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とりあえず、一番必要なものは日用品だ。手を繋がれたまま進み、目的のコーナーに着く。棚には数々の商品が上から下までみっしり埋まっている。まずはシャンプーの類いがところ狭しと並んでいた。
「どれにする? 自分で決めてね」
「どれがいいとかわかんねぇよ。お前はどれ使ってんだよ」
「なんで私に聞くのよ。特にこだわりなんかないけど……」
いつもは近所のドラッグストアに買いに行くが、特にこれというものはない。全く肌に合わなかったという経験もしたことないし、時々気分で新商品を試したりしている。
ふと目の前を見ると、使ったことのあるブランドの期間限定セット商品の箱が置かれていた。淡いピンク色の容器が可愛い。見た目通り、ローズの香りと書いてあった。
(今度、これ使ってみようかなぁ?)
なんて考えていたら、その箱がスッと持ち上がる。かと思うと、それは目の前のカゴに放り込まれた。
「えっ! これにするの?」
「なんで? 何でもいいんだろ?」
ニヤリと笑うと司は私の手を引き先に進む。
「そうじゃなくて! あなたの……」
引っ張られるように続きながら口籠るが「いいから次行くぞ?」と司は全く気にしていないようだった。
(薔薇の香りのする、顔の良い男なんて……。蝶でも引き寄せるつもり?)
内心呆れながら私は続いた。
そのあとも思いつく限り必要だと思われるものが、どんどんカゴに放り込まれていった。
何故か都度都度、司は私の使っているものを尋ねる。そして、それに答えてないのに私がちょっと見ただけでほぼ正解を掴み取っていた。
「ねぇ。さっきからなんなの? 自分でちゃんと選んでる?」
カゴの中身がまるで私の買い物みたいになっている。自分というものがないのかと呆れ果ててしまう。
「選んでるだろ?」
消耗品のコーナーを過ぎ、雑貨コーナーの周りを見渡しながら司は当たり前のように答える。
「でも……」
まるで、これから同棲でも始めるカップルのような買い物に戸惑う。今日だって泊まるつもりなんてないのに。
「お。ほら、コーヒーカップあったぞ? お前、どれにする?」
そこにはシンプルなものからペアカップまで様々なものが並んでいる。それを見ながら、司はウキウキした様子で私に尋ねた。
「ねぇ……」
「なんだよ?」
戸惑ったままの私は意を決して尋ねる。
「あなた、いつもセフレにこんなことしてるの?」
その質問に、司は顔を顰めた。
「はぁ? なわけねぇだろ。バカなのか」
(じゃあ、私はいったいなんなの?)
返ってきた答えに、より戸惑うしかなかった。
「悪りぃな、荷物持たせて」
必要最低限と思ったものの、ほぼ何も無いところからだとかなりの量になっていた。
帰りには後部座席を埋め尽くすように買ったものが積まれていた。それを駐車場から家まで運ぶのはさすがに一人では無理で、必然的に手伝うことになった。
玄関先にドサリと袋を置くとホッと息を吐く。すでに、ここに帰ってきて安堵している時点でおかしいのだが、なんと言ってももう夜中の二時を回っている。こんな時間に送ってくれと言えるわけもないし、タクシーを使ってまで帰る気力も湧かない。
背に腹は変えられないか、と私は口を開いた。
「あのっ。やっぱり今日、泊めてもらってもいい? 私、ソファで寝られたら充分だし……」
「お前、何言ってんだ?」
司は訝しげに言う。
「ごめん。迷惑なら……」
帰るから、と言いかけたところで司は呆れたように溜め息を吐いた。
「さっきから帰す気ねぇって言ってるだろ。いいからさっさと風呂入ってこい」
「……ごめん……。なさい……」
もしかして怒ってる? と小さくなって謝る。こんな面倒な相手に後悔し始めているんじゃ……と頭をよぎった。
「お前な。なんでそうすぐ謝る。別に悪いことなんてしてねぇだろうが。どっちかっつうと無理に引き留めたのは俺だからな。お前はベッド使え。俺はソファでいい」
吐き捨てるような言いかた。でもその内容は、私を突き放しているわけではない。
また、ごめんなさいと言いそうになり、ハッとして口を噤む。指摘されて気づいてしまう。自分がどうしてすぐに謝ってしまうのかを。
「あり……がと。嫌じゃなかったら、ベッド、一緒に使っても……いい、よ?」
辿々しくそう言う私に、司は笑顔を見せた。
「じゃ、遠慮なく一緒に寝てやる。の、前に一緒に風呂入るぞ? お前待ってたらこっちが寝ちまう」
「……えっ?」
急に楽しげな表情をしたかと思うと司は私の手を引く。
「ほら。いいから来いよ」
「ちょっ! えっ? えっ?」
戸惑っている私をまるっきり無視し、司はそのままバスルーム横のドレッシングルームに入る。
「これに必要なもの入ってるはずだ。自分で出しとけよ? 俺は他のを取ってくる」
手に下げていた袋を洗面台の脇に乗せると司は出て行く。
その袋を覗くと、自分ではカゴに入れた覚えのない化粧品やレディースの着替えに下着まで入っていた。
(いつの間に⁈)
そういえば会計のとき、先に車に戻らされたのはこういうことか……と、してやられた気分になった。
「どれにする? 自分で決めてね」
「どれがいいとかわかんねぇよ。お前はどれ使ってんだよ」
「なんで私に聞くのよ。特にこだわりなんかないけど……」
いつもは近所のドラッグストアに買いに行くが、特にこれというものはない。全く肌に合わなかったという経験もしたことないし、時々気分で新商品を試したりしている。
ふと目の前を見ると、使ったことのあるブランドの期間限定セット商品の箱が置かれていた。淡いピンク色の容器が可愛い。見た目通り、ローズの香りと書いてあった。
(今度、これ使ってみようかなぁ?)
なんて考えていたら、その箱がスッと持ち上がる。かと思うと、それは目の前のカゴに放り込まれた。
「えっ! これにするの?」
「なんで? 何でもいいんだろ?」
ニヤリと笑うと司は私の手を引き先に進む。
「そうじゃなくて! あなたの……」
引っ張られるように続きながら口籠るが「いいから次行くぞ?」と司は全く気にしていないようだった。
(薔薇の香りのする、顔の良い男なんて……。蝶でも引き寄せるつもり?)
内心呆れながら私は続いた。
そのあとも思いつく限り必要だと思われるものが、どんどんカゴに放り込まれていった。
何故か都度都度、司は私の使っているものを尋ねる。そして、それに答えてないのに私がちょっと見ただけでほぼ正解を掴み取っていた。
「ねぇ。さっきからなんなの? 自分でちゃんと選んでる?」
カゴの中身がまるで私の買い物みたいになっている。自分というものがないのかと呆れ果ててしまう。
「選んでるだろ?」
消耗品のコーナーを過ぎ、雑貨コーナーの周りを見渡しながら司は当たり前のように答える。
「でも……」
まるで、これから同棲でも始めるカップルのような買い物に戸惑う。今日だって泊まるつもりなんてないのに。
「お。ほら、コーヒーカップあったぞ? お前、どれにする?」
そこにはシンプルなものからペアカップまで様々なものが並んでいる。それを見ながら、司はウキウキした様子で私に尋ねた。
「ねぇ……」
「なんだよ?」
戸惑ったままの私は意を決して尋ねる。
「あなた、いつもセフレにこんなことしてるの?」
その質問に、司は顔を顰めた。
「はぁ? なわけねぇだろ。バカなのか」
(じゃあ、私はいったいなんなの?)
返ってきた答えに、より戸惑うしかなかった。
「悪りぃな、荷物持たせて」
必要最低限と思ったものの、ほぼ何も無いところからだとかなりの量になっていた。
帰りには後部座席を埋め尽くすように買ったものが積まれていた。それを駐車場から家まで運ぶのはさすがに一人では無理で、必然的に手伝うことになった。
玄関先にドサリと袋を置くとホッと息を吐く。すでに、ここに帰ってきて安堵している時点でおかしいのだが、なんと言ってももう夜中の二時を回っている。こんな時間に送ってくれと言えるわけもないし、タクシーを使ってまで帰る気力も湧かない。
背に腹は変えられないか、と私は口を開いた。
「あのっ。やっぱり今日、泊めてもらってもいい? 私、ソファで寝られたら充分だし……」
「お前、何言ってんだ?」
司は訝しげに言う。
「ごめん。迷惑なら……」
帰るから、と言いかけたところで司は呆れたように溜め息を吐いた。
「さっきから帰す気ねぇって言ってるだろ。いいからさっさと風呂入ってこい」
「……ごめん……。なさい……」
もしかして怒ってる? と小さくなって謝る。こんな面倒な相手に後悔し始めているんじゃ……と頭をよぎった。
「お前な。なんでそうすぐ謝る。別に悪いことなんてしてねぇだろうが。どっちかっつうと無理に引き留めたのは俺だからな。お前はベッド使え。俺はソファでいい」
吐き捨てるような言いかた。でもその内容は、私を突き放しているわけではない。
また、ごめんなさいと言いそうになり、ハッとして口を噤む。指摘されて気づいてしまう。自分がどうしてすぐに謝ってしまうのかを。
「あり……がと。嫌じゃなかったら、ベッド、一緒に使っても……いい、よ?」
辿々しくそう言う私に、司は笑顔を見せた。
「じゃ、遠慮なく一緒に寝てやる。の、前に一緒に風呂入るぞ? お前待ってたらこっちが寝ちまう」
「……えっ?」
急に楽しげな表情をしたかと思うと司は私の手を引く。
「ほら。いいから来いよ」
「ちょっ! えっ? えっ?」
戸惑っている私をまるっきり無視し、司はそのままバスルーム横のドレッシングルームに入る。
「これに必要なもの入ってるはずだ。自分で出しとけよ? 俺は他のを取ってくる」
手に下げていた袋を洗面台の脇に乗せると司は出て行く。
その袋を覗くと、自分ではカゴに入れた覚えのない化粧品やレディースの着替えに下着まで入っていた。
(いつの間に⁈)
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