上 下
10 / 10

魔女と魔犬

しおりを挟む

 和んでいると、のっしのっしと大きな足音が聞こえてきました。
 足音の正体は、森から大木を抱えてやってきたゴーレムたちでした。

「もうそんなに! あ、そこ、そこらへんに置いておいてくださいー」

 ゆっくりとうなずくゴーレムたちが、大木をどしんどしん、と置いていき、材料を探すため再び森へ入っていきます。

「あれを切り出して乾燥させれば、建材として十分使えそうです」

 キチチ、と今度はハリーの鳴き声が聞こえてきました。

『魔女様ー。ボクの友達を連れて来たよ!』

 耳をピクピクと動かしたホーンラビットたちは、ぴゅーんと逃げだし、一瞬にして姿をくらましてしまいました。

「あぁーっ、私の癒しがっ!」

 すると、次は茂みからガサッと大きな犬が姿を現しました。

 よく焼けたパンのような小麦色の毛で、足先の毛色は白いです。くりん、と丸まった尻尾がとてもキュートです。
 ピンと耳を立てて真っ黒な目で私をじいっと見つめています。

「ワンちゃん? 狼?」

 その頭の上にハリーが止まりました。

『こいつはロッキー。魔犬の一種さ。こいつがいればホーンラビットたちも数は増えないと思うよ!』

 ロッキーと呼ばれた茶色の魔犬は、わふ、と口の中で小さく吠えた。心なしか顔が誇らしげです。

「た、食べる気ですか。あの子たちを」

 わぅ? と首をかしげられた。
 これはこれで可愛いですね……。

 すんすん、と地面に鼻を寄せたロッキーが、ふと顔を上げます。見つめるのは、さっきホーンラビットたちが逃げ去った方角でした。

「わふっ」

 尻尾をブンブンと振ってご機嫌そうにロッキーが駆けだしました。

「わぁぁぁあ!? 食べるんですね!? ダメですよ! ステイ、ステぇ――――イ!」

 慌てて両手を広げた私は、ロッキーの進行方向を遮ります。
 キキキキ、と急ブレーキをかけてロッキーが止まると、私の肩に乗ったハリーが尋ねました。

『どうしてダメなの? ホーンラビットが増えたからニンゲンの畑に被害が出てるんでしょ?』
『あの子たちの食べ物は、私がなんとかします』

 ホーンラビットがこそっと茂みから顔を覗かせ、こちらの様子を窺っています。あの白い子で、リーダーっぽいハクです。……今名前を勝手につけましたすみません。

 ハクは、エサを食べたいけど、怖い魔犬がいるからそっちに行けないなぁ……って言いたそうな顔をしていました。

『ハリーは、ワンコとも仲良しなんですね』
『ロッキーは、最近森で見かけるようになったんだ。ただの犬だと思ったら魔犬だってことがわかって、貴族に捨てられちゃったんだ』
「許せませんね、貴族」

 なぜかヴィンセント王子の顔がふわっと思い浮かんだので、慌てて手で消しました。

 ふりふり、とゆっくり尻尾を振っているロッキーは、大人しくお座りをしてこちらを見上げています。
 たしかに、言われてみれば、躾けがよくされているような気配がありますね。

『ここなら食べ物がいっぱいあるから連れて来たんだ』
「お手」

 手を差し出すと、両前足を手にのせてくれました。目がキラキラと輝いています。

「可愛い……。これはこれで全然アリです」

 なでなで、と頭や背中を撫でると思わず顔がほころんでしまいます。
 次の指示を待つように、ロッキーはまたきちんと座りました。

 ハリーを介して意思疎通をするのも大変なので、ロッキーにも【念話】の魔法を使うことにしました。

『さすが、魔女といったところか。このオレを手懐けるとは』

 クールな表情でロッキーは言いますが、尻尾が……千切れるんじゃないかってくらい振られています! ちょっとした風が起きてますよ、お尻のほうで!

 ……構ってもらえるのが嬉しかったんでしょうか?

 興奮したようにピスピス、と鼻を鳴らしながら、ロッキーはごろんと寝転がってお腹を見せた。

 もはや魔女は関係ありませんね。好感度は最初からマックスです!
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(15件)

マミタロ
2021.03.15 マミタロ

ロッキー可愛い。悶え死ぬww
こんなの転がるほど萌える。ロッキー欲しいなー。

解除
ウルウル
2021.02.28 ウルウル

モフモフキタ〜(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾

キラキラな湖でスローライフ…

優しいゴーレムさん…
目からビーム出せばあの超大作…
お気に入りに登録しました♪

解除
penpen
2021.02.22 penpen

   _/  \_
  // > ● < ヘ\
 ( | ∪ )
   ̄\   / ̄
   [二二二]
   ( O )_ノ|
   (ヽzイ /人_ノ)))))
    >∪∪<
首輪いるかしら?(*´∇`*)

解除

あなたにおすすめの小説

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

戦地に舞い降りた真の聖女〜偽物と言われて戦場送りされましたが問題ありません、それが望みでしたから〜

黄舞
ファンタジー
 侯爵令嬢である主人公フローラは、次の聖女として王太子妃となる予定だった。しかし婚約者であるはずの王太子、ルチル王子から、聖女を偽ったとして婚約破棄され、激しい戦闘が繰り広げられている戦場に送られてしまう。ルチル王子はさらに自分の気に入った女性であるマリーゴールドこそが聖女であると言い出した。  一方のフローラは幼少から、王侯貴族のみが回復魔法の益を受けることに疑問を抱き、自ら強い奉仕の心で戦場で傷付いた兵士たちを治療したいと前々から思っていた。強い意志を秘めたまま衛生兵として部隊に所属したフローラは、そこで様々な苦難を乗り越えながら、あまねく人々を癒し、兵士たちに聖女と呼ばれていく。  配属初日に助けた瀕死の青年クロムや、フローラの指導のおかげで後にフローラに次ぐ回復魔法の使い手へと育つデイジー、他にも主人公を慕う衛生兵たちに囲まれ、フローラ個人だけではなく、衛生兵部隊として徐々に成長していく。  一方、フローラを陥れようとした王子たちや、配属先の上官たちは、自らの行いによって、その身を落としていく。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。