呪いの一族と一般人

呪ぱんの作者

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第六章 恋する呪いの話

第13話 俐都と壮太郎の出会い

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(魂に縁がある? どういうことだ?)

 俐都りとの問いに、流光りゅうこうは視線を泳がせた後、誤魔化すように咳払いする。

『あー、それは……。その子の加護を見たらわかるだろう?』

 日和ひよりを厄災から守る狛犬達。それとは別に、日和の額に描かれた神の加護を表す印。

 日和の加護の主力となっているのは、厄除けと縁結びの力を持つ神の加護。日和の命を守るモノと縁を繋ぐ加護だ。

 俐都と篤那あつなが魔物に襲われる直前の日和に出会えたのも、加護のおかげだろう。

『その子の守り神が、ここの神と縁を繋いで、お前達を助ける道具を渡した。そういうことで納得しとけ』
 流光は歯切れが悪く、何か隠している様子だった。俐都はジト目で流光を睨む。

「あ、あの、天翔慈てんしょうじさん。大丈夫ですか?」
 守り神と言葉なく会話していた為、日和には俐都が急に押し黙ったように見えて不安に思ったようだ。

「大丈夫だ。あと、名前で呼んでいいし、敬語もいらねえよ。同い年なんだろう?」
「俐都さん。あの」
「さん付けもいらねえよ。どうした?」
 日和は顔を赤くして眉を下げる。

「あの、その……一回下ろした方が……。その、私、重いし」
「重くねえよ。それに、俺は呪具無しでも、片手で二百キロくらいまでなら普通に持てる。呪具有りなら、四倍の重さはいけるな。前に仕事で、牛一頭を抱えて山道を走ったこともあるし」

「牛一頭を抱えて山道を走る仕事とは……」
「聞くな。思い出したくねえ」
 俐都の声と表情で苦労を察したのか、日和はそれ以上言及するのをやめた。

「俐都君。助けてくれて、ありがとう」
「どういたしまして。さて、魔物もいなくなったし、篤那達と合流するか」

「魔物は全部倒せたの? 美梅みうめさんは?」
 日和の問いに、俐都は首を横に振る。

「魔物の親玉は、別の場所にいる。ここは最奥じゃない」
「……美梅さんは無事なのかな?」
 攫われた人間のことを心配して、日和は不安げな弱々しい声で呟く。

「攫ったということは、何か目的があるんだろう。保証はねえが、無事な筈だ」

 この異界の主である魔物は、参拝した人間達に直接手を下すのではなく、縁を操作するなど回りくどい手で害していた。何故、鬼降魔きごうまの人間を攫ったのかは謎だが、すぐに殺されることはないだろう。

「不安になるより、まずは信じることを決めろ。そうじゃねえと、足がすくんで動けなくなるぞ」

 俐都の言葉に、日和は顔を上げて頷く。綺麗なとび色の瞳は、怯えながらも前に進もうとする力があった。

 狛犬と神の加護を持っている日和。生きている人間のほとんどが加護を持っている為、特別なことではない。

(鬼降魔と一緒にいるけど、本当に普通の子だよな……。自分の加護の姿すら見えていない)
 寄り添うように存在している狛犬達の姿も、日和の目には映っていない。

「そういえば、狛犬の……あー、日和って呼んだ方がいいか? どうして術や魔物が見えているんだ?」
  
 魔物は邪気や穢れを持っている為、人外とはいえ鬼降魔でも視認することが出来る。だが、特別な力を持っていない日和では、術も魔物も視認する事は出来ない筈だ。日和は眼鏡を外して手に持った。

壮太郎そうたろうさんが眼鏡に術をかけてくれて、呪術に関するものや邪気、穢れを見えるようにしてくれているの」

「は!? 壮太郎さんが!?」
 俐都は驚きと共に目を見開く。日和の手にある眼鏡をよく見てみれば、フレームの裏側に白銀色の術式が小さく描かれていた。

 呪術が使える者なら当たり前に見えるものを見えるようにしただけの能力的価値の低い呪具。日和に言われなければ、壮太郎を尊敬している俐都ですら”壮太郎が作った呪具”とは思わなかっただろう。
 
(この子を守る為か……。壮太郎さんの妹さんも、呪具を欲しがる連中に何度も誘拐されたって言ってたもんな)
 
 俐都が壮太郎の呪具を持っていられるのは、天翔慈の人間であること、篤那の側にいる人間だからだ。
 そうでなければ、俐都も壮太郎の呪具を欲しがる天翔慈家の人間に権力を使われて、無理やり奪われていただろう。

 日和の眼鏡に描かれた術式は、構築式が出来すぎている。簡潔で繊細な術式は、並大抵の術者では生成できない。後付けで能力の付加が出来るようにもしている。使用者が力を注がなくても、周囲にある呪術の力を吸い取り、呪具として効果を発揮する優れ物。

「やっぱ、壮太郎さんは凄えな」
 俐都が感嘆すると、日和も嬉しそうに頷いた。

「にしても、どうやって壮太郎さんと知り合ったんだ? やっぱ、じょうさん繋がりか?」
「うん。丈さんが仕事の助っ人に呼んで知り合ったの。色々と気にかけてくれて、優しい人だよ」
 日和は嬉しそうに壮太郎のことを話す。表情から見て、日和は壮太郎を信頼しているのだろう。

「幸せな出会い方をしたんだな。俺とは大違いだ」
「え?」
 俐都の言葉に、日和はキョトンとする。

「俺は、壮太郎さんに出会った日にボコボコにされた」
「えええ!?」
 日和が驚いて叫ぶ。俐都は当時を思い出して苦笑した。

「まあ、全部俺が悪いんだけどな。俺、昔は尖ってたからさ。強い奴がいるって聞いて、壮太郎さんに出会い頭に喧嘩をふっかけたんだ」

 思い出せば黒歴史の過去。
 苦労続きの人生でやさぐれていた俐都は、周囲に鬱憤を撒き散らすように暴力を振るい、振われながら生きていた。

 二十五歳の頃、俐都の地元に仕事でやってきた結人間ゆいひとま壮太郎そうたろう鬼降魔きごうまじょうのことを聞きつけ、俐都から喧嘩をふっかけた。

 壮太郎は面倒だと言って相手にしないまま通り過ぎようとしたが、心配して近づいてきた丈を俐都が殴りつけようとした。

 自分の大切な人間が害されることを許さない壮太郎によって、俐都は抵抗することも出来ぬまま、訳もわからない内に地面に倒された。

 一瞬の出来事。俐都を見下ろす壮太郎の冷たく鋭利なナイフのような目。

「マジでカッコ良かった。あの強さ、本当に痺れた」
 自分は強いのだと思い込んでいたのが馬鹿らしくなる程、強烈にやられた日。自分が狭い世界で生きていたのだと思い知らされた。

「……何で、それで尊敬できたの?」
 日和は理解出来ないのか眉を寄せる。俐都は笑った。

「男は強い人に憧れるもんなんだよ。まあ、その後、俺は壮太郎さんに、めちゃくちゃ助けられたしな」

 壮太郎が手助けしてくれたおかげで、俐都は篤那と出会い、今の人生がある。

(ボケボケ篤那の世話は、予想以上に大変だけどな)
 苦労が消えたわけではない。大変なことはあるが、今の人生が気に入っている。あのまま壮太郎と出会わなかった人生を考えるとゾッとする程に。
 
「つうか、喋りすぎた。そろそろ篤那達と合流しないとな。あいつらのところにも、魔物が現れている筈だ」
「え!? だ、大丈夫かな? 碧真あおし君」
「クソガキのことが心配か? 篤那がいるから大丈夫だ。あいつはボケた野郎だが、能力は高い。鬼降魔のクソガキも、篤那がいれば無事だろう」

「身の安全もあるけど、そうじゃなくて……」
 首を傾げる俐都に、日和は苦い顔で口を開く。

「碧真君。コミュニケーション能力が壊滅的だから、篤那さんと喧嘩になってそうというか……」
「あー……」
 篤那と碧真のことを思い浮かべて、俐都も苦い顔になる。俐都が思うに、天然な篤那に碧真が一方的に怒っていそうだが、連携が取れないことは間違いないだろう。

「早く戻るか」
「わあ! 待って! トラウマを刺激しないで!! ゆっくりでお願いします!!」
 俐都が足に力を込めて一気に跳躍しようとすると、日和が必死の形相で叫ぶ。

「何で、俺の周りって我儘な奴らばかりなんだ? 俺の人生、どう考えても苦労が多すぎだろ」
 
 俐都は疲れた溜め息を吐いた。

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