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第8話 呪術師のチートがクソすぎる!
しおりを挟む結界に突入した僕らは、内側の未知なる世界を慎重に調査しながら、植物のサンプルを収集していた。
また、録画魔術を駆使して周囲の様子を常に記録し続けていた。
緊張感が漂う中、僕たちは細心の注意を払いながら、異変の兆候を探し出そうとしていた。
背後の音一つ一つに耳を傾け、視界に入るすべてのものを見逃さないようにする。結界内の空気はどこか重く、普通ではない感覚が肌に染み込む。
「動物が居ねぇな。だがこういう区域では珍しかねぇ。呪術師なんてほんとにいんのか?」
エルガブリが周囲を見渡しながら、気楽な口調で言った。
「油断は禁物だよ。この結界の主は、既に僕らの侵入に気付いているはずだから。」僕は警戒を怠らないように注意を促した。
「それにしても不気味だな。気付いていながら何も仕掛けてこないなんて……」ルシアが不安げに呟いた。その声が静寂の中で妙に響く。
突入から既に五分が経過した。にも関わらず、敵の動きが一切見られない。
これは明らかに異常で不気味だ。
こちらは隠蔽魔術もかけていない。
その場は重苦しい沈黙に包まれ、風の音すら感じられない。周囲には奇妙な静寂が広がっていた。
木々の囁きも鳥の鳴き声もなく、まるで時間が止まったかのような異様な雰囲気だ。
僕とルシアは目を合わせ、緊張感を共有した。
敵の反応が全くないことが、逆に不安を煽っているのだ。
「なるほど......呪術的な制約か。」
「私もそう思う。私達を長時間結界内で野放しにする事で、何かのリターンを得ている可能性は高いわ。」
サンプルの回収も地質調査、結界の解析など、調査は大体終了した。
結界の特性上、入る時と違い出る時は相当な力が必要となる。
それにこのまま結界を放置すれば状況が悪化する可能性もある。
状況を踏まえた上で次に取るべき最善の行動は......
「これから呪術師の元に急行する。ルシアは高位の探知魔法で敵の居場所を突き止めて。」
「魔法ね。分かったわ。」
続けて僕はガリブとベレスにも指示を出す。
「ガリブ、ベレス、君たちは予定通り前衛を頼む。進行方向に現れる敵はすべて排除してくれ。万が一別の方向から敵が攻撃を仕掛けてきた時は、僕とルシアで捕獲する。」
「おうよ!」
「前の敵は任しときな!」
僕はあえて魔法を使うよう指示した。
魔術と魔法にはそれぞれのメリットとデメリットがある。
魔術のメリットは、誰でも鍛錬次第で同じものを習得できることと、同じ効果を持つ魔法より少しだけ燃費が良いことだ。
しかし、魔術には強大なデメリットがある。
発動には数式や魔法陣、順序立てた工程を必要とするため、再現性が高い一方で、妨害や破壊、書き換えが魔法より容易なのだ。
反対に魔法は、イメージを基にしたもので、同じような魔法でも個人によって形状や効果が異なる場合も多くある。
イメージを魔力によって現実にしているだけだ。
予め準備でもしていない限り、魔法の妨害はほとんど不可能に近い。
そして呪術師は式の書き換えや妨害に関しては、魔術師以上の技術を持っている事が経験上多い。
そもそも対人戦で魔術を使うメリットは薄い。
これらの理由から、この状況では圧倒的に魔法を使う方が有利だ。
「見つけたわ。テルモパレス森林の中心部。現在地から北緯38度、距離211kmの場所よ!探知で見た地図と経路を脳に転送するわ!」
「全員、全速力で向かうぞ!」
僕らはルシアが示した方向に向かって全速力で駆け出した。木々の間を駆け抜ける風圧が、緊張感を一層際立たせる。
「おいおいルーク!いきなり化け物の気配がしてきたぜ!数は600弱だ!」
ガリブの警告に耳を澄ますと、遠くから感じる不穏な気配が確かに迫ってくる。
「式神の妖狼だ!全て倒す必要はない。取りこぼしは僕らで処理する!」
空気が張り詰める中、僕たちは鋭い目つきで周囲を警戒しながら前進する。
妖狼の気配が次第に強くなり、その数の多さに一瞬の動揺が走る。
やはりこの結界の主は、僕らが辿り着くのに時間がかかればかかるほど有利になるような制約をかけているのだ。
あるいは、それと思わせるための巧妙なブラフか?
いずれにせよ、僕たちが迅速に行動しなければ、敵の思う壺だ。
風が木々を揺らし、獣の唸り声が次第に近づいてくる。
その一瞬一瞬が、戦いの緊張感をさらに高めていく。
「おっけーい!あたしの出番!!飲み込め、神斧ミタスティス!固有結界起動!!!」
神斧ミタスティス。これは天界でも最上級の古代武装で、その性能は圧倒的だ。
この神器には強度と重量を自由に変化させる魔法が組み込まれている。
手から離れても、瞬時に持ち主の手元に戻る転移魔法が付与されている。
しかし、この武装の最大の特徴は、重量変化による攻撃力の調整ではない。
透明な球状の結界を展開する能力にこそ、その真価がある。
この結界に触れた敵は、すべて前方へ強制転移させられる。
つまり、あらゆる攻撃を結界の前方に引き寄せ、一方向に集中させる事ができるのだ。
加えてこの結界。外側からの攻撃には結界としての機能を発揮するが、内側からの攻撃には一切干渉しない。
流石は謎の遺跡から出土した古代の武装というだけの事はある。
「ベレス!!いつもみたく派手に行こうぜ!!」
「よーし!どっちが多く刻めるか勝負っしょ!!」
そうして二人は前方に集中した敵を一方的に倒し始めた。
敵は密集しすぎて上手く身動きが取れなくなっており、少し不憫に感じる程だ。
天上神界は宇宙空間での戦闘も多く、前後左右だけでなく上下からも敵の攻撃に晒される為、この結界の能力は極めて強力だ。
当然突破されてしまう事もあるのだが、型に嵌れば戦況を自由に操作する事ができる。
結界の範囲はベレスの裁量で調節可能だが、大きくすればするほど強度は下がる。
一度壊されると再度展開するのに十数秒の時間を要する難点も存在する。
「ルークっち!結界範囲十メートル!!把握よろ~!」
「おーし!!速度緩めずに叩き切ってやるぜ!」
妖狼たちは自らを足場にし、予測不能な軌道で全方位から攻撃を仕掛けてくる。しかし、ベレスの結界によってその攻撃は全く効果を発揮しない。
ベレスとエルガリブは、自分たちの武器だけが結界の外に出るように戦いを展開している。
その緻密な範囲操作により、二人の武器は自由に振るわれ、妖狼たちを次々に打ち倒していく。
ベレスの結界操作の精緻さは、戦況を見守る僕にすら圧倒的な技術を感じさせた。
ベレスの結界は透明でありながら、彼女の意志に応じて形を変え、妖狼の攻撃を遮断しつつ、二人の攻撃を許す巧妙な防御線を描いていた。
その見事な操作に、僕は改めてその武器が欲しくなる。
そもそも古代武装に取り扱い説明書などついていないのだから。
「助かる!俺は呪術師の術式解析に専念する!」
この斧の能力は驚異的だ……
かつて何度か盗もうとして、半殺しにされそうになったのも無理はない。
「私はその間に防御魔法を重ね掛けするわ!」
状況が急速に展開する中で、ルシアの声が冷静に響く。
彼女の防御魔法は更に厳重になり、僕らの肉体と精神を強く守護する。
そうして一気にポイントの地点へと突き進んだ。
数秒後、ついに呪術師が潜んでいると思われる小屋に到着した。
僕たちは全員、ガリブとベレスを前衛に据えた陣形を崩すことなく、小屋に近づいた。
前衛の二人が先頭に立ち、僕とルシアがその背後から支援する形で、慎重に進んでいく。
小屋は森の中にひっそりと佇んでおり、その周囲には不気味な静けさが漂っている。
木々の影が揺れ、微かに感じる冷たい空気は、極限まで敏感となった僕達の感覚に突き刺すような緊張感を与えた。
僕らは一瞬で感じ取った。小屋から結界の主が姿を現した。
圧倒的な存在感が空気を支配している。
「よく来なすった。少し話でもしようではないか。」
そこに現れたのは、パワードスーツに身を包み、それを隠すように上から薄汚れたローブを纏った中年の男だった。
「乗らねぇよ!」
「あたしたちを侮るなよ、おっさん!」
エルガリブとベレスは、間髪入れずに呪術師に近接攻撃を仕掛けた。
一見無謀にも見えるが、二人は対策と防御を完璧に施し、すぐに回避に移れる体勢で攻撃を繰り出している。
「ぬっ!?お主ら、ワシを誰と心得る!」
呪術師は防護呪符で三重のバリアを瞬時に作り出した。
しかし、その全てがエルガリブとベレスの猛攻によって叩き割られ、呪術師は攻撃を避けるのに精一杯だ。
「いいぞ、二人とも!そのまま距離を詰め続けてくれ!僕は援護に回る!」
僕は上空に100にも及ぶ追撃魔法を展開し、次々と呪術師に浴びせかける。
前衛の二人に当たらないよう、精密に魔法の軌道を調整しながら。
「このぉ、小癪な真似を!召喚呪術!式神・妖狼!後ろの二人を止めろ!」
いい流れだ。現時点で誰も消耗していないし、手持ちの呪符や呪具を使い切れば、呪術や呪法も使ってくるだろう。
「前衛二人はそのまま畳み掛けるんだ!」
「任せろ!」
僕はこちらに向かってくる妖狼を軽く片付けながら指示を出した。
呪術師はもっと多彩な呪符や呪術を隠し持っているに違いない。
しかし、現状では前衛二人の攻撃から身を守るのに精一杯で、余裕がない。
そんなことを考えていると、呪術師が意表を突くように呪法を発動した。
事前に予測していたとはいえ、そのタイミングには少し驚かされた。予測していた選択肢の中では可能性が低いと考えていたからだ。
「染毒燃庭!」
瞬時に危機感が走る。効果が不明なままでは、対策も講じられない。
更にやっかいな事は、結界の中に閉じ込めるタイプの呪法だった事だ。
これは相当強力な呪法である可能性が高い。
「二人とも防御を固めろ!ルシア、防御魔法を1秒ごとにかけ直して!」
「もう始めてるわ!」
その瞬間、周囲の景色が一変した。
少し離れた場所には朽ち果てた木が不気味に佇んでいる。
木の根元から流れ出す紫色と赤色の液体は高熱を帯びており、岩肌を川のようにつたっている。
見渡す限り、5メートルほどの高さの壁が周囲を囲み、不自然な雲が上空を覆い尽くしている。
探知魔法や解析魔法、分析魔法などあらゆる手段で脱出方法を探しているが......
今のまま4人で脱出できる気配はまるでない。
その時、聞き慣れた声が通信魔法から聞こえてきた。
「おう!ルーク、俺もベレスも無事だ!」
「対毒の魔法をかけたわ。熱に対する耐性も上がっているはず。気休め程度にはなるけど!」
「あの呪術師はどこに行った……」
この空間のどこを見渡しても呪術師の姿はない。
探知魔法を使っても、気配さえ感じられない。
「その毒には絶対に触れるな!どんな毒素なのか分からない!一旦僕の元に集まるんだ!」
僕らは集まって四方を固めた。
すると、どこからともなくあの中年呪術師の声が聞こえてきた。
「かかったな。もう終わりだ。赤い毒は魔力を蝕み、紫の毒は命を蝕む。紫の毒を一滴でも触れれば、その魂は十数分で消滅する。赤の毒を浴びれば、その分魔力が吸い取られる。」
やはり……呪法は強力だ。先程の呪符や式神とはレベルが違う。
「吸い取った魔力の分、毒はより強力になる。対毒魔法も所詮は魔法。赤の毒に触れ続けては意味がない。転移もできぬ!その朽ちた木を切り倒す以外、出る方法はない。」
「なにぃ!?簡単じゃねぇか!俺がぶった切ってやる!」
挑発して情報を引き出そうとしている。さすが冒険者歴が長いだけある。絶望的な状況でも決して冷静さを欠かない。
「木には大量の毒が含まれている。精々頑張れ。」
呪法の弱点を露わにしているのか。
つまり、不利な制限をかけることで呪法の力を増強させたのだ。
その考えが頭をよぎった瞬間、木から放射状に延びる毒の川が膨れ上がった。
幅は倍近くになり、足場はさらに狭まってしまった。
「よーするに。あの木を切りゃいいんっしょ?この川も動かねぇし、そんなに難しくな……」
ベレスがそう言いかけた瞬間、雲の中から何かが高速で降り注いできた。
それは呪術による隕石弾や氷の槍だった。
どうやら、この結界は外部から一方的に呪術の攻撃を打ち込める仕組みらしい。
「くそ!こんなもん叩き落としてやる!」
「待て!ガリブ!全員!!回避と防御の準備をしろ!急げ!!」
僕はとっさにエルガリブを毒の川から一番離れた場所へ突き飛ばした。
無数に流れる毒の川と川の間隔は10メートルほどだが、それでもすぐそばにいるよりは遥かに安全だ。
「まさかルーク!?早くそこから離れて!」
そう、この呪術による攻撃は僕たちを直接狙ったものではなかった。
毒の川に打ち込まれたのだ。
水面に石を投げ込めば水しぶきが舞うように、この毒の川に高速で物体が投げ込まれれば......
猛毒の飛沫が予測不能なほど複雑に飛び散る。
魔法の防御も役に立たない。つまり、僕たちは確実に毒を浴びてしまうのだ。
「ルーク!」
「くそ!そういうことかよ!ルーク!!!!」
「ルークっちの心配してる場合じゃないっしょ!全部の川に呪術が打ち込まるかもだぜ?あたしたちもやべぇよ!!」
僕は毒の飛沫に飲まれてしまった。
高さ5メートルの空間というのもよく考えられている。上空に逃げられないからだ。
「ふぅ。焦ったな。毒飛沫は全て武器で弾くしかないね!全員で防ぎながらあの枯れ木を破壊しよう!」
「良かった……生きてた。」
「当たり前だよルシア。」
「心配したんだから......」
僕が死んだら、数時間も経たないうちにルシアも命を落としてしまう。
これが片割れの厄介なところだ。互いに命を背負って生きている。
「ベレス!今回は君の神斧ミタスティスの能力が救世主だ!その固有能力で毒飛沫を全て前方に集中させられる!方向さえ分かれば......この四人なら対処できる!」
「なるほど!ルークっち、頭いい!」
偶然ではあるが、神斧ミタスティスの能力はまさに救世主だ。
これが無くても何とかはなっただろうが、無傷では済まなかったに違いない。
神斧ミタスティスによる結界は正式には武技と呼ばれ、魔力由来の結界ではない。そのため、今回の赤い毒で結界が侵食される心配はない。
「行こう!枯れ木に向かって突撃だ!」
どうやら僕らが枯れ木に向かい始めたことに焦りを感じたらしい。
全ての川に凶悪な速度で弾丸のような隕石が打ち込まれ、結界内は赤と紫のスプラッシュパラダイスとなっている。
しかし、僕らの周囲の毒飛沫は神斧ミタスティスの能力によって全て前方に、集められている。
僕たちは押し寄せる毒飛沫を弾き飛ばしながら枯れ木に向かって進む。
幸い、枯れ木までの距離はそれほど遠くはない。
「ルークっち!もうすぐ枯れ木に到着すんよ!前衛職のあたしらが叩き切るぜ!」
「分かった!頼む!」
そして僕達はたったの数秒で枯れ木に攻撃が届く範囲まで、距離を縮めた。
この呪法は確かに強力だが、最上位神には通用しないだろう。
そんな無関係なことをふと考えていると、再び呪術師の声が耳に届いた。
「バカな!あれだけ飛び散る飛沫を全て武器だけで弾き飛ばすだと!?」
「おっさん!あたしらは上位神だ。舐めんな!」
「終わりだ!俺らを侮んなバカが!」
ピカッ。しかし突然、枯れ木は不気味な輝きを放ち始めた。
「残念じゃな。」
「!?まさか!!」
「ガリブ!逃げ......」
二人が枯れ木を切り裂いた瞬間、それは自爆のような大爆発を起こした。
もちろん、木の中に含まれていた毒や周囲の川を流れる猛毒も一気に吹き荒れた。
「ベレス!!!」
ルシアが叫んだ直後、僕たちも爆発の衝撃に巻き込まれた。
数秒後、爆風が収まると、僕の腕はズタズタに傷ついていた。
ちなみにルシアは完全に爆風を防ぎ切り、一人だけ無傷で立っている。
「ベレス!エルガブリ!しっかりして!」
ルシアはすぐに二人を治癒魔法の膜で包み、呪術師から距離を取った。
爆風を僕らよりも近い距離で直撃し、僕らを守るために盾となった二人の体は、紫の液体に侵食され、皮膚が溶けてしまっていた。
その姿はまるで悪夢のようで、体全体が腐食したかのように見えた。
恐ろしい光景が目の前に広がり、ルシアは呪術師への怒りを露わにしている。
「これはルシアがいなかったら即死だったな。ごめん僕の判断ミスだ。」
咄嗟にルシアがかけた防御魔法と耐毒魔法により、ギリギリで即死を免れ、命を取り留めたのだ。
彼女にはいつも感謝しかない。そして僕は通信魔法でルシアに語り掛けた。
「結界自体は解除されている。また森に張られていた外側の結界も崩壊しているな。」
要するに、あの枯れ木はこの呪術師の結界術全ての根幹だったのだ。
呪法は一度使うと数十秒間発動できなくなる。
つまり、この森全体に貼られている結界にも、彼の呪法が関与している。
「バ……バカな!い、生きているだと!」
確かに生き残ってはいる。
しかし、パーティーメンバーのうち二人は瀕死の重症で、今すぐ専門機関での治療が必要だ。
二人を守りながら戦えば、勝っても手遅れになってしまう。
状況は限りなく最悪に近い。
「ルシア、結界は一時的に崩壊している。今なら転移魔法で逃げられる。二人を医療機関に連れて行ってくれ。」
「それじゃ......ルークは?」
今処置をすれば間に合う。僕とルシアで戦えばより安全に戦えるのだろうが......
この二人は間に合わなくなってしまう。
つまり、僕が一人残るのが最適解であり、ベストな選択肢なのだ。
「僕は残る。こいつを倒してから合流するよ。」
「分かった。できるだけ早く戻ってきてね。」
「大丈夫だよ。心配しないで。すぐに合流するから。」
そうだ。だからこそ僕は勝算があってここに残る。
「早く行って。もう二人は持たない。そろそろ森の結界の方が修復し始めるよ。」
「分かった。待ってるね。」
その言葉を最後に、ルシアは転移魔法で二人を結界の外の医療機関に連れて行った。
「馬鹿な奴め。勝ち目があると思っているのか?結界が回復しているということは、染毒燃庭の呪法も再度使えるということだぞ?」
「そうだろうね。」
「お前を殺した後、必ずいつかお前の嫁も殺す。お前の死は無駄だったということになる。」
中々にゲスな奴だ。僕も冷徹な方ではあるが、ここまで悪どいと逆に感心さえ覚える。
だが......こいつは一つ大きな勘違いをしている。
「何勝った気でいるんだよ?雑魚が。」
「なに?気でも狂ったか?」
僕はそう言って、正面に剣を構えた。第二ラウンドの始まりだ。
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