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6 side T

1.

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俺はその時荒れていた。大荒れだ。

自分の泊まる部屋に戻ると乱暴に扉を閉め、その勢いでカウンターに並ぶ酒瓶の前まで行くと、ウイスキーを適当にグラスに注いだ。
それに氷も入れずに一気に呷ると、喉から胃にかけて、刺激のある熱さが過ぎるのを感じながら、空になったグラスをダンっ!とその場に置いた。


事の発端は……今日の朝からあった香緒の撮影。
いや、それだけだったらまあ、楽しい1日だったで終わっていたはずだ。

香緒に会うのは、俺が海外に拠点を置くために日本を離れて以来だから、6年ぶりだ。
日本を離れる前、俺は希海に「誰の目にも止まるくらい有名にしてやれ」と言った。そしてその通りに、希海が撮る香緒は、今ではビルの屋上看板を飾るほどに成長していた。

成長した俺の天使をこの手で煽って撮影できるとなると、浮かれもする。無理矢理に開始時間を早めにして、空いた時間は香緒のために使おうと思っていた。

撮影中香緒は、やはり響とはキャリアが違うところを見せつけてくれた。
俺の特殊な撮影方法にも、当たり前のようについてきて、まさにコンセプト通りの顔を見せた。

香緒は、一体いつの間にこんな顔が出来るようになったんだ?

俺はふとそう思う。
希海が撮る香緒は、俺から言わせりゃ色気は皆無だ。それは、2人の関係が今でも大事な兄と弟から変わっていないことを表している。
そして6年前、俺の前でもここまでの顔は見せなかった。
何が香緒を変えたのか、俺は興味を惹かれた。

「視線、あと5ミリ下な」

香緒にキスするかのように顎を持ち上げて、わざと耳元でそう囁く。香緒はそんな俺の行為に動じる事なくそれに従った。

だが、後ろに下がりカメラを構えると、明らかに瞳に動揺の色が見えた。

……?一体この瞬間に何があった?

俺の指示も耳に入らないくらい香緒の表情が曇る。

俺はそれに気付いてないフリをして「チェックするから休憩入っていいぞ」と香緒に声をかけモニターに向かった。

俺はあえてスタッフを呼び、モニターを見ている様子を香緒に見せつける。香緒は、俺に気にされているとも知らず、結構な勢いでスタジオを後にして行った。

俺はスタッフに断り、香緒の後を追う。階段の入り口に消えていったところまでは見ていたが、控室のある上へ行ったのか、1階に下りたのか、一か八かで下りると廊下に話し声が聞こえていた。

どうやら俺が前に瑤子を連れ込んだ自販機スペースにいるようで、俺はすぐそばまで寄ると隠れて話を立ち聞きした。

相手の男とやってる事が、前の俺と一緒なのには笑う。だが、こいつが香緒を変えたのか……とそいつを見て少し嫉妬もした。

まあ、その後の俺の行動は褒められたものではないが、これで亀裂の入る位なら香緒には相応しくない。

俺は香緒が「友達」と言い張るそいつの目の前で香緒を拉致し連れ回した。

ドライブがてら海沿いを走り、最高の眺望のレストランでランチにする。香緒はしぶしぶ従っていたが、それでも何故かその顔には余裕がある。
まだ早い時間だったし、別に下心など無く俺の泊まるホテルまで香緒を連れて戻ると、そこで希海と共にいた香緒の友達・・とやらに捕まった。

結局、俺は香緒とそいつの絆を深めるのに一役買っただけ……だったが、それはそれで俺は安心した。香緒は、希海にも見せる顔とも違う柔らかい顔をそいつに見せていたから。

やっと、そんな顔を見せられる人間に出会えたのかと。



だが、問題はそこからだ。

俺がやり過ぎたせいで、希海は天敵まどかを召喚していた。

それでなくても、日本に帰ってから一度も家に顔を見せない俺に、『いつになったら顔見せるつもり⁈』と、矢のような催促が来ていた。

ずっとのらりくらりと躱していたが、今日はとうとう逃げも隠れも出来ない状況に陥ってしまった。

あーあ、とうとうここに帰って来ちまったか。

俺は重い足取りで、重厚な造りの、ある意味威圧的な日本家屋の門を潜った。

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