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第4話 霞の親友
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ダークウォリアーとして初変身をし、スパイダーラカサとの激戦を繰り広げた日から数日が経過した。
見るからに多くの社会人が憂鬱な顔している月曜日の朝、俺と霞は山手線に乗っていた。
理由は言わずもがな、変身ウォッチの開発に協力してくれたという霞の親友に会うためである。
「おい霞……大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。問題ない」
人酔いでも起こしたのか、霞は見るからに気分が悪そうである。
「ほ、本当かよ……」
まぁ、無理もないか。
なんせ今は通勤ラッシュの時間帯で、電車の中がぎっちぎちであった。
それにしても狭いな。
否が応にも霞と身体が密着してしまう。
まぁ、霞の身体は慎ましやかだったのは不幸中の幸いか。
今のところ俺のモノが変身する様子はない。
「……」
「ん、どうした霞?」
霞は何故か無表情で俺のことを見つめていた。
「なぜだろう。何か和人がとても失礼なことを考えている気がする」
「き、気のせいだよ……」
霞の奴、何と鋭いのだろうか。
俺達が降りた駅は秋葉原駅であり、そこではたくさんの外国人が下りて行った。
駅から出ると、美少女が描かれた看板や立ち並ぶアニメショップ、フィギアショップが目に付き、秋葉原特有の空気を感じた。
霞の友人は電気街にあるお店で働いているとのことだった。
「変わったな、秋葉原も……」
霞は電気街の景色を眺め、どこか寂しそうに呟いた。
三年前に上京した俺でも、随分と外国人観光客が増えたものだと感じる。
「霞はさ、この辺の生まれなのか?」
「ああ。小さい頃によくこの辺を連れて来てもらったよ。あの頃はもっとカオスというか……今じゃ随分と観光向けの場所になったと思う」
時代と共に街が変わっていくのは仕方のないこととはいえ、少々寂しいものである。
俺の地元も帰るたびに店が閉まり、人も減り、寂れていっている。
「ちなみに和人の出身はどこなんだ?」
「俺は宮城県だよ」
出身地を伝えると、何故か霞は急に立ち止まった。
「み、宮城県!? なぁ……もしかして、登米市だったり……?」
「え、うん。まぁ……そうだけど」
「あの石ノ森章太郎先生の出身地じゃないか! やっぱりアレか? 街の中にはライダーや戦隊の銅像とかたくさん置いてあったりするのか?」
霞の言う通り、俺の地元である登米市はスーパー戦隊や仮面ライダーの原作者、石ノ森章太郎先生の故郷である。
俺の地元は自然豊かな場所ではあるのだが、誇れる観光スポットが石ノ森章太郎記念館くらいしかない。
「いや、そういうのは石巻市の駅周辺にあるよ。石巻市に石ノ森萬画館ってのがあってだな……」
俺は歩きながら、霞に出身地のことを説明した。
霞は興味深そうに話を聞いていた。
思い返せば、上京してから一年以上帰省していないな。
東京への憧れを捨てられず、親の反対を押し切り、半ば強引に地元から出てきたが、久々に帰省するのも良いかもしれない。
霞は中央通りから外れた場所にある雑居ビルの前で立ち止まった。
ビルの中にはどこか懐かしさを感じるお店があり、店の入り口上部には『若月模型店』と記載された青い看板が掲げられていた。
「着いたぞ、ここだ」
霞が店に入っていき、俺も続けて入店する。
店の中は薄暗く、商品棚にはガンプラやアニメキャラのフィギアの箱が置いてある。
フィギアの展示コーナーもあり、改造されたガンプラが展示されていた。
俺にプラモデルを作る習慣は無いものの、こういうのを見ていると創作意欲が湧いてくる。
店内を見た限り、どうやら俺達以外にはお客さんはいないようであった。
レジのカウンターまで移動したが、店の奥で作業をしているのか、店員の姿が見当たらない。
「おーい。明依―、いるかー?」
霞が声を出すと、奥の方から「はーい」と快活な声が聞こえてきた。
店の奥から現れたのは赤い髪をした奇抜なファッションをしている女性で、オタク色の濃い店内からはかなり浮いている。
「紹介しよう、和人。私の親友、若月明依だ」
「どーも、初めまして! 明依です。霞から話は聞いてるよ! 怪人と戦うことになったんだってね」
「は、初めまして。木村和人と言います」
「うん、よろしくね! ここのお店で働いているんだけど、この通り、あんまりお客さん来ないんだ」
「明依はな。あの東京藝術大学に通ってるんだ。凄い奴なんだぞ」
霞が誇らしげに説明した。
東京藝術大学は国内唯一の国立の芸術大学であり、その入学難易度は東大をも凌駕すると言われている。
「す、すごいですね……」
「そんな、大したことないって! 私、大学で彫刻を専攻してて、課題の息抜きによくフィギアを作ってるんだ。和人君はフィギアとか興味ある?」
「はい。興味あります」
頻度はそこまで多くはないものの、俺は自分の好きなアニメや仮面ライダーのフィギアを購入することがあった。
「そっか、そっか! これ最近作ったフィギアなんだけど、どうかな? 良かったら感想聞かせて欲しいな」
明依さんはレジの下からにフィギアを取り出し、カウンター台に置いた。
そのフィギアは竜のフィギアあった。
「す、すごい……!」
俺は明依さんが作ったというフィギアをまじまじと観察した。
西洋の竜をモチーフにしたそのフィギアはまるで生きているかのような躍動感を感じる。
竜の髭から鱗に至るまで、細部に強い拘りを感じた。
特に炎のブレスを吐く表現のエフェクト……これがもうめちゃくちゃカッコ良かった。
「めっちゃカッコ良いです! こういうのってどれくらいで出来るんですか?」
「大体一週間くらいかな? ネットで販売もしてるんだ」
明依さんは自作フィギアの販売サイトを見せてくれた。
他には建築物や動物のフィギアなども制作しているようである。
「明依。すまないが、そろそろ本題に入っても良いか?」
「あ、ごめんごめん。そうだったね」
「頼んでいた例のもの……出来ただろうか?」
「うん! ちょうど昨日、出来たところだよ」
明依さんは再び店の奥へ移動し、模造剣とエアガンらしきものを持って戻って来た。
これが頼んでいたという例のものだろうか。
「私なりに考えてみた武器なんだけど、どうかな?」
何となく話が見えてきた。
ダークウォリアーとして戦うに当たって、明依さんに武器の開発を依頼していたということか。
つまり、この武器は本物……?
「うーむ、中々カッコ良いな。さすがは明依だな」
霞は剣を手に持ち、真剣な眼差しで観察を始めた。
ひとまず俺は銃の方を観察してみることにした。
あまり銃には詳しくないが、銃身の長いその銃はまるで火縄銃のようであり、アンティークさを感じた。
「明依さん、この銃って……もしかして、本物ですか?」
「あははは! そんな訳ないじゃん。もし本物なら銃刀法違反で捕まっちゃうよ」
明依さんからもっともなツッコミを入れられた。
霞が軽々と剣を持った時点で察してはいたのだが、訊かずにはいられなかった。
「明依には武器のモデルを依頼していたんだ。武器があれば、かなり戦闘を有利に進められるようになるからな」
「モデルって……それが無いと武器が作れないのか?」
「いや、そんなことは無い。しかし、武器の見た目はというのはかーなーり重要だろう?」
霞がピンと人差し指を立てる。
「さっすが、霞! よーく分かってるじゃん。和人君もちゃんと意見言ってね。気に入らないようだったらまた直すから」
二人とも随分と武器の見た目に対する拘りが強そうだ。
戦えれば何でも良いとまでは言わないが、まずは武器を完成させることの方が先決だと思うのだが……
「ふむ、和人。剣の方を見てくれ。銃を貸してくれるか?」
「わ、分かった……」
霞から剣を受け取り、代わりに銃を渡した。
明依さんがデザインしたというその剣は想像していたよりもかなり軽かった。
「剣……すごくカッコ良いです」
針のように細い剣身に茎のように華やかな曲線が特徴の柄が付いている『レイピア』と呼ばれる西洋剣は俺の厨二心をくすぐった。
「そっか。けど、まだ迷っている部分があってね。剣身の色を黒にした方が良いか迷ってたんだ。どっちが良いと思う?」
銀と黒か……うーん、悩むな。
どっちでも良いはダメだよな……
個人的にはこのまま銀色にした方がカッコ良さそうだと思った。
「俺は銀ですかね……」
「私は断然黒だ。絶対に黒色の方が良い。それと、グリップとリカッソに装飾を入れてもらえるだろうか?」
グリップ? リカッソ?
なんだ、それは。
「装飾か。確かにこのままだと味気ないよね……うん! 任せておいて。和人君は剣身の色、黒でも良いの?」
「え、あ、はい。すみません。黒でお願いします」
「オッケー! 任せておいて。銃の方はどう?」
「そうだな……銃身はもうちょっと長くして良いかもしれないな。あと、金属部分に装飾が欲しい。それと色だが、黒くして欲しい」
霞の奴……随分と注文が多いな。
あと、霞は黒色が好きらしい。
そういえば数日前、霞の部屋に訪れた時、黒色の下着が何枚か干してあったしな……言いづらくて見てない振りしていたけど。
明依さんは嫌な顔一つせず、「うん、うん」と頷いていた。
「分かった! 完成するまで一週間くらい時間掛かるけど、大丈夫?」
「構わない。明依が納得のいくまで作ってくれ」
「よーし、なら頑張らないとだね」
完成するまでの間、武器無しで戦わないといけないんだよな……不安だ。
「あの……二人は、いつからの付き合いなんですか?」
「高校時代からだよ。私が一つ年上なんだけど、勉強が苦手でさー。よく霞から教えてもらってたんだ!」
「そうだったんですか……」
てっきり二人とも同学年なのかと思っていたが、明依さんの方が年上らしい。
「私と明依は模型部に所属していてな……とは言っても、私達以外に部員はいなかったのだが」
「へぇ……模型部」
そういう部活もあるんだな。
俺が通っていた地元の高校には無かった部活である。
やはり、都会の高校には色んな部活があるということか。
「そうそう! 鉄道模型コンテスト、あれ楽しかったよね!」
部活をきっかけに二人の親交が深まったらしい。
二人は高校時代の話に花を咲かせ始めた。
「あ、二人で勝手に盛り上がっちゃって、和人君ごめんね」
「いえ……大丈夫です」
「和人君。この子、ちょっと不愛想だし、人見知りなところもあるけど……根は良い子だから、霞のことよろしくね」
「は、はい……」
「明依、久々に会えて嬉しかった。完成したら連絡頼む」
「おっけー! 期待してて待っててね」
俺達は店を後にし、駅の方向に向かって歩いた。
今の時間帯、中央通りは歩行者天国となっており、来た時よりもかなり人が増えていた。
「どうだ? 明依、良い奴だっただろう?」
「そうだな……とりえあず、凄い人だということは分かったよ」
「ああ、以前、明依にはダークウォリアーのモデル製作もお願いしたんだ。フィギアの製作であいつより長けた人間はそれこそプロくらいなものだからな」
「けど、お店の方はあまり繁盛してなかったな……」
この辺の土地代はかなり高いはずだ。
店の家賃とかどうやって工面しているのか気になったが、さすがに訊く勇気は無かった。
「あのお店は元々、明依の父親がやっていた店だ。今は通信販売が収入源らしい」
霞の話によると、明依さんの父親は店を娘に任せており、今は実家で陶芸を営んでいるとのことだった。
お店にやって来る人は昔ながらの常連がメインであるが、通信販売と自作フィギアの販売で利益は出ているらしい。
「私は久々にこの辺りを回ろうと思う。和人はどうする?」
「お、俺も……せっかくだし、見てみようかな」
久々に秋葉原へ来たのだ。
ゆっくりとこの辺りのお店を見させてもらうことにしよう。
俺達はアニメショップやフィギアショップを見て回り、買い物を楽しんだ。
「まさか、霞が男の子を連れてくるなんてね……」
二人が帰った後、私は店の奥で大学の課題に取り組んでいた。
彫刻刀を使って、せっせと石膏を削りあげる。
霞とは高校時代からの付き合いであるが、異性の友人を連れて来たのは初めてのことである。
いや、そもそも私以外の友人といるのを見たことが無い。
数日前に知り合ったばかりだと言っていたが和人君……何となくだけど、霞に気を持っているような気がした。
二人がくっ付くというのなら、私は精一杯応援するつもりである。
霞の交友関係が広がることは親友である私にとっても喜ばしいことだ。
「つっ……!」
彫刻刀で指を傷つけてしまった。
ダメだ。最近、どうにも彫刻が上手くいかない。
思い当たる理由はいくつもあるが、一か月前の講評で教授から酷評されたことが原因だろう。
――君の彫刻にはまるで個性がない。
――デザインセンスが圧倒的に欠落している。
――このままだと、いずれ儚く消えていく藝大生の一人になるだろう。
「うっ……!」
ああ、ダメだ……思い出しただけで息が苦しくなる。
私に傑作を作りあげるだけの『腕』があれば……!
もっと強い個性を、多くの人に突き刺さるようなデザインを。
そんな思いを込めて、私は彫刻に励んだ。
見るからに多くの社会人が憂鬱な顔している月曜日の朝、俺と霞は山手線に乗っていた。
理由は言わずもがな、変身ウォッチの開発に協力してくれたという霞の親友に会うためである。
「おい霞……大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。問題ない」
人酔いでも起こしたのか、霞は見るからに気分が悪そうである。
「ほ、本当かよ……」
まぁ、無理もないか。
なんせ今は通勤ラッシュの時間帯で、電車の中がぎっちぎちであった。
それにしても狭いな。
否が応にも霞と身体が密着してしまう。
まぁ、霞の身体は慎ましやかだったのは不幸中の幸いか。
今のところ俺のモノが変身する様子はない。
「……」
「ん、どうした霞?」
霞は何故か無表情で俺のことを見つめていた。
「なぜだろう。何か和人がとても失礼なことを考えている気がする」
「き、気のせいだよ……」
霞の奴、何と鋭いのだろうか。
俺達が降りた駅は秋葉原駅であり、そこではたくさんの外国人が下りて行った。
駅から出ると、美少女が描かれた看板や立ち並ぶアニメショップ、フィギアショップが目に付き、秋葉原特有の空気を感じた。
霞の友人は電気街にあるお店で働いているとのことだった。
「変わったな、秋葉原も……」
霞は電気街の景色を眺め、どこか寂しそうに呟いた。
三年前に上京した俺でも、随分と外国人観光客が増えたものだと感じる。
「霞はさ、この辺の生まれなのか?」
「ああ。小さい頃によくこの辺を連れて来てもらったよ。あの頃はもっとカオスというか……今じゃ随分と観光向けの場所になったと思う」
時代と共に街が変わっていくのは仕方のないこととはいえ、少々寂しいものである。
俺の地元も帰るたびに店が閉まり、人も減り、寂れていっている。
「ちなみに和人の出身はどこなんだ?」
「俺は宮城県だよ」
出身地を伝えると、何故か霞は急に立ち止まった。
「み、宮城県!? なぁ……もしかして、登米市だったり……?」
「え、うん。まぁ……そうだけど」
「あの石ノ森章太郎先生の出身地じゃないか! やっぱりアレか? 街の中にはライダーや戦隊の銅像とかたくさん置いてあったりするのか?」
霞の言う通り、俺の地元である登米市はスーパー戦隊や仮面ライダーの原作者、石ノ森章太郎先生の故郷である。
俺の地元は自然豊かな場所ではあるのだが、誇れる観光スポットが石ノ森章太郎記念館くらいしかない。
「いや、そういうのは石巻市の駅周辺にあるよ。石巻市に石ノ森萬画館ってのがあってだな……」
俺は歩きながら、霞に出身地のことを説明した。
霞は興味深そうに話を聞いていた。
思い返せば、上京してから一年以上帰省していないな。
東京への憧れを捨てられず、親の反対を押し切り、半ば強引に地元から出てきたが、久々に帰省するのも良いかもしれない。
霞は中央通りから外れた場所にある雑居ビルの前で立ち止まった。
ビルの中にはどこか懐かしさを感じるお店があり、店の入り口上部には『若月模型店』と記載された青い看板が掲げられていた。
「着いたぞ、ここだ」
霞が店に入っていき、俺も続けて入店する。
店の中は薄暗く、商品棚にはガンプラやアニメキャラのフィギアの箱が置いてある。
フィギアの展示コーナーもあり、改造されたガンプラが展示されていた。
俺にプラモデルを作る習慣は無いものの、こういうのを見ていると創作意欲が湧いてくる。
店内を見た限り、どうやら俺達以外にはお客さんはいないようであった。
レジのカウンターまで移動したが、店の奥で作業をしているのか、店員の姿が見当たらない。
「おーい。明依―、いるかー?」
霞が声を出すと、奥の方から「はーい」と快活な声が聞こえてきた。
店の奥から現れたのは赤い髪をした奇抜なファッションをしている女性で、オタク色の濃い店内からはかなり浮いている。
「紹介しよう、和人。私の親友、若月明依だ」
「どーも、初めまして! 明依です。霞から話は聞いてるよ! 怪人と戦うことになったんだってね」
「は、初めまして。木村和人と言います」
「うん、よろしくね! ここのお店で働いているんだけど、この通り、あんまりお客さん来ないんだ」
「明依はな。あの東京藝術大学に通ってるんだ。凄い奴なんだぞ」
霞が誇らしげに説明した。
東京藝術大学は国内唯一の国立の芸術大学であり、その入学難易度は東大をも凌駕すると言われている。
「す、すごいですね……」
「そんな、大したことないって! 私、大学で彫刻を専攻してて、課題の息抜きによくフィギアを作ってるんだ。和人君はフィギアとか興味ある?」
「はい。興味あります」
頻度はそこまで多くはないものの、俺は自分の好きなアニメや仮面ライダーのフィギアを購入することがあった。
「そっか、そっか! これ最近作ったフィギアなんだけど、どうかな? 良かったら感想聞かせて欲しいな」
明依さんはレジの下からにフィギアを取り出し、カウンター台に置いた。
そのフィギアは竜のフィギアあった。
「す、すごい……!」
俺は明依さんが作ったというフィギアをまじまじと観察した。
西洋の竜をモチーフにしたそのフィギアはまるで生きているかのような躍動感を感じる。
竜の髭から鱗に至るまで、細部に強い拘りを感じた。
特に炎のブレスを吐く表現のエフェクト……これがもうめちゃくちゃカッコ良かった。
「めっちゃカッコ良いです! こういうのってどれくらいで出来るんですか?」
「大体一週間くらいかな? ネットで販売もしてるんだ」
明依さんは自作フィギアの販売サイトを見せてくれた。
他には建築物や動物のフィギアなども制作しているようである。
「明依。すまないが、そろそろ本題に入っても良いか?」
「あ、ごめんごめん。そうだったね」
「頼んでいた例のもの……出来ただろうか?」
「うん! ちょうど昨日、出来たところだよ」
明依さんは再び店の奥へ移動し、模造剣とエアガンらしきものを持って戻って来た。
これが頼んでいたという例のものだろうか。
「私なりに考えてみた武器なんだけど、どうかな?」
何となく話が見えてきた。
ダークウォリアーとして戦うに当たって、明依さんに武器の開発を依頼していたということか。
つまり、この武器は本物……?
「うーむ、中々カッコ良いな。さすがは明依だな」
霞は剣を手に持ち、真剣な眼差しで観察を始めた。
ひとまず俺は銃の方を観察してみることにした。
あまり銃には詳しくないが、銃身の長いその銃はまるで火縄銃のようであり、アンティークさを感じた。
「明依さん、この銃って……もしかして、本物ですか?」
「あははは! そんな訳ないじゃん。もし本物なら銃刀法違反で捕まっちゃうよ」
明依さんからもっともなツッコミを入れられた。
霞が軽々と剣を持った時点で察してはいたのだが、訊かずにはいられなかった。
「明依には武器のモデルを依頼していたんだ。武器があれば、かなり戦闘を有利に進められるようになるからな」
「モデルって……それが無いと武器が作れないのか?」
「いや、そんなことは無い。しかし、武器の見た目はというのはかーなーり重要だろう?」
霞がピンと人差し指を立てる。
「さっすが、霞! よーく分かってるじゃん。和人君もちゃんと意見言ってね。気に入らないようだったらまた直すから」
二人とも随分と武器の見た目に対する拘りが強そうだ。
戦えれば何でも良いとまでは言わないが、まずは武器を完成させることの方が先決だと思うのだが……
「ふむ、和人。剣の方を見てくれ。銃を貸してくれるか?」
「わ、分かった……」
霞から剣を受け取り、代わりに銃を渡した。
明依さんがデザインしたというその剣は想像していたよりもかなり軽かった。
「剣……すごくカッコ良いです」
針のように細い剣身に茎のように華やかな曲線が特徴の柄が付いている『レイピア』と呼ばれる西洋剣は俺の厨二心をくすぐった。
「そっか。けど、まだ迷っている部分があってね。剣身の色を黒にした方が良いか迷ってたんだ。どっちが良いと思う?」
銀と黒か……うーん、悩むな。
どっちでも良いはダメだよな……
個人的にはこのまま銀色にした方がカッコ良さそうだと思った。
「俺は銀ですかね……」
「私は断然黒だ。絶対に黒色の方が良い。それと、グリップとリカッソに装飾を入れてもらえるだろうか?」
グリップ? リカッソ?
なんだ、それは。
「装飾か。確かにこのままだと味気ないよね……うん! 任せておいて。和人君は剣身の色、黒でも良いの?」
「え、あ、はい。すみません。黒でお願いします」
「オッケー! 任せておいて。銃の方はどう?」
「そうだな……銃身はもうちょっと長くして良いかもしれないな。あと、金属部分に装飾が欲しい。それと色だが、黒くして欲しい」
霞の奴……随分と注文が多いな。
あと、霞は黒色が好きらしい。
そういえば数日前、霞の部屋に訪れた時、黒色の下着が何枚か干してあったしな……言いづらくて見てない振りしていたけど。
明依さんは嫌な顔一つせず、「うん、うん」と頷いていた。
「分かった! 完成するまで一週間くらい時間掛かるけど、大丈夫?」
「構わない。明依が納得のいくまで作ってくれ」
「よーし、なら頑張らないとだね」
完成するまでの間、武器無しで戦わないといけないんだよな……不安だ。
「あの……二人は、いつからの付き合いなんですか?」
「高校時代からだよ。私が一つ年上なんだけど、勉強が苦手でさー。よく霞から教えてもらってたんだ!」
「そうだったんですか……」
てっきり二人とも同学年なのかと思っていたが、明依さんの方が年上らしい。
「私と明依は模型部に所属していてな……とは言っても、私達以外に部員はいなかったのだが」
「へぇ……模型部」
そういう部活もあるんだな。
俺が通っていた地元の高校には無かった部活である。
やはり、都会の高校には色んな部活があるということか。
「そうそう! 鉄道模型コンテスト、あれ楽しかったよね!」
部活をきっかけに二人の親交が深まったらしい。
二人は高校時代の話に花を咲かせ始めた。
「あ、二人で勝手に盛り上がっちゃって、和人君ごめんね」
「いえ……大丈夫です」
「和人君。この子、ちょっと不愛想だし、人見知りなところもあるけど……根は良い子だから、霞のことよろしくね」
「は、はい……」
「明依、久々に会えて嬉しかった。完成したら連絡頼む」
「おっけー! 期待してて待っててね」
俺達は店を後にし、駅の方向に向かって歩いた。
今の時間帯、中央通りは歩行者天国となっており、来た時よりもかなり人が増えていた。
「どうだ? 明依、良い奴だっただろう?」
「そうだな……とりえあず、凄い人だということは分かったよ」
「ああ、以前、明依にはダークウォリアーのモデル製作もお願いしたんだ。フィギアの製作であいつより長けた人間はそれこそプロくらいなものだからな」
「けど、お店の方はあまり繁盛してなかったな……」
この辺の土地代はかなり高いはずだ。
店の家賃とかどうやって工面しているのか気になったが、さすがに訊く勇気は無かった。
「あのお店は元々、明依の父親がやっていた店だ。今は通信販売が収入源らしい」
霞の話によると、明依さんの父親は店を娘に任せており、今は実家で陶芸を営んでいるとのことだった。
お店にやって来る人は昔ながらの常連がメインであるが、通信販売と自作フィギアの販売で利益は出ているらしい。
「私は久々にこの辺りを回ろうと思う。和人はどうする?」
「お、俺も……せっかくだし、見てみようかな」
久々に秋葉原へ来たのだ。
ゆっくりとこの辺りのお店を見させてもらうことにしよう。
俺達はアニメショップやフィギアショップを見て回り、買い物を楽しんだ。
「まさか、霞が男の子を連れてくるなんてね……」
二人が帰った後、私は店の奥で大学の課題に取り組んでいた。
彫刻刀を使って、せっせと石膏を削りあげる。
霞とは高校時代からの付き合いであるが、異性の友人を連れて来たのは初めてのことである。
いや、そもそも私以外の友人といるのを見たことが無い。
数日前に知り合ったばかりだと言っていたが和人君……何となくだけど、霞に気を持っているような気がした。
二人がくっ付くというのなら、私は精一杯応援するつもりである。
霞の交友関係が広がることは親友である私にとっても喜ばしいことだ。
「つっ……!」
彫刻刀で指を傷つけてしまった。
ダメだ。最近、どうにも彫刻が上手くいかない。
思い当たる理由はいくつもあるが、一か月前の講評で教授から酷評されたことが原因だろう。
――君の彫刻にはまるで個性がない。
――デザインセンスが圧倒的に欠落している。
――このままだと、いずれ儚く消えていく藝大生の一人になるだろう。
「うっ……!」
ああ、ダメだ……思い出しただけで息が苦しくなる。
私に傑作を作りあげるだけの『腕』があれば……!
もっと強い個性を、多くの人に突き刺さるようなデザインを。
そんな思いを込めて、私は彫刻に励んだ。
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