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コンビニ
しおりを挟む関東地方に大雪が降った日、バーは閑古鳥で十一時に帰って良いことになった。
「ただいまー」
玄関に見慣れない黒の革靴がある。
泉ちゃんは、いつもスニーカーかブーツで地味な革靴なんてありえない。もしかして、お客さんかな。
パワー君の部屋のドアが開いている。大雑把な性格なのでいつも開けっ放しなんだけど、なぜか違和感を感じて覗き込んだ。
「えっ?」
パワー君の横でアラサーぐらいの短髪の男の人が寝てる。
そっとドアを閉めた。
隣で寝てる人、誰? また酔って知らない人お持ち帰りしちゃったのかな。それとも彼氏? やだよ。
僕がこの空間にいるのは場違いな気がして外出した。
令和ならネカフェや二十四時間営業のファーストフード店に行けば時間潰せるけど、この時代にはそんなものないから近所のコンビニに入った。
うつむいたまま温かい缶コーヒーを選んでお会計を済ます。
「佐藤じゃん」
聞き慣れた声にハッとして顔をあげると、青いシマシマの制服を着た泉ちゃんがいた。
「泉ちゃん、何やってるの?」
「バイトだよ。佐藤こそ」
「仕事、早く終わったから暇つぶし」
レジの裏の椅子に座るように泉ちゃんに言われた。プラスチックの容器におでんの汁をついで大根、ちくわなどを盛ると僕に差し出した。
「俺のおごり。食べな」
汁をすすると冷え切った体も心も温まってきた。出汁が染みた大根も美味美味。
外は雪がシンシンと降り、車の音も雪に吸収されて静かだった。大雪なのでお客さんも来ない。
「パワーんちに泊まってんじゃなかったの?」
「お客さんがいて、居づらかったから」
「客? どんな人?」
「三十歳ぐらいの男の人」
「パワーの兄さんじゃねーの」
「お兄さん?」
「あの人もたまに遊びに来るから」
「でも、同じベッドで寝てたよ」
「あの兄弟すっごく仲いいんだよ」
なんだパワー君のお兄さんだったのか。でも帰りづらい。
泉ちゃんには靴をもらった恩もあるので、朝七時になるまでコンビニの棚卸し業務を手伝った。
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