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七章 手繰り寄せられた運命

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 秋の気配が深まった十月下旬。大智と再会し、早くも三週間ほど経とうとしていた。
 勤務先のビルの最上階にあるカフェテラスのメニューは秋らしいものが増えていて、そこでも季節が変わりゆくのを感じていた。

「由依は洋食?」
「悩んでます。大智さんは和食ですよね? 好きな焼き魚ですし」

 カフェテリアの入り口に置かれた、日替わり定食のサンプルを眺めながら言い合う。
 洋食はキノコとサーモンのクリームパスタで、和食はサンマの塩焼きに炊き込みご飯。どちらも美味しそうで悩んでしまう。

 再会した翌週から、自分の昼休憩と彼のスケジュールが合うときは、一緒にランチをとることになった。
 場所はいつもここだ。ビルの外に二人で行くより、部外者が入って来ることのない場所のほうが安心だからというのが理由だ。
 彼には『気の利いたところに連れて行けなくてごめんね』と謝られたが、自分はそれに首を振った。ほぼすっぴんで、服装もトレーナーにジャージ姿の自分は、この場所でも浮いてしまうくらいなのだから。

「お二人さんは決まった?」

 サンプルをまじまじと見る自分たちに話しかけたのは、大智の先輩弁護士だと言う若木だ。一番初めに彼と待ち合わせしたとき、真っ先に紹介されたのだ。それから時々こうやって、三人で食事をしている。

「はい。やっぱり家であまり食べない焼き魚にします。若木さんは決まったんですか?」
「俺はいつものカツカレーね!」

 最初に会ったときから、若木は明るくて場を和ませることに長けていると感じている。大智が絶大の信頼をおいているのはわかる気がした。

 三人で窓際の席を陣取り食事を始める。いつも時間は遅めの時間で、閑散とし始めているのは助かる。大智の事務所の人たちに見られるのはやはり気まずいから。

「そうそう、大智。例の件。頼んどいたから、あとで連絡先渡すわ」
「ありがとうございます。若木先生。じゃあ、今週末にでも。由依、いいかい?」

 若木の言う例の件とは、大智の新居のことだ。
 そろそろ引越し先を探すつもりだと言っていた彼は、若木の知る不動産業者に家探しを頼んでいるのだ。

 早く家族で一緒に暮らしたい。それは自分たちの願いでもある。
 彼は若木先生にも相談し、例の女性の動向も探りつつ、そろそろ転居してもいいだろうと判断した。
 新居は、今自分が住んでいる地域に絞って探すことになった。灯希の保育園も変わらずに済むし、何より、樹も眞央も寂しがるだろうからと彼は考えてくれていた。
 と言っても、まだこの話を二人には出来ていない。元々前からちょうど忙しくなると聞いていたタイミングだったからだ。
 まもなく、樹も関わるアパレルブランドのショーが行われ、それに眞央もスタイリストとして参加することになっている。二人は今それに集中しているところなのだ。

 樹は『俺のことは気にせず、自分と灯希の幸せを優先して欲しい』と言ってくれた。
 そしてまず、灯希のことを何より優先することにした。
 自分たちが入籍すれば、灯希は彼の子になると勝手に思っていたが、実は別の手続きを踏まないといけないと聞いて驚いた。そのあたりは彼にお願いして手続きしてもらった。
 今はもう、ちゃんと父として彼の名前が記されている。あんなにも一人で育てていこうと思っていたのに、空白でなくなった父の欄を見て安堵したのだった。

「お二人さん、お先! 大智はゆっくりしてこいよ。じゃ!」

 若木先生は食事を済ますと、さっさと席を立って去って行った。会釈をしてその姿を見送ると、また食事に戻った。

「大智さん。お仕事、無理してませんか? 忙しいんじゃ……」
「大丈夫だよ。今までが働きすぎだったって若木先生にも言われてるし。由依こそ、僕のわがままに付き合わせて、無理してない?」
 
 確かにこの数週間、平日はこうやって昼間に会ったり、自分が帰る時間に見送りに来てくれたり。彼は短い時間でも自分に会いたがった。それをわがままだと言っているのだろう。

「無理なんてしてません。毎日大智さんに会えて、こうやって話しができて嬉しいです」

 素直に気持ちを伝えると、彼は手を止めて「僕もだよ」と微笑んでいた。
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