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12 side T

3.

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名残り惜しく思いながら唇を放すと、瑤子は何処か翳りのある表情で俺を見ていた。

「帰ったらまた連絡する」
「う……ん……」

そして歯切れの悪い返事をすると視線を落とした。

「なんだ、寂しいのか~?」

わざと茶化すようにそう言って、瑤子の頭をクシャクシャに撫でると、「もう!やめてよ!」といつもの迷惑そうな顔で手を振り払われた。

「1ヶ月顔見なくて済むなんて、清々するわよ!」

そっぽを向いてそう言う瑤子を俺は腕に閉じ込めて「俺はそうでもないんだけどな」と、聞こえないくらい小さな声で呟いた。
そしてすぐさま腕を離し、瑤子と向き合った。

「悪かったな、付き合わせて。もう俺は行くから、ここでいいぞ?」

何事もなかったような顔をして、俺はそう告げると、瑤子は腑に落ちないと言いたげな顔をして俺の方を見ていた。

「タクシー乗るなら俺が出すけど?」
「……ここからなら電車一本で帰れるから大丈夫……」

俺は「そうか」とだけ返して瑤子の唇を指でそっとなぞると、何か言いたげな顔で少し唇を開くが、またキュッと閉じた。

「じゃあな」

俺は踵を返して瑤子に背を向ける。後ろ髪を惹かれながらも、今はこの状況をどうする事もできない。だから振り向く事なくその場から離れた。瑤子が一体、どんな顔をしているのか知ることもないまま。


何となく憂鬱な気分のまま飛行機は定刻通りに飛び立ち、夜の灯りが小さくなって行くのを眺めた。

これから1ヶ月でこのほとぼりも冷めるのだろうか?
それとも、もっと焦がれるのだろうか。
どう転ぶかなど自分にも分からない。

ただ言える事は、今は……焦がれてやまない、と言うことだけだった。

そんな事を考えている自分自身を嘲るように自虐的にふっと息を漏らす。

ただのセフレだとしても、一緒にいてくれるだけでいい。

そんな事を思いながら、俺は目を閉じた。


◆◆


「おーい!司ー!」

到着ゲートの向こうで、元気よく手を振るのは睦月だ。

こっちは慣れているはずの航路なのにあまり寝られず、珍しくげっそりしたまま睦月の方に向かうと、俺の顔を見るなり笑い出した。

「何だよその顔ー!」

コイツの笑いの沸点が低いのは知っているが、人の顔見るなり笑うなよ、全く。

「うるせー!!とっとと家に連れて帰れ。眠い!」
「はいはい」

車のキーを指でクルクル回しながら、睦月は軽い返事をした。

見慣れた空港の中を通り抜けて、パーキングに向かうと睦月が借りてきた車に乗り込む。

「にしても、何か不機嫌そうだけど。この前のセフレちゃんとは上手くいってないわけ?」
「……セフレじゃねーよ……」

ぼんやりしすぎてつい本音が溢れる。セフレだと言ったのは、ほんの少し前の自分だったはずなのに。


15年前、突然助手にしてくれと押しかけ女房ならぬ、押しかけアシスタントになった睦月は、公私ともに俺の事を知っているのかも知れない。

色々なしがらみから逃げるようにアメリカこっちに来た俺に、「乗りかかった船だしね」と付いて来た。

そこから俺の右腕として一番近くにいたヤツになった。

だがお互いのプライベートにズカズカ踏み込むことはないし、仕事以外の事は2人とも自由にしていた。

不特定多数と遊び回る俺に対して、早く結婚したいとじっくり誰かと付き合おうとする睦月。
だからと言って、お互いを否定する事は無く、まあ、尊重はし合っていた。
……茶化す事はあっても。

だいたい、何かにつけてすぐ笑う、今ではすっかり目の横に笑いじわの刻まれたこの男は、すぐ振られるのだ。理由はいつもほぼ同じ。

『優しすぎる』から。

「納得出来なーい!!」

と振られるたび毎回やけ酒の睦月に、

「そりゃ、お前。付き合ってる女とそうじゃない女を区別しないからそーなるんだ」

と俺は呆れながら言った事があった。





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