慣れた、そしてとても心地の良い香りがそこから漂ってきた。
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