呪いの一族と一般人

呪ぱんの作者

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第三章 呪いを暴く話

番外編:クリスマスと冬の虹色花火

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「お兄様、いざ尋常に勝負です!」
 
 まりを手に持ち真剣な顔で睨みつけてくる妹と対峙して、壮太郎そうたろうはニヤリと笑う。

「いいよ。かかっておいで」


 結人間ゆいひとま壮太郎そうたろう、十五歳の冬。
 兄妹の負けられない戦いは、自宅の裏庭で開始されようとしていた。

 自宅の裏庭は、小学校の運動場の半分くらいの広さがある。
 そこに、自分達を包むドーム状の結界を張った。誰にも邪魔されず、家を破壊して親に怒られない様に万全の準備を整えた舞台。

 結界の外には、勝負の見届け人である姉がいる。
 姉は、金色のベルを持った右手を頭上に挙げた。

「ルールは、相手の手首につけたリボンを取った方の勝ち。じゃあ、このベルが地面に落ちたら開戦ね」
 壮太郎の左手首には緑色のリボン、妹の左手首には赤色のリボンが結び付けられている。
 二人が頷くと、姉はベルから手を離した。

 金色に輝くベルは光を反射させながら、石畳の上に落ちる。

 リィンという甲高い音と共に、妹は持っていた鞠から手を離した。
 
 鞠が地面に落ち切る寸前に、妹が蹴り飛ばす。白銀色に光り輝く鞠は、時速二百キロは超える速さで宙を走り、壮太郎に一直線に向かって来た。
 
 壮太郎は鞠に向かって右手をかざす。右手の中指にめた指輪が白銀色の光を放ち、壮太郎を守る結界を一瞬で生成した。

 結界に弾き飛ばされた鞠がふわりと宙へ浮かび、妹の手に戻る。

「正攻法では僕に勝てない事はわかっているだろう?」
 壮太郎は妹を挑発して笑う。妹は不敵な笑みを返した。

「勿論わかっております。元より、正攻法でお兄様に挑む気はございませんから」

 妹は後ろへと跳び、壮太郎と距離を取る。
 妹が鞠の表面に描かれた術式に力を注ぐと、壮太郎の半径五メートルをドーム状に取り囲むように、空中にてのひらサイズの箱が複数出現した。

 妹が新しく考えた術のようだ。ただの箱にしか見えないが、妹の力である白銀色の光を帯びている事から考えても、何かしらの仕掛けがあるのだろう。

 妹が再び鞠を蹴る。宙を飛んだ鞠が向かう先は、壮太郎ではなく、周囲にある箱だった。箱にぶつかって跳ね返った鞠は、速度を増して別の箱に向かっていく。箱にぶつかる度に、鞠は速度を増し、鈍い音を立てた。

「加速する攻撃か。しかも、鞠の重みも増している様だね」

 高速で宙を走る鞠。暫く目で追っていたが、鞠は動体視力では追えないような速度に達した。

「さて、どうされますか? 鞠は鉄球くらいの強度に達しています。当たれば、ただでは済みません。降参されますか?」

「確かに、当たれば無事じゃ済まないだろうね」
 この速度と強度ならば、人体の骨は粉々に砕かれるだろう。
 攻撃を結界で防いだとしても、反撃するには結界を解除しなければならない。攻撃に移るまでの間に、追撃されてしまうだろう。

 全力で殺しにかかっていると思うような術。妹は、それほど真剣なのだろう。

「まあ、当たらなくちゃ、意味は無いけどね」

 壮太郎は右横へ一歩移動する。その瞬間、壮太郎の横を鞠が通り過ぎて行った。

「避けた!? まだ見えると言うのですか!? でも、ここからです!」
 鞠は更に速度を上げていく。もはや、影すら目では捉える事が出来ない。

 壮太郎は半歩後ろへ移動した。壮太郎の前を再び高速の鞠が横切る。壮太郎が移動し、鞠が元いた場所を通り過ぎるというのを数回繰り返した。壮太郎はピタリと立ち止まる。

「うん。ここだね」
 壮太郎は余裕の笑みを浮かべる。攻撃する筈の鞠は、壮太郎を避けるように箱の間を移動し続けるだけになった。

「当たらない!? 何故!?」
 妹は驚いたように目を見開いた。

「空中にある箱の位置と跳ね返った鞠の角度から計算すれば、当たらない場所を見つけ出す事は出来るからね」
 壮太郎の言葉に、妹は悔しげに顔を歪める。

「もう終わりかい? それなら、僕の番かな?」
 壮太郎は右手首にあるブレスレットに力を注ぎ、『天狗てんぐ羽団扇はうちわ』へと変化させる。

(まずは、この邪魔な物体を……)

「お兄様」
 呼ばれて視線を向ければ、妹は挑発の笑みを浮かべていた。壮太郎は訝しげな表情になる。

「私も結人間ゆいひとまの女ですから、勝つ為にしたたかに行かせてもらいます」
 妹はそう言うと、壮太郎に向かって足を踏み出す。

「何を……」
 壮太郎は目を見開く。妹は、鞠の攻撃範囲内に自ら踏み込んだ。

 妹がいる位置は、鞠の攻撃をまともに受ける位置。妹は術を解除するわけでもなく、立ち止まって目を閉じた。焦った壮太郎は『天狗の羽団扇』で作り出した風の刃で、宙に浮かぶ箱を切り刻みながら、妹へ向かって走り出す。

 箱を破壊する事で、鞠が妹へ当たる事を一時的に防ぐ事は出来た。しかし、風の刃から逃れた鞠は、残っている箱を使って高速移動を続け、再び妹へ向かって飛んで行く。

 壮太郎は妹の腕を引っ張って、自分の腕の中に抱き込む。『天狗の羽団扇』で、周囲にある箱を全てを薙ぎ払う風の刃を放ち、指輪の呪具で自分と妹を守る結界を作り出した。

 破壊された箱と鞠の破片が重たい音を立てながら、結界の上に降り注ぐ。

「お兄様」
 腕の中で、妹が壮太郎を呼ぶ。妹が無事だとわかり、壮太郎は安堵の息を吐いた。

「なんて無茶をす……」
 目の前に突きつけられた緑色のリボンを目にして、壮太郎は固まる。妹はにっこりと笑った。

「私の勝ちですわね」
「まさか、わざと……」
 壮太郎の言葉に、妹は頷く。

「ええ。お兄様なら、必ず私を助けて下さると思いましたから」
「……はは」
 壮太郎は苦笑いする。妹はわざと危険に身をさらして壮太郎に自分を助けさせた後、手首のリボンを奪った。相手の行動と心理を読み取り、掴んだ勝利。

(流石は、結人間の女性だね)

「勝負あり!」
 姉の言葉と共に裏庭に張られた結界が解かれて、兄妹の勝負が終わる。妹は嬉しそうに、ぴょんと飛び跳ねた。

「嬉しい! これで、じょうさんとクリスマスを過ごす権利は私のモノですね!! 早速、丈さんにお伝えせねば!」
 はしゃいだ妹は、丈の待つリビングに向かって走り出した。妹の背中を見つめ、壮太郎は肩を落とす。

「僕が一緒に出かける予定だったのに……」
 
 今日は十二月二十五日。世間で言うクリスマスだ。
 壮太郎は丈と一緒に公園で開催される『クリスマスの謎解きイベント』に参加する約束をしていた。

 『クリスマスの謎解きイベント』は、大きな公園内に仕掛けられている謎を解くイベント。小学生の部、中学生の部、高校生の部、大人の部に分かれており、各部で早く正確に謎を解けた者には賞品が出る。

 壮太郎達が参加する中学生の部の賞品は、新作のゲーム機とソフト。
 クラスメイトから情報を手に入れた壮太郎が丈を誘って、一緒に参加する約束をした。
 優勝して賞品を手に入れて、冬休みに丈と遊ぼうと数日前から意気込んでいたのだが……。

 壮太郎の家に丈が迎えに来た所を、妹に見つかったのが失敗だった。

「私が丈さんと一緒にクリスマスを過ごします!! お兄様はいつも一緒ではないですか! 可愛い妹に譲ってください!!」
「嫌だ! 僕が丈君と遊ぶ約束をしてるんだ!」
「お兄様! 子供みたいな事を言わずに大人になってください!!」
「僕はまだ子供だ! 絶対に譲らないからね!」

 玄関で駄々をこねて左右の腕を引っ張ってくる兄妹に、丈は困ったような顔で立ち尽くした。 
 騒ぎを聞いて玄関にやってきた姉の提案で、先程の勝負が行われた。

 妹が嬉々として丈と遊びに出掛けるのを見送り、壮太郎はリビングへ戻った。
 兄妹の勝負で使用する為に剥ぎ取ったリボンとベルを部屋の隅に置かれたクリスマスツリーへ戻す。
 しょんぼりとした様子の弟の肩を、姉が苦笑しながら叩いた。

「今日くらいは譲ってあげてもいいじゃない。あんた達は、いつも一緒なんだから」
「そりゃ、僕達は親友だからね。ずっと一緒にいるよ」
 壮太郎にとって、丈は一番の親友だ。丈もそう思ってくれているだろう。

「”ずっと一緒”は無理じゃない? 高校は一緒だろうけど、別の大学に進学する場合もあるし。大人になれば、就職や結婚とかで会える時間は減るから。私も進学して、高校の友達とは滅多に会わなくなったし。お互いの性格が合わなくなる場合もあるからね」

 壮太郎より五つ年上の姉は、現在大学生だ。
 姉は特定の親友はおらず、その時に合う人と一緒にいるタイプで、家に遊びに来る友人もバラバラだ。姉から見たら、丈と壮太郎の関係は理解出来ないものらしい。

「人間関係に絶対は無い。変わりやすくて、不確かなものよ。だから、丈君だけに固執しすぎないで、他の子と一緒にいるのもいいんじゃない?」

 姉はソファに座り、リモコンを操作してテレビをつける。
 テレビ画面には、『恋人達のクリスマス』と題して、街にいる幸せそうな恋人達に街頭インタビューをする様子が映し出されていた。
 一週間前に恋人と別れたばかりの姉は舌打ちをして、黒いオーラを放つ。

 不機嫌になった姉がいるリビングから退散し、壮太郎は自分の部屋に戻った。

 暇潰しに課題でもやろうかと、机の前の椅子に腰掛ける。

 壮太郎が通う学校は中高一貫校なので受験は無いが、高校に進学する為の課題やテストはある。手に持ったシャープペンシルを回しながら、問題集を開く。得意の数学の解答欄をテンポよく埋めていった。

(今日中に課題を全部終わらせて、残りの冬休みは丈君と遊べるようにしよう)

 丈も壮太郎も面倒事は即座に終わらせるタイプだ。丈も今日か明日で課題を終わらせるだろう。家の用事で互いに正月の二日間は遊べない日はあるが、それ以外は遊べる。

(ずっと一緒だから、わかっちゃうよね)

 小学校一年生の時に出会って、それからずっと一緒にいる。 
 これからも、ずっと一緒にいたい親友だ。

 ──”ずっと一緒”は無理じゃない?

 姉の言葉が蘇り、壮太郎は手を止める。

 大人になれば、友人と会う時間は減ると言う事は、周りの大人達を見ていればわかる。両親にも友人はいるが、仕事が忙しくて滅多に会わないようだ。

(もし、僕と丈君もそうなってしまったら……)

 会う事がなくなって、会わなくても平気になって。
 毎日の忙しさに、存在すら思い出す事もなくなって。
 一緒に笑い合った大切な人を、大切だと思えなくなってしまったら……。

 シャープペンシルの芯が折れて、問題集のぺーじの上を転がっていくのを、壮太郎は静かに見つめた。


***


「お兄様。開けますよ?」
 部屋のドアを開けた妹の声に、壮太郎は顔を上げる。

 机の上のデジタル時計が示す時刻は夕方の五時半。日が沈み、室内は薄暗くなっていた。
 妹は入口にある電気のスイッチをけて、壮太郎の部屋に入ってきた。

「また呪具作りですか? 集中するのはいいですけど、お部屋の電気を点けませんと、目が悪くなりますよ? ……あら、綺麗! それは何ですか?」

 壮太郎の手にある虹色のガラス玉を見て、妹は目を輝かせる。
 机の上に広げているのは、呪具作りの為の道具と設計図。壮太郎の手にあるのは、新たに作り出したオリジナルの呪具だ。壮太郎は呪具を握りしめて、妹に笑みを見せる。

「内緒」
「お兄様?」
 壮太郎が何処か寂しそうな顔をしているのに気付いて、妹は首を傾げる。

「丈君との時間を横取りした妹には教えてあげないよ」
 壮太郎が茶化すように笑うと、妹はホッとしたように笑った。

「ええ。横取りしたおかげで、とっても素敵な時間を過ごせました。丈さんの事、ますます大好きになりました!」
「僕の親友は最高だから、当然だね」
 親友の事を褒められて得意顔になる壮太郎に、妹は苦笑する。

「その最高な親友から、お兄様へ伝言です。『あとでまた迎えに来るから、出掛ける準備をしておいてくれ』ですって」

「へ?」
 妹の言葉に、壮太郎はキョトンとする。

 妹は部屋の壁に掛けてあるコートを手に取ると、椅子に座ったままの壮太郎に押し付けた。

「お兄様が丈さんと一緒に遊びたいように、丈さんもお兄様と一緒に遊びたいようですからね。本当、呆れるくらい仲が良いのですから……」
 妹は楽しそうに笑う。

「いってらっしゃいませ。お兄様」
 

 壮太郎が家の外へ出ると、こちらに向かって歩いてくる丈の姿を見つけた。
 昼に会った時とは違って、マフラーや手袋を身に付けている。どうやら、防寒具を取ってくる為に一度家に帰ったようだ。

「丈君」
「すまん。待たせたか?」
 壮太郎が首を横に振ると、丈は方向転換して歩き出す。

「じゃあ、行くか」
「何処に行くの? 謎解きなら、もう終わっているよ?」
 丈が向かっているのは、イベント会場の公園がある方角だ。謎解きは午後四時で終了しているので、今から行っても意味がない。

「わかっている。謎解きは終わっているが、出店やビンゴ大会があるらしいから、十分に遊べるだろう」
 丈はコートのポケットから取り出したイベントのチラシを壮太郎に渡す。チラシに記載された情報では、夜の八時までは公園でクリスマスイベントが行われているようだ。

「祭り、好きだろう?」
 丈の言葉に、壮太郎は笑う。

「うん。好きだよ」
 互いの事がわかっている。それが嬉しくて、特別な事なのだと感じた。

「じゃあ、行くか」
 いつものように、二人で並んで歩いた。


 イルミネーションで明るく照らされた公園は、日常とは違う幻想的な空間だった。

 出店も思ったより多くあり、公園内は多くの人で賑わっていた。
 人混みの中を、丈と共に進む。
 出店でフライドチキンを買って食べたり、射的で遊んだり。ステージで行われるマジックショーや漫才を見たり、ビンゴ大会に参加して、心ゆくまで楽しんだ。
 
 あっという間に時間が過ぎて、壮太郎と丈は帰り道を歩く。

「楽しかったね」
 壮太郎は上機嫌で笑う。丈は頷くと、手に持っているものを見下ろして苦笑した。

「貰えたのは嬉しいが、嵩張かさばるな」
 丈の手にある大きな紙袋には、ビンゴ大会の景品で貰った『遊戯セット』が入っていた。

 オセロ・人生ゲーム・花札・百人一首・トランプなど、様々なテーブルゲームが詰め込まれている。
 人生ゲームの箱が袋の持ち手とほぼ変わらない高さまであるので、持ち辛そうだ。抱えられないわけではないが、前が見えにくくなるだろう。

「僕が片方持つよ」
 壮太郎は紙袋の片方の持ち手を掴む。丈は小さく笑みを浮かべた。

「ありがとう」 
「どういたしまして。あ、丈君。ちょっと寄り道しない?」
 壮太郎が指差したのは、小学生の頃に二人で遊んだ小さな公園だった。丈は首を傾げながらも頷く。

 街灯の光も届かない暗い公園の中を進み、壮太郎は立ち止まる。
 周囲に人がいないのを確認し、壮太郎は指輪の呪具を使って、大きなドーム状の結界を張った。

「目眩しの結界か?」
 自分の周囲を囲む結界を見上げて、丈は不思議そうな顔をする。
 壮太郎はコートのポケットに入れていた虹色に輝くガラス玉の呪具を取り出し、丈に見せた。
 
「見ててね」
 悪戯っぽく笑った壮太郎は、手に持っていた呪具を上に向かって投げる。街灯より少し高さがある結界の天井に当たると、虹色のガラス玉がベルのような澄んだ音を立てて弾けた。

 見上げた丈が感嘆の息を漏らす。

 暗闇の中に咲く、大きな赤い光の花。
 呪術によって作り出した花火を二人で見上げる。

 赤い光の花火が終わると、代るように橙色の花火が咲く。続いて黄、黄緑、緑、青、紫の花火が冬の夜空に花開いた。

 最後に、虹色に煌めく大きな花が咲き、解けた光の粒が色を変化させながら二人に向かって緩やかに降り注いだ。
 幻想的で美しい光景に、丈は見惚れている。
 
 壮太郎は掌を上に向けて、降り注ぐ光の粒を受け止める。光の粒は空気に溶けるように消えていった。

(もし、ずっと一緒にいられなくなったとしても……)

 今この時が過去になって、一緒にいる事が当たり前ではない未来が訪れても。
 会わなくなって、丈が壮太郎を思い出す事がなくなっても。
 丈の中で、壮太郎が大切な存在ではなくなったとしても。
 
(今日、一緒に冬の花火を見た事を、どうか忘れないで欲しい)

 いつか来る不確かな未来を恐れる気持ちが無いわけではない。
 大切なものを失うことは怖い。
 けれど、恐れのせいで、大切な今から目を逸らしたくない。
 
 今、一緒にいられる時間を。大切だと思い合える感情を。 
 たくさん笑った事も、意見が食い違って喧嘩した事も。悪戯いたずらして怒られた事も。助け合って乗り越えて来た事も。全てが、壮太郎の大切なもの。

 この花火のように、いつか消えてしまったとしても。この世界に確かに存在したもの。

 どうか、覚えていて欲しい。
 良い思い出として、刻んで欲しい。

 呪具に託した祈りを胸に、壮太郎は笑う。

「僕からのクリスマスプレゼントだよ。どう? 綺麗でしょ?」
 丈は頷き、微笑む。

「ああ。やはり、壮太郎は凄いな」
 丈は何かに気づいたように、気まずそうな表情を浮かべる。

「どうしたの?」
 壮太郎が尋ねると、丈は苦い顔をして頭を下げた。

「……すまん。俺はクリスマスプレゼントを用意していなかった」
「え? いや、大丈夫だよ。偶々たまたま思いついて作っただけだから。僕からの一方的な贈り物だし、お返しとかはいらないからね」

 丈と壮太郎の間で、クリスマスプレゼントを贈り合う習慣はない。用意していないのが、二人にとっての普通だ。

「それなら、来年のクリスマスに俺も何か披露するか……」
「え?」
「あまり期待はしないで欲しいが……。俺の加護に芸を仕込んでサーカスみたいな事なら出来るかもしれない……」
 真剣に考え込む丈。壮太郎はポカンとした後、吹き出した。突然笑い出す壮太郎に、丈は首を傾げる。
 
「サーカスは変か?」
「ああ、そうじゃなくて。いや、でも加護にサーカスをさせようとする丈君は面白すぎるけど」
 真面目な顔で加護に芸を仕込む丈を想像したら笑えるが、壮太郎が笑ったのは別の理由だ。
 
 当たり前のように、来年も一緒に過ごすつもりでいる丈の言葉。
 感傷的になっていた自分が滑稽だと思えて笑ったのだ。

「本当、僕達は一緒にいるのが当たり前になってるよね」
 壮太郎の言葉に、丈はキョトンとする。

「まあ、じいさんになっても一緒にいるだろうからな」

 丈の言葉に、壮太郎は目を見開く。丈は気づかずに、言葉を続けた。

「歳をとったら、少しは落ち着いてくれないと困るぞ? この前みたいに、絡んできた高校生達にトラウマを植え付けるような事をされたら俺も流石に焦るからな。心臓に優しい老後を送りたい……壮太郎? どうした?」

「……うん。まあ、善処するよ。もう遅いから帰ろうか」
 誤魔化すように、壮太郎は歩き出す。
 二人で公園を出て、帰り道を歩く。行く時より荷物がある筈なのに、帰りの方が足取りが軽く感じられた。

(ああ、本当に僕は幸せ者だな……)
 ずっと一緒にいたいと思える人がいて。
 相手もずっと一緒にいる事を当たり前のように信じてくれている。

(丈君に出会えてよかった)
 丈と出会っていなければ、訪れなかった今の幸せ。
 様々な奇跡が重なって生まれた、世界からの贈り物。 
 
「丈君、課題終わった?」
「終わっている。壮太郎はどうだ?」
「うん。あと少しだけだから、今日で終わるかな」

「じゃあ、明日一緒に遊ぶか。遊び道具も手に入ったし」
 丈が紙袋を揺らして笑う。

「うん! 一緒に遊ぼう!」 
 壮太郎は満面の笑みを浮かべた。

 ”絶対”がないなら作り出して。
 明日も、明後日も、何年経っても。ずっと一緒に楽しく笑い合っていよう。
 当たり前にある幸運で特別な幸せを、二人で大切に歩いて行こう。
 
 楽しそうに笑い合う二人を、白銀色の三日月が淡く優しく照らしていた。

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