3 / 20
熊さん
しおりを挟む
早足で待ち合わせ場所のゾウさんの滑り台に向かう。
熊さんなんてオジサンくさい名前だけど、すっごい可愛い男の子が来るんだと想像するとにやけ笑いが止まらない。熊さんも画像修正で多少盛っているかもしれないけどね。
青い塗装の剥げかけた滑り台の前で、SNSのタイムラインをチェックしたり、おもしろ動画にいいね、スマホいじりに没頭していた。
突如、周囲がフラッシュしてパッと白く光った。電気がショートした音がビリビリっと耳を突き抜ける。
「うわっ」怖っ、雷が落ちたの!? とっさに右腕で顔を覆って屈んだ。
静かになったので、恐る恐る目を開けると、目の前に全裸のオジサンがしゃがみ込んでいた。
まさかこの人がアプリの熊さん? 画像ではラブリーな前髪系お兄さんだったのに筋肉ムキムキじゃん、ってか別人。それに、なんで裸なのっ?
「私は、ある任務のためにここに来た。君が佐藤君だね」低音のイケボだった。
なんで僕の実名知ってんだよ。アプリではトラちゃんというハンドル名を使っていた。
「オジサンと会う約束なんてしてません。人違いです」
「スマートフォーンを見せてくれ」
マッチョオジサンは勢いよく立ち上がり両手を僕の肩に置く。ごっつい親指にシルバーの指輪をしていた。
「やめてっ」
怯えて逃げようとすると、ゴリラ並みの握力でがっしり肩を掴まれ、「う、うああ、うあああぁ」前髪系男子からもらったメッセージを半泣きで見せる。
マッチョオジサンは指輪をそっと僕のスマホに近づける。指輪からホログラムで映し出されたのは、六角形の桃色の鉱石。
「宇宙の癒やしのかけらと呼ばれる石をとってきて欲しい」
スペースシップに乗って銀河系を旅するとかいきなりSFの話ですか?
「意味が分かんないんですけど」
スマホの液晶画面がレインボーカラーにピカッと光った。
「佐藤君のスマートフォーンにタイムトラベル・アプリをインストールした。タイムスリップしてもらう」
スマホの液晶にはTime Travel application is loading - READY TO GO - と表示されている。
「なんで、僕が行かないといけないんですか?」
「説明している時間は、ない。癒やしのかけらを見つけてくれ。人類の生存に関わる重大任務だ」
「そんな重要なものならオジサンが取ってくればいいじゃないですか」
「それじゃ、またな。ベイビー」軽く手を振ると、サーッと粒子が消えるように跡形も無く蒸発した。
「ちょ、ちょっと、待ってくださいよ」
いったい全体何が起こっているのか理解できず、さっきまでマッチョオジサンがいた辺りを見つめていた。
スマホから白い光の柱が天に向かって発射する。
「わっ、わっ。何!!」
スマホを放り出そうとした途端、激しい閃光で視界が遮られたのだ。
おそるおそる目を開けると夜の公園だった。まだ、生きてるよ、良かった。
乾いた北風にびゅうと吹かれ、身震いした。右手に握っているスマホ以外、何一つ身につけていない。
状況が理解できず、ブルブル震えながらその場に素っ裸で立ち尽くしていた。
街灯の向こうから女の人たちの喧しい会話が聞こえてきた。
「なんちゃってー」
「ぶりっ子しちゃってー、ヤダー」
「冗談はよしこちゃん」
キャッキャした声が近づいてくる。
OLたちは、僕にまだ気がついていない。全裸の僕を発見したら悲鳴をあげるだろう、そして警察に通報するだろう。
面倒くさいことになる前に急いで木陰に隠れた。息を殺してOLたちが通り過ぎるのを待つ。
今度はDQNっぽい男グループの声が聞こえてきた。
「許してちょんまげ」
「ギャハハハ」
「まぶいまぶい」
見つかったらOLよりもたちが悪そうなので、さらに茂みの奥に進む。木の枝が素肌を引っ掻いて痛い、足裏は湿った土でぐちょぐちょになる。
奥の暗闇からなにやら動物の鳴き声が、かすかに聞こえてくる。ハアハァ……はあはあはあ。耳を澄ますと男のあえぎ声だと分かった。月に照らされて裸の男達のシルエットが浮かび上がった。
またハッテン場かよ、勘弁してくれよ。うんざりして満月を見上げた。すると、茂みの上に白ブリーフ、スーツとワイシャツ、ネクタイ、ベルト、一式脱ぎ捨てられているのを発見。
ラッキー。服を拝借して急いで着る。中年オヤジの加齢臭が少ししたが素っ裸よりずっとましだ。
熊さんなんてオジサンくさい名前だけど、すっごい可愛い男の子が来るんだと想像するとにやけ笑いが止まらない。熊さんも画像修正で多少盛っているかもしれないけどね。
青い塗装の剥げかけた滑り台の前で、SNSのタイムラインをチェックしたり、おもしろ動画にいいね、スマホいじりに没頭していた。
突如、周囲がフラッシュしてパッと白く光った。電気がショートした音がビリビリっと耳を突き抜ける。
「うわっ」怖っ、雷が落ちたの!? とっさに右腕で顔を覆って屈んだ。
静かになったので、恐る恐る目を開けると、目の前に全裸のオジサンがしゃがみ込んでいた。
まさかこの人がアプリの熊さん? 画像ではラブリーな前髪系お兄さんだったのに筋肉ムキムキじゃん、ってか別人。それに、なんで裸なのっ?
「私は、ある任務のためにここに来た。君が佐藤君だね」低音のイケボだった。
なんで僕の実名知ってんだよ。アプリではトラちゃんというハンドル名を使っていた。
「オジサンと会う約束なんてしてません。人違いです」
「スマートフォーンを見せてくれ」
マッチョオジサンは勢いよく立ち上がり両手を僕の肩に置く。ごっつい親指にシルバーの指輪をしていた。
「やめてっ」
怯えて逃げようとすると、ゴリラ並みの握力でがっしり肩を掴まれ、「う、うああ、うあああぁ」前髪系男子からもらったメッセージを半泣きで見せる。
マッチョオジサンは指輪をそっと僕のスマホに近づける。指輪からホログラムで映し出されたのは、六角形の桃色の鉱石。
「宇宙の癒やしのかけらと呼ばれる石をとってきて欲しい」
スペースシップに乗って銀河系を旅するとかいきなりSFの話ですか?
「意味が分かんないんですけど」
スマホの液晶画面がレインボーカラーにピカッと光った。
「佐藤君のスマートフォーンにタイムトラベル・アプリをインストールした。タイムスリップしてもらう」
スマホの液晶にはTime Travel application is loading - READY TO GO - と表示されている。
「なんで、僕が行かないといけないんですか?」
「説明している時間は、ない。癒やしのかけらを見つけてくれ。人類の生存に関わる重大任務だ」
「そんな重要なものならオジサンが取ってくればいいじゃないですか」
「それじゃ、またな。ベイビー」軽く手を振ると、サーッと粒子が消えるように跡形も無く蒸発した。
「ちょ、ちょっと、待ってくださいよ」
いったい全体何が起こっているのか理解できず、さっきまでマッチョオジサンがいた辺りを見つめていた。
スマホから白い光の柱が天に向かって発射する。
「わっ、わっ。何!!」
スマホを放り出そうとした途端、激しい閃光で視界が遮られたのだ。
おそるおそる目を開けると夜の公園だった。まだ、生きてるよ、良かった。
乾いた北風にびゅうと吹かれ、身震いした。右手に握っているスマホ以外、何一つ身につけていない。
状況が理解できず、ブルブル震えながらその場に素っ裸で立ち尽くしていた。
街灯の向こうから女の人たちの喧しい会話が聞こえてきた。
「なんちゃってー」
「ぶりっ子しちゃってー、ヤダー」
「冗談はよしこちゃん」
キャッキャした声が近づいてくる。
OLたちは、僕にまだ気がついていない。全裸の僕を発見したら悲鳴をあげるだろう、そして警察に通報するだろう。
面倒くさいことになる前に急いで木陰に隠れた。息を殺してOLたちが通り過ぎるのを待つ。
今度はDQNっぽい男グループの声が聞こえてきた。
「許してちょんまげ」
「ギャハハハ」
「まぶいまぶい」
見つかったらOLよりもたちが悪そうなので、さらに茂みの奥に進む。木の枝が素肌を引っ掻いて痛い、足裏は湿った土でぐちょぐちょになる。
奥の暗闇からなにやら動物の鳴き声が、かすかに聞こえてくる。ハアハァ……はあはあはあ。耳を澄ますと男のあえぎ声だと分かった。月に照らされて裸の男達のシルエットが浮かび上がった。
またハッテン場かよ、勘弁してくれよ。うんざりして満月を見上げた。すると、茂みの上に白ブリーフ、スーツとワイシャツ、ネクタイ、ベルト、一式脱ぎ捨てられているのを発見。
ラッキー。服を拝借して急いで着る。中年オヤジの加齢臭が少ししたが素っ裸よりずっとましだ。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
三限目の国語
理科準備室
BL
昭和の4年生の男の子の「ぼく」は学校で授業中にうんこしたくなります。学校の授業中にこれまで入学以来これまで無事に家までガマンできたのですが、今回ばかりはまだ4限目の国語の授業で、給食もあるのでもう家までガマンできそうもなく、「ぼく」は授業をこっそり抜け出して初めての学校のトイレでうんこすることを決意します。でも初めての学校でのうんこは不安がいっぱい・・・それを一つ一つ乗り越えていてうんこするまでの姿を描いていきます。「けしごむ」さんからいただいたイラスト入り。
学ランを脱がさないで
ルルオカ
BL
学ランフェチで、憧れの秘密の花園、清美男子校にいくことを夢見ていた主人公。夢破れて、意気消沈しているところに、思いがけない奇跡的な出会いがあって・・・?
懐古趣味の父親の影響を受けて育った、学ランフェチの男子高生が、一線を越えそうになりつつ、学ランフェチ青春を謳歌する話。ややコメディチッなBL短編です。R15。
「『学ランを脱がせて』と恋ははじまらない」は不良の一人の視点になります。
おまけの小説「学ランを脱がないで」を追加しました。
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ハッピーエンド=ハーレムエンド?!~アフターストーリー~
琴葉悠
BL
異世界アルモニアで、ゲーム的に言うとハッピーエンドを迎えたダンテ。
しかし、まだまだ人生は長く──
これは、ダンテが奮闘した学生時代の後話。
アフターストーリーである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる