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聖女の力と恩返し

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【グロウアップ】の魔法で伸びた草花を見かけたホーンラビットが、茂みから一羽、また一羽と姿を現し、むしゃむしゃと食んでいきます。

「お腹空いてたんですね。……しかし、癒されますね~」

 白毛の子もいれば、茶色、ミルクティー色、様々なホーンラビットたちがモフっとした丸い尻尾を揺らしながら一生懸命に草を食べています。

 ホーンというだけあって、眉間の上あたりに小さな角があります。

『これなら、ホーンラビットが人間の作物を食べることはないだろうね』

 ハリーが耳元で言いました。

『けど、食べつくすのも時間の問題だよ、魔女様』

 魔女様……。
 いい響きです。

『そのときは、また魔法を使いましょう』

 その場しのぎでしかないけれど、今はそれで十分でしょう。

『ちょっとボク、友達を呼んでくる』
『友達?』

 答えることはなく、ハリーはパタパタと飛び去ってしまいました。

「友達って誰でしょう?」

 首をかしげても、答えてくれるだろう小鳥はもう飛び去ったあとでした。

 気にせず、私はモフモフのホーンラビットの食事風景を眺め続けました。

 雑草を千切って口元に運ぶと、小さな口を懸命に動かして食べてくれます。

 森の入口からここまで、陰気でジメジメしていて暗がりばかりだったとは思えないほど、湖畔の風景は素敵で絵になります。

 ほどほどに開けていて、日当たりも良好。

「景色もいいですし、ここに家を建てましょう」

 所有者がいる森ではなさそうですし、どんどん切り拓いて快適で便利にしていきましょう。

 私が【人形遊び】の魔法を使うと、土が盛り上がり、それがどんどん人の形となっていきます。

 以前までは、手の平に乗るサイズしか作ったことがなかったのですが、思った通り上手くできました。

「こういうとき、マンパワーは必要ですからね」

 私の倍以上の背丈をした屈強な体格のゴーレムが一体完成です。
 物音に驚いたホーンラビットたちは、何が起きているのか不思議そうにこちらを見つめていました。

「建築に使う木材と石材にできそうな岩を持ってきてくれますか?」
「……」

 ゆっくりとうなずいたゴーレムは、のっしのっしと歩き、森の中へ消えていきます。
 同じゴーレムを他に二体作った私は、同様の指示を与えて彼らの帰りを待つことにしました。

「さてと」

 腕まくりをした私は【ハンドエッジ】の魔法を発動させました。

 ハサミやナイフがないときによく使った魔法で、魔力で覆った部分が刃のように鋭くなるものです。
 私は、見つけた朽ち木めがけて手を振っていきました。

 切れ味は抜群で、ザク、ザク、と朽ち木を削ることができ、すぐにクワがひとつ作れました。

「木製ですが、ないよりはマシでしょう」

 うんうん、はじめてにしては、なかなかいいんじゃないですか。
 お手製のクワを手にした私は、満足そうにうなずきます。

 湖畔を歩き回り、ちょうどよさそうな場所を見つけ、振り上げたクワをざくっと地面に突き刺しました。

「ここに魔女菜園を作ります」

 じいーっとこっちを見ていたホーンラビットに説明してみせます。

「【念話】を使ってないからわかりませんよね」

 あはは、と苦笑しながら、クワで地面の土を掘り返していきました。

 けどこれ、なかなかキツいですね……。結構な重労働です。農家さんたちには、尊敬しかありません……。

 離宮暮らしで、聖女として仕事をしていた私には、なかなか堪えるものです。

「ピィッ! キキ!」

 私の作業を見ていたホーンラビットがこちらに駆け寄ってきました。
 私が畑にしようとしている地面を前足を使って掘りはじめます。

「え? 手伝ってくれるんですか?」

 何も答えることはなく、ホーンラビットたちは黙々と固い土を掘り続けます。

「ありがとうございます。私も頑張ります」

 ザクッとクワを突き入れ、土を掘り返します。
 それをホーンラビットたちと繰り返しているうちに、手狭な部屋ほどの広さを耕すことができました。

 開墾部隊の力は凄まじく、私が耕した場所の倍近い広さを掘り返してくれました。
 それを整えて、作業は一旦終了です。

「助かりました」

 綺麗な純白の毛をしたホーンラビットが前足を上げて鼻をひくひくとさせています。

「ピキッ」

 他のホーンラビットたちにその子が何か言うと、こちらに集まってきました。

「まさか、あなたがリーダーですか?」

 純白のホーンラビットは何も言わず、口元をもにょもにょと動かすばかりです。
 背中を撫でると、もふっ、もふもふ……という気持ちのいい手触りでした。

「あったかい……癒されます……」

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