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滅多に……と言うより初めてかかってきた電話に多少パニックになりながら画面をタップする。とは言え、ここで冷静さを欠いてはいけない。

「長森です」

私はいつものような対応で電話に出た。電話がかかってくると言うことは、十中八九なんらかのトラブルが起こっていると言うことだ。

『お前、今どこ?』

電話越しに聞く長門さんの声は、とにかく不機嫌そうだ。

「職場の近くです」

職場から歩ける範囲の店にいたから、職場の近くな事に変わりはない。

『ふーん。今から来れるか?』
「どちらにでしょうか」
『俺の泊まってるところ。覚えてんだろ?部屋が分からないならフロントに伝えておく。とにかく今から来い』

有無を言わさない、威圧的とも感じる物言い。
早速イラ~っとするが、平静を装い私は続けた。

「何かございましたか?」
『何かあったから電話してんだろ。30分待つ。分かったな』

それだけ言うと長門さんは一方的に電話を切った。

はぁー⁈何が30分待つよ!!

通話の表示の消えたスマホを持つ手が怒りで震える。

いい根性してるじゃない。絶対に間に合わせてやるんだから!

私はスマホを鞄に投げ込むと、顔を上げた。
そして、オープントゥのパンプスで早歩きを始めた。



私は部屋の前で、上がりっぱなしの息を整えた。
なんせあれから2駅分、歩き続けた。電車に乗るのも変わらないと思ったのと、頭に血が上ってて、タクシーを使うと言う選択肢がすっぱり抜けていたからだ。

あー……もう汗まみれでどろどろだぁ……。顔も悲惨なんだろうなぁ。なんて、もうどうでもいいか。

ようやく息も落ち着いて、部屋の横のチャイムを押した。

しばらくするとドアが開き、長門さんが見たこともないくらい不機嫌な様子を隠す事なく現れた。

扉の前に立つ私を、長門さんは不躾な視線で眺めると「入れよ」促した。

「失礼します」

そう言って部屋に入ると扉が閉まる。パタンと言う音を合図に突然長門さんが豹変し、私は壁に追いやられた。

背中が思いきり壁に当たり正直痛い。巷で言う壁ドンなんてかわいいものではなく、八つ当たりされているのかと思えるくらいの形相だ。

「なあ、お前、そんな格好して、誰と会ってたわけ?」

見下ろされたまま、いつものような軽さもなく冷たく言い放たれる。

「は?そんな事今関係ありますか?」

私は仕事の話をしに来たのだ。そんな事聞かれる筋合いもない。

「答えられないような相手だったわけ?いい身分だな」

さすがにカチンと来て言い返す。

「大学時代からの友人です!あなたにとやかく言われる筋合いはありません」

その私の言葉を聞いて、眉間にシワを刻みながら長門さんはゆっくり顔を近づけてきた。

「そいつ、男じゃねーだろーな」
「……女性です。私、女子大出身なので」

顔の近さに目を反らしながら私は答えたが、こちらを向けと言わんばかりに顎を持ち上げられた瞬間に、もう唇は塞がれていた。

腰を抱き寄せられ、顎を固定されたまま、噛み付かれているかのような激しいキスに目眩がする。

「ふっっ!んっ!」

逃げることも出来ずにされるがままに口の中を犯されて、息をする間もない。舌が絡みつき、吸われ、もう全身を愛撫されているかのように身体中に電流が走る。力が抜けてゆく私の身体を支えるように、顎から背中に回された腕はより強く私を抱き寄せた。

「んんっっ」

唾液が口の端から漏れ出るのもお構いなしに散々貪られ、ようやく唇が離れると、そこにはいつもの楽しげな笑顔を浮かべた長門さんの顔がある。

「今から俺のストレス解消に付き合えよ」

そう言って不敵に笑っていた。
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