25 / 33
第25話 元凶
しおりを挟む
小夜子は霞からノートパソコンを受け取り、作業を始める。
霞は小夜子の隣でパソコンの画面を興味深そうに見つめていた。
一方、俺の方は特にやることが無くなってしまった。
小夜子が作業を始めてから数分後、テーブルに置いてある霞のスマホがブルルとバイブした。
霞はスマホを手に取り、画面を見つめる。
「鈴鹿さんからだ。私達に話したいことがあるそうだ。大塚公園に来て欲しいらしい」
「分かった。小夜子、ちょっと俺達は出掛けて来るからここで待っててもらえるか?」
作業に没頭していた小夜子は「りょうかーい」とだけ返事をした。
俺と霞は待ち合わせ場所に指定された大塚公園に向かった。
噴水の近くにあるベンチにて、鈴鹿さんがスマホを弄っている姿が見えた。
「鈴鹿さん。お疲れ様です」
霞が鈴鹿さんに話し掛けると、俺達に気づいたようで顔を上げた。
「お疲れ様、二人とも! ごめんなさいね、わざわざこんなところにまで呼び出して」
「いえ、大丈夫です。けど、てっきり喫茶店で待ち合わせするものだと思っていました」
俺も霞と同じ意見であった。
忘れもしない、ここはスパイダーラカサと戦った場所である。
「まぁ……二人にとってここは忘れられない場所だと思ってね。まずは二人にはお礼を言いたいと思って。ようやくデータが収集し終わったのよ! これで次の段階に行けるわ」
「それって……ついにワクチンが作れるということですか?」
ワクチンが完成すれば、人々が怪人化することも無くなる。
実に喜ばしいことだと思ったのだが、鈴鹿さんから出た言葉は信じられないものであった。
「いやぁ。そもそもね……ワクチンを作る必要なんて無いのよ」
「え、どういうことですか?」
俺はまるで意味が分からなかった。
以前、鈴鹿さんは一刻も早くワクチンを作る必要があると言っていた。
「これを見て欲しいの」
鈴鹿さんは鞄から注射器を取り出した。
何やら注射器の中には怪しげな緑色の液体が入っている。
霞が「なんですか、これは?」と尋ねると、鈴鹿さんはニヤリと口角を上げる。
「これはね、ラカサウィルスが入った液体よ……これを注入された人間は怪人になる。二人とも、この意味が分かるかしら?」
まさか……いや、だが可能性としては十分にありえる。
この注射器を持っているということはつまり――
「鈴鹿さん、だったんですか……? 小夜子に注射したっていう人は……」
恐る恐る俺が尋ねると、鈴鹿さんは悪びれもせず、「ええ、そうよ」と答えた。
「どうしてそんなことを! 鈴鹿さんは怪人による被害を無くすために、ワクチンを開発していたんじゃないんですか!?」
「霞……あなたは賢いと思ってたんだけど、残念ね。ラカサはね、人類の進化系なのよ。病気にも罹らないし、余程のことが無ければ怪我もしない……私はこの注射で周囲の人間をラカサにして、データを集めてきた」
「ふ、ふざけないでください! そんな馬鹿げた計画の為に……私達を利用してきたんですか!?」
霞が怒りを露わにする。
しかし、鈴鹿さんはやれやれと肩を竦めた。
「馬鹿げた計画とは失礼ね。霞……元々はあなたのお父さんが考えていた計画だったのよ」
「そんな馬鹿な……父がそんな馬鹿げた計画を考えるはずがない!」
「本当よ。あなたのお父さんは病気に罹らなくなるウィルスを開発していた……かつて私は先生の教え子で、研究の手伝いをしていたのよ」
なるほど、少し話が見えてきた。
霞の父親がラカサウィルスを開発した張本人だったわけか。
確か、霞が大学進学した時にどこかに行ってしまったって言ってたな。
鈴鹿さんはさらに説明を続ける。
「もっとも、ウィルスが怪人化を引き起こすことが分かってから、先生は研究から降りちゃったんだけどね……私は一人で研究を続けることに決めたのよ」
「……鈴鹿さんの本当の目的は何なんですか?」
ショックのせいか、霞の声が震えていた。
俺も目的の為に周囲の人間を怪人にしたという鈴鹿さんの行動は全くもって理解ができない。
「私の真の目的は暴走の危険性が無いラカサウィルスを生み出すこと。その為には私以外の特異体質者のデータが必要だった。霞、和人君……二人のおかげでとっても良いデータが取れたわ!」
「私達の……データ……」
「ええ。一つ良いことを教えてあげましょうか。あなた達の体内にもラカサウィルスがいるのよ。けれど、私と同じ特異体質者だから、暴走することは無いけどね」
「ま、待ってください! 特異体質者って、変身ウォッチで変身できる人間のことじゃなかったんですか?」
「そうね……和人君、間違いではないわ。ラカサウィルスは極度のストレスが掛かると、感染者に鋼鉄の身体を構築するの。それを応用したのが変身ウォッチよ。ほら、あれも装甲で身体を包んでいるでしょ? 変身アプリを起動すると、体内のウィルスを活性化するようプログラミングしておいたのよね」
ダークウォリアーは怪人化のプロセスを利用したものらしい。
つまり、俺が変身出来たのも体内にあるラカサウィルスのおかげというわけか。
「俺に注射を打ったのは、手術の時ですか?」
「その通りよ。まぁ、実際に打ったのは手術を担当した霞なんだけどね。ちなみに霞にも去年、同じ注射を打ち込んでいるわ」
「…………鈴鹿さん。どうしても訊いておきたいことがあります。私の母はラカサになって、駆けつけた警察に撃ち殺されました。鈴鹿さんが……母のことを怪人にしたんですか?」
鈴鹿さんが霞の母親のことを怪人に……もしそうなら、許すことの出来ない外道な行為である。
「ええ、そうよ。あの人は霞と違って特異体質では無かったみたいね。本当に残念だわ」
鈴鹿さんは悪びれもせずに言い放つ。
怒りからか、霞の肩がプルプルと震えていた。
霞は顔を伏せ、ポタポタと瞳から雫を垂らす。
「ふ、ふふ……ふざけるなぁ!!!」
「うわ!」
急に凄まじい風が吹き上げた。
霞の背中から黒い翼が生えたかと思うと、霞の身体が漆黒のメタリックな身体に変貌する。
それはまるで鴉を彷彿とさせるような怪人――霞はクロウラカサへと変貌した。
霞は小夜子の隣でパソコンの画面を興味深そうに見つめていた。
一方、俺の方は特にやることが無くなってしまった。
小夜子が作業を始めてから数分後、テーブルに置いてある霞のスマホがブルルとバイブした。
霞はスマホを手に取り、画面を見つめる。
「鈴鹿さんからだ。私達に話したいことがあるそうだ。大塚公園に来て欲しいらしい」
「分かった。小夜子、ちょっと俺達は出掛けて来るからここで待っててもらえるか?」
作業に没頭していた小夜子は「りょうかーい」とだけ返事をした。
俺と霞は待ち合わせ場所に指定された大塚公園に向かった。
噴水の近くにあるベンチにて、鈴鹿さんがスマホを弄っている姿が見えた。
「鈴鹿さん。お疲れ様です」
霞が鈴鹿さんに話し掛けると、俺達に気づいたようで顔を上げた。
「お疲れ様、二人とも! ごめんなさいね、わざわざこんなところにまで呼び出して」
「いえ、大丈夫です。けど、てっきり喫茶店で待ち合わせするものだと思っていました」
俺も霞と同じ意見であった。
忘れもしない、ここはスパイダーラカサと戦った場所である。
「まぁ……二人にとってここは忘れられない場所だと思ってね。まずは二人にはお礼を言いたいと思って。ようやくデータが収集し終わったのよ! これで次の段階に行けるわ」
「それって……ついにワクチンが作れるということですか?」
ワクチンが完成すれば、人々が怪人化することも無くなる。
実に喜ばしいことだと思ったのだが、鈴鹿さんから出た言葉は信じられないものであった。
「いやぁ。そもそもね……ワクチンを作る必要なんて無いのよ」
「え、どういうことですか?」
俺はまるで意味が分からなかった。
以前、鈴鹿さんは一刻も早くワクチンを作る必要があると言っていた。
「これを見て欲しいの」
鈴鹿さんは鞄から注射器を取り出した。
何やら注射器の中には怪しげな緑色の液体が入っている。
霞が「なんですか、これは?」と尋ねると、鈴鹿さんはニヤリと口角を上げる。
「これはね、ラカサウィルスが入った液体よ……これを注入された人間は怪人になる。二人とも、この意味が分かるかしら?」
まさか……いや、だが可能性としては十分にありえる。
この注射器を持っているということはつまり――
「鈴鹿さん、だったんですか……? 小夜子に注射したっていう人は……」
恐る恐る俺が尋ねると、鈴鹿さんは悪びれもせず、「ええ、そうよ」と答えた。
「どうしてそんなことを! 鈴鹿さんは怪人による被害を無くすために、ワクチンを開発していたんじゃないんですか!?」
「霞……あなたは賢いと思ってたんだけど、残念ね。ラカサはね、人類の進化系なのよ。病気にも罹らないし、余程のことが無ければ怪我もしない……私はこの注射で周囲の人間をラカサにして、データを集めてきた」
「ふ、ふざけないでください! そんな馬鹿げた計画の為に……私達を利用してきたんですか!?」
霞が怒りを露わにする。
しかし、鈴鹿さんはやれやれと肩を竦めた。
「馬鹿げた計画とは失礼ね。霞……元々はあなたのお父さんが考えていた計画だったのよ」
「そんな馬鹿な……父がそんな馬鹿げた計画を考えるはずがない!」
「本当よ。あなたのお父さんは病気に罹らなくなるウィルスを開発していた……かつて私は先生の教え子で、研究の手伝いをしていたのよ」
なるほど、少し話が見えてきた。
霞の父親がラカサウィルスを開発した張本人だったわけか。
確か、霞が大学進学した時にどこかに行ってしまったって言ってたな。
鈴鹿さんはさらに説明を続ける。
「もっとも、ウィルスが怪人化を引き起こすことが分かってから、先生は研究から降りちゃったんだけどね……私は一人で研究を続けることに決めたのよ」
「……鈴鹿さんの本当の目的は何なんですか?」
ショックのせいか、霞の声が震えていた。
俺も目的の為に周囲の人間を怪人にしたという鈴鹿さんの行動は全くもって理解ができない。
「私の真の目的は暴走の危険性が無いラカサウィルスを生み出すこと。その為には私以外の特異体質者のデータが必要だった。霞、和人君……二人のおかげでとっても良いデータが取れたわ!」
「私達の……データ……」
「ええ。一つ良いことを教えてあげましょうか。あなた達の体内にもラカサウィルスがいるのよ。けれど、私と同じ特異体質者だから、暴走することは無いけどね」
「ま、待ってください! 特異体質者って、変身ウォッチで変身できる人間のことじゃなかったんですか?」
「そうね……和人君、間違いではないわ。ラカサウィルスは極度のストレスが掛かると、感染者に鋼鉄の身体を構築するの。それを応用したのが変身ウォッチよ。ほら、あれも装甲で身体を包んでいるでしょ? 変身アプリを起動すると、体内のウィルスを活性化するようプログラミングしておいたのよね」
ダークウォリアーは怪人化のプロセスを利用したものらしい。
つまり、俺が変身出来たのも体内にあるラカサウィルスのおかげというわけか。
「俺に注射を打ったのは、手術の時ですか?」
「その通りよ。まぁ、実際に打ったのは手術を担当した霞なんだけどね。ちなみに霞にも去年、同じ注射を打ち込んでいるわ」
「…………鈴鹿さん。どうしても訊いておきたいことがあります。私の母はラカサになって、駆けつけた警察に撃ち殺されました。鈴鹿さんが……母のことを怪人にしたんですか?」
鈴鹿さんが霞の母親のことを怪人に……もしそうなら、許すことの出来ない外道な行為である。
「ええ、そうよ。あの人は霞と違って特異体質では無かったみたいね。本当に残念だわ」
鈴鹿さんは悪びれもせずに言い放つ。
怒りからか、霞の肩がプルプルと震えていた。
霞は顔を伏せ、ポタポタと瞳から雫を垂らす。
「ふ、ふふ……ふざけるなぁ!!!」
「うわ!」
急に凄まじい風が吹き上げた。
霞の背中から黒い翼が生えたかと思うと、霞の身体が漆黒のメタリックな身体に変貌する。
それはまるで鴉を彷彿とさせるような怪人――霞はクロウラカサへと変貌した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる