呪いの一族と一般人

呪ぱんの作者

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第五章 呪いを封印する話

第11話 二つ目の名前の玉

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 異空間内に迷い込んだ子供達と合流を果たした日和ひより碧真あおしは、脱出方法である”術者の名前探し”を始める事にした。

「名前がある場所のヒントとか無いのかな?」

 脱出ゲームなら、隠し場所のヒントとなる暗号のようなものがある。ヒントも無しに、広い空間で小さな玉を見つけ出すのは時間が掛かるだろう。

「それは無いだろうな。立て札に書かれていた言葉や禁呪となっている事から考えても、術者は対象へ憎悪を持って、この空間を作った筈。精神的な攻撃をする為に偽りの情報は与えそうだが、ヒントなんて優しいものを与えるとは思えない」

 日和の考えを、碧真は溜め息と共に否定した。
 
「一つだけ、名前がある場所を知っているわ」
 成美なるみの言葉に、他の三人は驚く。

「ここに来る途中に扉が開いている家があって、中に名前が置いてあるのが見えたの。すぐそこにあるから、行ってみない?」

「案内しろ」
 碧真に言われて、成美は頷くと、先頭に立って歩き出す。 

 先ほど襲撃して来た一体目の『影』が出てきた路地の角を曲がって、すぐ左に扉が開け放たれた家があった。

 碧真は玄関前で立ち止まり、室内に視線を巡らせる。
 土間の奥、居間の中央にある大きな座卓の上に、ひらがな一文字が書かれた丸い玉が置いてあった。

「あ! あるよ! 名前!」
 嬉しそうな声を上げながら居間へ近づこうとする陽飛はるひを、成美が止める。

 碧真の足元に加護のへびが姿を現した。巳は玄関の土間を這い、居間に上がり込む。巳が座卓の上にある玉を咥えようとするが、擦り抜けてしまった。

「偽物?」
 陽飛は首を傾げる。成美は首を横に振った。

「偽物じゃなくて、加護が名前に触れる事が出来ないようにしてあるの。なるも加護を使って名前を取ろうとしたけど、出来なかった。私が直接触った時には、名前に触れる事が出来たの」
 
 碧真は面倒臭そうな顔で銀柱ぎんちゅうを取り出す。碧真は地面に銀柱を落として、自分以外の三人を箱型の結界で包んだ。

「俺が中に入って取ってくる。お前達は動くなよ」

 碧真は三人に背を向けて、左手に銀柱を構えたまま家の中に入る。
 碧真は座卓の上に置かれた名前の玉へ右手を伸ばす。碧真の指先が玉に触れようとした時、座卓下の暗闇がうごくのが見えて、日和はハッとする。

「碧真君! 下!!」
 日和が叫ぶのと同時に、うつ伏せ状態で隠れていた『影』が勢いよく起き上がり、座卓が吹き飛ぶ。碧真は体勢を低くして、飛んできた座卓を避けた。

 土間に落ちた座卓が派手な音を立てて壊れる。飛んできた座卓の破片が結界に当たって地面に落ちた。驚いて固まった陽飛を、成美が庇うように抱きしめる。

 碧真は体勢を低くしたまま、『影』を睨みつける。立ち上がった『影』は碧真を見下ろした後、ゆっくりと顔を上げて、玄関前にいる日和達に顔を向けた。
 
 瞬きの間に、碧真の前から『影』が姿を消す。碧真は背後から聞こえた衝突音に驚いて振り返る。日和達を包む結界に『影』が張り付いていた。

「うぇぇええええっ!? なんで、こっちに来るのぉっ!?」
 日和は驚いた声を上げる。陽飛も小さく悲鳴を上げた。

 『影』は指先を折り曲げて、結界の表面を引っ掻く。結界内に、黒板を傷つけるような嫌な音が響き渡り、日和と陽飛はゾッとして鳥肌が立つ。

 結界の表面を何度も高速で引っ掻いて壊そうとする『影』の首に、巳が絡みつく。巳がそのまま地面に向かって引っ張ると、『影』の体が海老えびりになり、指先が結界から離れた。

 碧真が『影』の後ろの地面に銀柱を投げる。銀柱から生成された青い光の糸が、『影』の上半身に絡みつく。糸が一気に収縮して、『影』の体を仰向けの状態で地面に引き倒した。

 体に巻きついた糸を食い千切ろうとしたのか、『影』の顔に赤い唇が浮かび上がる。碧真が、すぐさま『影』の口に向けて銀柱を投げた。
 開きかけていた『影』の口と碧真の足元の地面に銀柱が突き刺さる。碧真の目の前に壁状の結界が生成される。

 碧真が指を鳴らすと、『影』の顔が膨張して、口から青い光が漏れると共に爆発した。

 砂埃が収まると、『影』の姿は消えていた。

「た、倒したの?」
「ええ。大丈夫そうよ」
 不安げな表情を浮かべていた陽飛は、成美が微笑んで頷くのを見てホッとする。

 結界が解除される。建物から出てきた碧真の手には、『ち』と書かれた玉が握られていた。

「術者の名前だ」
 碧真が倒した『影』は、成美や日和から名前を奪った『影』とは別だったらしい。碧真は手に入れた名前を上着のポケットにしまった。

「碧真君? どうしたの?」
 術者の名前を手に入れられたというのに、碧真の表情は険しい。

「今の奴も、その前の奴もだが……。明らかに俺の方が近い位置にいるのにも関わらず、『影』は結界に囲まれた人間に向かって行った。名前がられている人間を優先的に狙っているのか。それとも、別の何かがあるのか……」

「碧真君が術を使える人だからとかじゃない? 反撃出来ない弱い方を狙うとか、単純な理由だと思うけど」

「それなら、そいつらが逃げていた時に、名前を多く奪われるのは逆になっていただろう?」

 碧真は陽飛と成美へ視線を向ける。
 日和達が異空間内に来る前に名前を多く奪われていたのは、術が使える成美の方だった。

「追いかけてきた『名取君』も、ぶら下がっていた『名取君』も、俺じゃなくてお姉ちゃんを狙っていたよね」

 その時点では、日和も陽飛も名前を一文字奪われているという条件は同じだった。その上、追いかけてきたのは、陽飛の名前を奪っていた『影』。陽飛を襲う方が、名前を早く揃えられて効率的だ。  

 建物のひさしにぶら下がっていた『影』は、位置的にも陽飛を襲う事は可能だったが、日和に狙いを定めて落下してきた。

 陽飛が横道に入って見つけられなかっだけ。陽飛より背の高い日和の方が『影』から近かったから。日和が襲われた理由を、そう考えてもいいが……。

「もしかして、女性を狙っているとか?」

 成美と日和を中心に狙っていた『影』。成美と日和の共通点としてパッと思いつくのは、性別が同じという事だ。

 術者の目的は復讐。性別で狙いを定めているのだとしたら、術者は女性に復讐したかったという事だろうか。

「『影』に性別を判断出来る能力があるのか?」
 碧真の言葉に、日和は苦い表情を浮かべて眉を寄せた。

(確かに、耳が無いのなら声で判別は出来ないし。目はあるのかもしれないけど、性別を判断出来るかわからないよね……)

 術者は誰に復讐をしたかったのか、どうして名前を奪う術を作ったのか。
 術が作られたのは、百年以上も昔の事。術者も復讐に関係する人間も、この世には既にいない。術者がどんな思いを抱えていたのかは、謎として終わるだろう。

(今は脱出する事だけを考えよう)

 今出来る事に目を向けようと、日和は一人頷いた。

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