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第25話 元凶

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 小夜子は霞からノートパソコンを受け取り、作業を始める。
 霞は小夜子の隣でパソコンの画面を興味深そうに見つめていた。

 一方、俺の方は特にやることが無くなってしまった。
 小夜子が作業を始めてから数分後、テーブルに置いてある霞のスマホがブルルとバイブした。

 霞はスマホを手に取り、画面を見つめる。
「鈴鹿さんからだ。私達に話したいことがあるそうだ。大塚公園に来て欲しいらしい」
「分かった。小夜子、ちょっと俺達は出掛けて来るからここで待っててもらえるか?」
 作業に没頭していた小夜子は「りょうかーい」とだけ返事をした。


 俺と霞は待ち合わせ場所に指定された大塚公園に向かった。
 噴水の近くにあるベンチにて、鈴鹿さんがスマホを弄っている姿が見えた。

「鈴鹿さん。お疲れ様です」
 霞が鈴鹿さんに話し掛けると、俺達に気づいたようで顔を上げた。
「お疲れ様、二人とも! ごめんなさいね、わざわざこんなところにまで呼び出して」
「いえ、大丈夫です。けど、てっきり喫茶店で待ち合わせするものだと思っていました」

 俺も霞と同じ意見であった。
 忘れもしない、ここはスパイダーラカサと戦った場所である。

「まぁ……二人にとってここは忘れられない場所だと思ってね。まずは二人にはお礼を言いたいと思って。ようやくデータが収集し終わったのよ! これで次の段階に行けるわ」
「それって……ついにワクチンが作れるということですか?」

 ワクチンが完成すれば、人々が怪人化することも無くなる。
 実に喜ばしいことだと思ったのだが、鈴鹿さんから出た言葉は信じられないものであった。

「いやぁ。そもそもね……ワクチンを作る必要なんて無いのよ」
「え、どういうことですか?」

 俺はまるで意味が分からなかった。
 以前、鈴鹿さんは一刻も早くワクチンを作る必要があると言っていた。

「これを見て欲しいの」

 鈴鹿さんは鞄から注射器を取り出した。
 何やら注射器の中には怪しげな緑色の液体が入っている。

 霞が「なんですか、これは?」と尋ねると、鈴鹿さんはニヤリと口角を上げる。

「これはね、ラカサウィルスが入った液体よ……これを注入された人間は怪人になる。二人とも、この意味が分かるかしら?」

 まさか……いや、だが可能性としては十分にありえる。
 この注射器を持っているということはつまり――

「鈴鹿さん、だったんですか……? 小夜子に注射したっていう人は……」
 恐る恐る俺が尋ねると、鈴鹿さんは悪びれもせず、「ええ、そうよ」と答えた。
「どうしてそんなことを! 鈴鹿さんは怪人による被害を無くすために、ワクチンを開発していたんじゃないんですか!?」
「霞……あなたは賢いと思ってたんだけど、残念ね。ラカサはね、人類の進化系なのよ。病気にも罹らないし、余程のことが無ければ怪我もしない……私はこの注射で周囲の人間をラカサにして、データを集めてきた」
「ふ、ふざけないでください! そんな馬鹿げた計画の為に……私達を利用してきたんですか!?」

 霞が怒りを露わにする。
 しかし、鈴鹿さんはやれやれと肩を竦めた。

「馬鹿げた計画とは失礼ね。霞……元々はあなたのお父さんが考えていた計画だったのよ」
「そんな馬鹿な……父がそんな馬鹿げた計画を考えるはずがない!」
「本当よ。あなたのお父さんは病気に罹らなくなるウィルスを開発していた……かつて私は先生の教え子で、研究の手伝いをしていたのよ」

 なるほど、少し話が見えてきた。
 霞の父親がラカサウィルスを開発した張本人だったわけか。

 確か、霞が大学進学した時にどこかに行ってしまったって言ってたな。
 鈴鹿さんはさらに説明を続ける。

「もっとも、ウィルスが怪人化を引き起こすことが分かってから、先生は研究から降りちゃったんだけどね……私は一人で研究を続けることに決めたのよ」
「……鈴鹿さんの本当の目的は何なんですか?」

 ショックのせいか、霞の声が震えていた。
 俺も目的の為に周囲の人間を怪人にしたという鈴鹿さんの行動は全くもって理解ができない。

「私の真の目的は暴走の危険性が無いラカサウィルスを生み出すこと。その為には私以外の特異体質者のデータが必要だった。霞、和人君……二人のおかげでとっても良いデータが取れたわ!」
「私達の……データ……」
「ええ。一つ良いことを教えてあげましょうか。あなた達の体内にもラカサウィルスがいるのよ。けれど、私と同じ特異体質者だから、暴走することは無いけどね」
「ま、待ってください! 特異体質者って、変身ウォッチで変身できる人間のことじゃなかったんですか?」
「そうね……和人君、間違いではないわ。ラカサウィルスは極度のストレスが掛かると、感染者に鋼鉄の身体を構築するの。それを応用したのが変身ウォッチよ。ほら、あれも装甲で身体を包んでいるでしょ? 変身アプリを起動すると、体内のウィルスを活性化するようプログラミングしておいたのよね」

 ダークウォリアーは怪人化のプロセスを利用したものらしい。
 つまり、俺が変身出来たのも体内にあるラカサウィルスのおかげというわけか。

「俺に注射を打ったのは、手術の時ですか?」
「その通りよ。まぁ、実際に打ったのは手術を担当した霞なんだけどね。ちなみに霞にも去年、同じ注射を打ち込んでいるわ」
「…………鈴鹿さん。どうしても訊いておきたいことがあります。私の母はラカサになって、駆けつけた警察に撃ち殺されました。鈴鹿さんが……母のことを怪人にしたんですか?」

 鈴鹿さんが霞の母親のことを怪人に……もしそうなら、許すことの出来ない外道な行為である。

「ええ、そうよ。あの人は霞と違って特異体質では無かったみたいね。本当に残念だわ」

 鈴鹿さんは悪びれもせずに言い放つ。
 怒りからか、霞の肩がプルプルと震えていた。

 霞は顔を伏せ、ポタポタと瞳から雫を垂らす。

「ふ、ふふ……ふざけるなぁ!!!」
「うわ!」

 急に凄まじい風が吹き上げた。
 霞の背中から黒い翼が生えたかと思うと、霞の身体が漆黒のメタリックな身体に変貌する。

 それはまるで鴉を彷彿とさせるような怪人――霞はクロウラカサへと変貌した。
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