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上 復讐の始まり 0
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「……魔族」
「正解ー!」
俺のつぶやきに、帰ってくるはずのない返事が返ってきた。
「誰だッ!」
その声が聞こえた瞬間、とっさに飛び退く。
問いかけながら、声がした方向に剣を構える。
「誰って、今言ったじゃん!ボクは魔族だよ!」
声の正体は、まだ顔にあどけなさを残した、一人の少年。
……いや、少年の姿をした魔族が正解か。
一見ただの少年にしか見えないが、俺は何度か魔族を見た事があるのでわかる、こいつは間違いなく魔族。それも上位の。
「そうか。まあ、見ればわかるんだが。……お前は準幹部級か」
上位の魔族は、外見さえ人間に似せれば、一般人ではまず見分けがつかない。
だが、魔力を見ることができる者なら見分けることができる。
なぜなら、魔族は皆、体の表面に魔力を纏っているから。
魔族がどれほど強いのかは、纏っている魔力でわかる。
精密かつ濃い魔力を纏っているのが、幹部級。
精密な魔力、或いは濃い魔力のどちらかが突出しているのが準幹部級。
それ以下も、判断方法は変わらない。
「すごいね!君は魔力が見えるんだ!」
「ああ。俺も、すでに引退したが一応A級だったんでね」
「へー。すごいね!準幹部級っていうのも正解だよ!」
「そうか。魔族に褒められるのも悪くねーかもな」
軽く言葉を交わしながらも、お互いに隙を伺い続ける。
まだ、物理的な戦闘は始まっていない。だが、勝負は始まっている。
戦闘が始まる前に、どれだけ相手の情報を引き出せるかの駆け引き。自らの力と相手の力を客観的に把握し、どちらが上か、どのように殺すかを思考する。
「そうだ、一つ聞いておきたい」
「なんだい?」
「これを破壊したのは、お前か?」
これは、駆け引き関係なく聞いておきたいことだ。
此奴が、破壊したのは状況的にも間違いない。だが、やはり本人の口から事実を聞いておきたかった。その方が、殺しやすいから。
「そうだよ!ボクとボクの部下たちがやったんだ!」
「…………そうか」
俺は、簡潔に返事をする。
(よくわかった。此奴は、俺が殺すべき相手だ)
「俺は、お前を殺す。復讐するべき相手としてな」
「随分と自信満々じゃないか。でも、そっちの方が面白い!」
俺の殺害宣告に、此奴は心底面白そうに笑いながら、丁寧に自己紹介までしてくれた。
「ボクは、悪魔族のサークって言うんだ。よろしくね!」
「俺は、イン・フィンガー。見ての通り、人族だ。短い時間だがよろしく」
自己紹介には、自己紹介で返すのが礼儀だろう。
どうやら、俺の自己紹介は正解だったらしい。サークは満足げに頷いていた。
満足してもらって結構。戦闘でも満足させてやるよ!
訪れる静寂。しかし、それは一瞬だけ。先に仕掛けたのは、インからだった。
今出せる、最大の速度でサークに肉薄する。その速度は、静寂よりも早かった。
それに対して、サークは何もしなかった。何もせずに棒立ちしているだけ。
インは、がら空きの首に何の躊躇いもなく、刃を叩きつける。
"ガキィィィン"
静かな空間に響く、金属同士が当たったような甲高い音。
その音が鳴った直後に、サークとインが同時に飛び退く。
「やっぱりな」
そう言って、インは己の得物の刃こぼれを確認する。
金属の衝突音。その音の発生源は、サークの首と刃の衝突部分。
「お前の特性は、物理攻撃に対する絶対防御ってとこか」
「すごいよ!ボクの特性を一度で看破するなんて、君が初めてだよ!」
魔族中でも、特に魔王の系譜に近いと言われている種族。それが、悪魔族。
悪魔族は、すべての個体が何かしらの特性を有して生まれてくる。
その種類は多岐に亘り、中にはサークのように何かしらの攻撃に対しての絶対防御を有する個体もいる。
「まあ、だから何だっていう話だけど……なっ!」
インは再び、サークに向けて駆け出す。己の攻撃が通じると信じて。
「いいね!その、絶対を信じない姿勢!好きだよ、ボクは!」
「そうかよ!」
インから放たれる斬撃。それを弾くサークの絶対防御。
斬撃と防御が交わることで発生する金属音が森に響き渡る。
インは、少しづつ繰り出す斬撃の量とペースを増やしていく。
やがて、金属音に人間の声が混ざり始める。
「うおおおおおおお!!!!!!!」
「いいね!いいね!かっこいいよ!」
増えていく人間の斬撃、動かない悪魔。
大きくなる人間の咆哮、笑みを深め黙る悪魔。
正に対照的。
刹那の合間に繰り出される、数十の斬撃。それを受け止める不動の悪魔。
戦闘が始まってから、未だ五分も経っていない。
しかし、インが繰り出した斬撃は優に数百に上る。
サークはそのすべてを掠り傷一つなく防ぐ……はずだった。
「…………ッ!」
サークの頬を伝う一筋の血液。
それを確認した瞬間、インは剣を振るうのをやめた。
サークは、驚いたようにインを見つめる。
「追撃しないんだね」
「する必要が、たった今無くなった」
「ハハッ、やっぱ君は面白いよ!まさか、こんなに早く特性の弱点を見抜かれるとはね!」
(やはりか。物理防御は、サークの身体から数センチだけ隙間がある)
インは、決してやけくそになっていたわけではない。
斬撃を繰り出すたびに、様々な検証を行っていた。
その一つが、物理防御の適応範囲だ。
何処からの攻撃が防がれるのか、どれ程の物理現象が攻撃として判断されるのか。
結果、サークの真下にある土を蹴り上げた時に、土に含まれていた小石が頬に傷をつけたのだ。
しかし、インの足元にある土を蹴っても、サークに届く前に物理攻撃と判断され、防がれてしまった。
これからわかることをまとめた結果、先ほどの結論が出たのだ。
「弱点がバレちゃったなら仕方ない。ボクも、攻撃を当て返さないとね!」
忘れてはいけない。サークは未だ攻撃を一度も繰り出しでいないことを。
隠す必要がなくなった、膨大な量の魔力が大気を震わす。
魔力が一度、サークの体を覆う。
数秒後、体を覆う魔力が霧散した。その奥から現れたのは、人間に似た相貌は鳴りを潜め、完全に悪魔形態になったサークだった。
背中からは翼が、頭からは角が生えていた。さらに、先ほどまでは金髪だった髪色は、地獄のような深紅色に染まっていた。
「さあ、始めよう。華麗なる悪魔の踊りを!」
「正解ー!」
俺のつぶやきに、帰ってくるはずのない返事が返ってきた。
「誰だッ!」
その声が聞こえた瞬間、とっさに飛び退く。
問いかけながら、声がした方向に剣を構える。
「誰って、今言ったじゃん!ボクは魔族だよ!」
声の正体は、まだ顔にあどけなさを残した、一人の少年。
……いや、少年の姿をした魔族が正解か。
一見ただの少年にしか見えないが、俺は何度か魔族を見た事があるのでわかる、こいつは間違いなく魔族。それも上位の。
「そうか。まあ、見ればわかるんだが。……お前は準幹部級か」
上位の魔族は、外見さえ人間に似せれば、一般人ではまず見分けがつかない。
だが、魔力を見ることができる者なら見分けることができる。
なぜなら、魔族は皆、体の表面に魔力を纏っているから。
魔族がどれほど強いのかは、纏っている魔力でわかる。
精密かつ濃い魔力を纏っているのが、幹部級。
精密な魔力、或いは濃い魔力のどちらかが突出しているのが準幹部級。
それ以下も、判断方法は変わらない。
「すごいね!君は魔力が見えるんだ!」
「ああ。俺も、すでに引退したが一応A級だったんでね」
「へー。すごいね!準幹部級っていうのも正解だよ!」
「そうか。魔族に褒められるのも悪くねーかもな」
軽く言葉を交わしながらも、お互いに隙を伺い続ける。
まだ、物理的な戦闘は始まっていない。だが、勝負は始まっている。
戦闘が始まる前に、どれだけ相手の情報を引き出せるかの駆け引き。自らの力と相手の力を客観的に把握し、どちらが上か、どのように殺すかを思考する。
「そうだ、一つ聞いておきたい」
「なんだい?」
「これを破壊したのは、お前か?」
これは、駆け引き関係なく聞いておきたいことだ。
此奴が、破壊したのは状況的にも間違いない。だが、やはり本人の口から事実を聞いておきたかった。その方が、殺しやすいから。
「そうだよ!ボクとボクの部下たちがやったんだ!」
「…………そうか」
俺は、簡潔に返事をする。
(よくわかった。此奴は、俺が殺すべき相手だ)
「俺は、お前を殺す。復讐するべき相手としてな」
「随分と自信満々じゃないか。でも、そっちの方が面白い!」
俺の殺害宣告に、此奴は心底面白そうに笑いながら、丁寧に自己紹介までしてくれた。
「ボクは、悪魔族のサークって言うんだ。よろしくね!」
「俺は、イン・フィンガー。見ての通り、人族だ。短い時間だがよろしく」
自己紹介には、自己紹介で返すのが礼儀だろう。
どうやら、俺の自己紹介は正解だったらしい。サークは満足げに頷いていた。
満足してもらって結構。戦闘でも満足させてやるよ!
訪れる静寂。しかし、それは一瞬だけ。先に仕掛けたのは、インからだった。
今出せる、最大の速度でサークに肉薄する。その速度は、静寂よりも早かった。
それに対して、サークは何もしなかった。何もせずに棒立ちしているだけ。
インは、がら空きの首に何の躊躇いもなく、刃を叩きつける。
"ガキィィィン"
静かな空間に響く、金属同士が当たったような甲高い音。
その音が鳴った直後に、サークとインが同時に飛び退く。
「やっぱりな」
そう言って、インは己の得物の刃こぼれを確認する。
金属の衝突音。その音の発生源は、サークの首と刃の衝突部分。
「お前の特性は、物理攻撃に対する絶対防御ってとこか」
「すごいよ!ボクの特性を一度で看破するなんて、君が初めてだよ!」
魔族中でも、特に魔王の系譜に近いと言われている種族。それが、悪魔族。
悪魔族は、すべての個体が何かしらの特性を有して生まれてくる。
その種類は多岐に亘り、中にはサークのように何かしらの攻撃に対しての絶対防御を有する個体もいる。
「まあ、だから何だっていう話だけど……なっ!」
インは再び、サークに向けて駆け出す。己の攻撃が通じると信じて。
「いいね!その、絶対を信じない姿勢!好きだよ、ボクは!」
「そうかよ!」
インから放たれる斬撃。それを弾くサークの絶対防御。
斬撃と防御が交わることで発生する金属音が森に響き渡る。
インは、少しづつ繰り出す斬撃の量とペースを増やしていく。
やがて、金属音に人間の声が混ざり始める。
「うおおおおおおお!!!!!!!」
「いいね!いいね!かっこいいよ!」
増えていく人間の斬撃、動かない悪魔。
大きくなる人間の咆哮、笑みを深め黙る悪魔。
正に対照的。
刹那の合間に繰り出される、数十の斬撃。それを受け止める不動の悪魔。
戦闘が始まってから、未だ五分も経っていない。
しかし、インが繰り出した斬撃は優に数百に上る。
サークはそのすべてを掠り傷一つなく防ぐ……はずだった。
「…………ッ!」
サークの頬を伝う一筋の血液。
それを確認した瞬間、インは剣を振るうのをやめた。
サークは、驚いたようにインを見つめる。
「追撃しないんだね」
「する必要が、たった今無くなった」
「ハハッ、やっぱ君は面白いよ!まさか、こんなに早く特性の弱点を見抜かれるとはね!」
(やはりか。物理防御は、サークの身体から数センチだけ隙間がある)
インは、決してやけくそになっていたわけではない。
斬撃を繰り出すたびに、様々な検証を行っていた。
その一つが、物理防御の適応範囲だ。
何処からの攻撃が防がれるのか、どれ程の物理現象が攻撃として判断されるのか。
結果、サークの真下にある土を蹴り上げた時に、土に含まれていた小石が頬に傷をつけたのだ。
しかし、インの足元にある土を蹴っても、サークに届く前に物理攻撃と判断され、防がれてしまった。
これからわかることをまとめた結果、先ほどの結論が出たのだ。
「弱点がバレちゃったなら仕方ない。ボクも、攻撃を当て返さないとね!」
忘れてはいけない。サークは未だ攻撃を一度も繰り出しでいないことを。
隠す必要がなくなった、膨大な量の魔力が大気を震わす。
魔力が一度、サークの体を覆う。
数秒後、体を覆う魔力が霧散した。その奥から現れたのは、人間に似た相貌は鳴りを潜め、完全に悪魔形態になったサークだった。
背中からは翼が、頭からは角が生えていた。さらに、先ほどまでは金髪だった髪色は、地獄のような深紅色に染まっていた。
「さあ、始めよう。華麗なる悪魔の踊りを!」
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