28 / 257
第二章 呪いを探す話
第14話 呪具探し
しおりを挟む
「呪具の隠し場所を教えて」
咲良子が話を切り出すが、愛美は『話したくない』と言うように首を横に振った。
優子に説得されても、まだ気持ちの整理がつかないようだ。
(このままだと、良くない)
今この瞬間も、愛美の寿命は縮んでいる。あまり、時間をかけてはいられない。
「公園?」
優子が愛美を見て尋ねる。
「小学校の秘密の教室?」
優子が続けて問う。愛美は反応しない。
「裏山の黄色い花の場所?」
ピクリ、と愛美の指先が動く。優子は苦笑した。
「咲良子さん。あーちゃんは、小学校の裏山の黄色い花の近くに呪具を隠しています。水辺に咲く花。三角の形をした大きな岩の近く。きっと、そこにある」
愛美がバッと顔をあげる。愛美の瞳が不安げに揺れていた。
咲良子は頷き、寅に近づく。白い寅が、咲良子の額に自分の額を合わせた。
咲良子は意識を集中させる。自分の力である白銀の光と、寅が持つ赤い光が咲良子の体を包み込んだ。
目を閉じれば、真っ暗な世界に小さな赤い光を見つけた。
よく知っている力の色。強くないのに、鮮やかで真っ直ぐな赤い光。
美梅は加護の寅同士の意識を繋げようとしているが、力のコントロールに苦戦している。強弱を繰り返す力のブレから、美梅の戸惑いや躊躇いが伝わってきた。
咲良子は美梅の元に送る力へ少し揺さぶりをかけた。咲良子の挑発に気付いたのか、美梅は次第にブレを整えて力をコントロールしていった。
咲良子と美梅の力が徐々に合わさっていく。
咲良子は優子に聞いた情報を、寅を介して美梅へ送った。
(後は任せる。それと、ギリギリまで『夢逢イ』の時間を頂戴)
美梅に伝えると、ぶすっとした様子で了承の返事が返ってきた。咲良子は小さく笑う。
***
美梅の体から光が消える。
美梅は息を大きく吐き出した後、振り返って碧真と日和を見た。
「呪具は大粒のビーズ玉。隠し場所は、小学校の裏山の中腹。水辺に咲く黄色い花の近くで、三角形の大きな岩がある所らしいわ」
美梅は咲良子から教えて貰った情報を伝えた。
碧真が愛美の両親から小学校の裏山の場所を聞き出している間に、美梅は日和に声を掛ける。
「日和さん。携帯の番号を教えて。呪具を見つけたら、壊す前に連絡して頂戴。『夢逢イ』を解く前に、呪具を壊したらいけないから」
「今すぐ『夢逢イ』を解かないの?」
「……お別れの時間が必要だからって」
美梅の言葉に、日和は悲しげな表情を浮かべた。
連絡先を交換した後、美梅は真っ直ぐに日和の目を見つめる。
「私は、ここに残るわ。咲良子の『夢逢イ』を解かなくちゃいけないから。だから、呪具を見つけるのは、日和さんに頼んだわ。必ず見つけて」
日和は不安そうな表情を浮かべながらも頷いた。
「赤間、行くぞ」
呼ばれた日和は、碧真と共に病室を出て行った。
美梅は床に座り込む。力を一気に使いすぎてしまったのか、体に力が入らない。
「帰って来たら、文句を言ってやるんだから」
腹の立つほど綺麗な顔で眠る咲良子に向かって、美梅は呟いた。
***
病室を出て車に乗り込んだ日和と碧真は、呪具があるという小学校の裏山へ向かった。
車で行ける所まで山を登って、駐車出来そうな空き地に車を停めた。
車から降りて、目の前に聳え立つ山を見上げた日和は、早くも泣き言を口にしたくなった。
「うわ~、大きな山。え? 本当に、この山の中からビーズを見つけるの? 探し物に対して、フィールドがデカすぎでは?」
「マジで何でこんな時にいないんだよ、丈さん。あの人なら、すぐに見つけられるっていうのに……。あー、面倒くせー」
碧真も山を睨んで悪態をついた。
現在地からでも、山の中腹まではまだ距離があった。
隠し場所のヒントはあるが、山の中を歩き回って呪具を探し出さなければならない。
しかも、今はもう夕方だ。
「わ、蚊がっ!」
近寄って来た蚊を、日和は慌てて手で払う。虫除け対策をしないまま夏の山に入れば、蚊に刺されまくるのは必至だろう。
「おい」
碧真に声を掛けられ、日和は振り返る。
シューッというスプレー音と共に、霧状の何かが顔に降り注いだ。
「わぷっ!?」
日和が驚いている間にも、碧真はスプレーを連射する。
「虫除けスプレーだ。大人しくしていろ」
碧真は面倒臭そうな顔をしながら、虫除けスプレーを日和の全身に雑に振りかけていく。
(何で虫除けスプレーを持って来ているの? でも、私にまで気を遣ってくれるなんて、案外いい人かも)
「あー、これ顔にかけたらダメって書いてあったわー。知らなかったなー。まあ、赤間の顔なら、どうなってもいいかー」
「どうなっても良くないわっ!! てか、絶対、最初から知っててやったよね!?」
明らかにワザとだとわかる碧真の行動に、日和はイラッとする。碧真は「うるさっ」と言って、背を向けた。
碧真は自分の体にも虫除けスプレーをかける。勿論、自分の顔にはかけていなかった。
「夜になる前には見つけるぞ」
碧真の言葉に、日和は頷く。困難な事だが、美梅に託された手前、投げ出すわけにはいかない。
碧真の後に続いて、日和は山の中へ入った。
「呪具は水辺の近く。川沿いに登って行けば、辿り着く筈だ」
情報を元に、碧真は進んでいく。川沿いの道は、石や岩があって少し歩きにくい。苔も生えているので、滑りやすかった。
足場の悪さに、日和は何度も転びそうになった。碧真はその度に、「鈍臭」「学習しろ」など積極的に嫌味を言ってきた。日和もその度に、碧真を殴り飛ばしたいと心の中で拳を握り締めた。
山を登り始めて二十分後。
(うう……。これでも、昔は体力があった方なんだけどな……。てか、こんな場所に一人で呪具を隠しに来た愛美さんの体力と行動力ヤバすぎでしょ! ううっ、これが、女子高生と三十一歳の体力差か……)
自身の体力の衰えを感じて、日和は地味にショックを受ける。碧真はまだ十分に体力が残っているのか、涼しげな顔をしていた。
「そろそろ、山の中腹辺りか」
「てことは、もうすぐ!?」
日和は周囲を見回すが、黄色い花は見当たらなかった。
(あ、でも、開花時期とかもあるよね。今は咲いていないのかも)
日和は改めて、もう一つの手がかりである『三角形の大きな岩』を探しながら進んだ。
それから二十分ほど歩いても、何も見つからなかった。
「もしかして、川じゃないとか? 湧き水が出ている所や池があるのかも」
日和は考えた事を口にする。山の中に、川以外の水辺がある可能性がある。そうなると、探す範囲は広がってしまう。
碧真が立ち止まり、勢い良く左側方へ振り向く。日和は驚きながらも、碧真の視線の先を目で追った。
日和達から十メートルは離れた場所に、淡い黄色の光を纏った茶色の兎がいた。
兎は、日和と碧真をジッと見つめていた。
「あれは……」
「鬼降魔愛美が使役する”卯”だ」
碧真は何処からか取り出した銀色の棒を指と指の間に挟んで構える。卯が地面を駆け、こちらに向かって来た。
卯に向かって、碧真が銀色の棒を投げる。卯は走りながら器用に体を捻って碧真の攻撃を避けた。碧真が銀色の棒を連投しても、卯は跳躍をしながら全て避けていく。
(は、速いっ!!)
卯は目にも止まらぬ速さで駆け抜けると、碧真に襲い掛かるように跳躍した。碧真の肩の上に加護の巳が姿を現し、頭を横に振って卯を弾き飛ばした。
「い゛っ!?」
巳によって、横へ弾き飛ばされた卯の体が、日和の腹部に衝突した。勢いよく飛び込んできた卯に押されるように、日和は数歩後ろへよろめく。
「へっ?」
ガクンと体が下がった感覚がして、日和は間の抜けた声を上げる。
足の裏に、地面の感触は無い。つまり……。
「のおぉぉぉあぁぁいぇぇあぁっ!!!!」
落ちた。
視界に映るもの全てが高速に過ぎて行く。辺りに小枝の折れる音を響かせながら、日和は斜面を転がり落ちていった。
開けた場所に着いたのか、日和の体の回転が止まる。日和はクラクラする頭を持ち上げる。よろめきながらも、何とか上体を起こして座った。
「うぅ……なんかデジャブ」
先月も神社で転がり落ちた事を思い出す。
日和は自分の体の状態を確認する。足首や手首を回してみても痛みはなく、骨は折れていないようだ。軽い擦り傷と打撲程度で済んでいた。
(運がいいのか、悪いのか……)
日和は転がり落ちて来た道を見上げる。碧真とは結構離れてしまったのか、こちらからは姿が見えない。
(転がってきた道は登りにくそうだな。他に、登れそうな場所は……)
日和が周りを見回した時、少し離れた場所に卯がいるのを見つけた。
卯は先程と同じように、日和を見つめている。
日和が立ち上がると、ぴょんと飛び跳ねて後ろの道へ進む。卯は振り返って、再び日和を見つめた。
(……まるで、『ついて来て』って言われてるみたい)
日和は少し迷ったが、卯の後についていく事にした。
卯を追って獣道を進んで行くと、嗅いだ事のない匂いがフワリと鼻をかすめた。
「わぁ……」
日和は感嘆の声を上げる。
辿り着いた場所には、強い芳香のする小さな黄色の花が咲き乱れていた。
一歩足を前に踏み出すと、ピチャッと水たまりを踏んだような音がする。近くに湧き水があるのか、足元には水が広がり、小さな池が出来ていた。
「ここって、もしかして」
日和は辺りを見回した。
黄色い花の群れの側にあった、三角形の大きな岩。その上に、卯が乗っていた。
三角形の岩にある大きな窪みに、淡い黄色の光が集まっている。
「それが、呪具なの?」
日和が問うと、卯はジッと目を見つめてきた。言葉はなくても、肯定されているのだとわかる。
日和は、息を大きく吸い込む。
「碧真くーーーーーーーーーん!!!!」
日和は、自身が発する事の出来る最大音量で叫んだ。
咲良子が話を切り出すが、愛美は『話したくない』と言うように首を横に振った。
優子に説得されても、まだ気持ちの整理がつかないようだ。
(このままだと、良くない)
今この瞬間も、愛美の寿命は縮んでいる。あまり、時間をかけてはいられない。
「公園?」
優子が愛美を見て尋ねる。
「小学校の秘密の教室?」
優子が続けて問う。愛美は反応しない。
「裏山の黄色い花の場所?」
ピクリ、と愛美の指先が動く。優子は苦笑した。
「咲良子さん。あーちゃんは、小学校の裏山の黄色い花の近くに呪具を隠しています。水辺に咲く花。三角の形をした大きな岩の近く。きっと、そこにある」
愛美がバッと顔をあげる。愛美の瞳が不安げに揺れていた。
咲良子は頷き、寅に近づく。白い寅が、咲良子の額に自分の額を合わせた。
咲良子は意識を集中させる。自分の力である白銀の光と、寅が持つ赤い光が咲良子の体を包み込んだ。
目を閉じれば、真っ暗な世界に小さな赤い光を見つけた。
よく知っている力の色。強くないのに、鮮やかで真っ直ぐな赤い光。
美梅は加護の寅同士の意識を繋げようとしているが、力のコントロールに苦戦している。強弱を繰り返す力のブレから、美梅の戸惑いや躊躇いが伝わってきた。
咲良子は美梅の元に送る力へ少し揺さぶりをかけた。咲良子の挑発に気付いたのか、美梅は次第にブレを整えて力をコントロールしていった。
咲良子と美梅の力が徐々に合わさっていく。
咲良子は優子に聞いた情報を、寅を介して美梅へ送った。
(後は任せる。それと、ギリギリまで『夢逢イ』の時間を頂戴)
美梅に伝えると、ぶすっとした様子で了承の返事が返ってきた。咲良子は小さく笑う。
***
美梅の体から光が消える。
美梅は息を大きく吐き出した後、振り返って碧真と日和を見た。
「呪具は大粒のビーズ玉。隠し場所は、小学校の裏山の中腹。水辺に咲く黄色い花の近くで、三角形の大きな岩がある所らしいわ」
美梅は咲良子から教えて貰った情報を伝えた。
碧真が愛美の両親から小学校の裏山の場所を聞き出している間に、美梅は日和に声を掛ける。
「日和さん。携帯の番号を教えて。呪具を見つけたら、壊す前に連絡して頂戴。『夢逢イ』を解く前に、呪具を壊したらいけないから」
「今すぐ『夢逢イ』を解かないの?」
「……お別れの時間が必要だからって」
美梅の言葉に、日和は悲しげな表情を浮かべた。
連絡先を交換した後、美梅は真っ直ぐに日和の目を見つめる。
「私は、ここに残るわ。咲良子の『夢逢イ』を解かなくちゃいけないから。だから、呪具を見つけるのは、日和さんに頼んだわ。必ず見つけて」
日和は不安そうな表情を浮かべながらも頷いた。
「赤間、行くぞ」
呼ばれた日和は、碧真と共に病室を出て行った。
美梅は床に座り込む。力を一気に使いすぎてしまったのか、体に力が入らない。
「帰って来たら、文句を言ってやるんだから」
腹の立つほど綺麗な顔で眠る咲良子に向かって、美梅は呟いた。
***
病室を出て車に乗り込んだ日和と碧真は、呪具があるという小学校の裏山へ向かった。
車で行ける所まで山を登って、駐車出来そうな空き地に車を停めた。
車から降りて、目の前に聳え立つ山を見上げた日和は、早くも泣き言を口にしたくなった。
「うわ~、大きな山。え? 本当に、この山の中からビーズを見つけるの? 探し物に対して、フィールドがデカすぎでは?」
「マジで何でこんな時にいないんだよ、丈さん。あの人なら、すぐに見つけられるっていうのに……。あー、面倒くせー」
碧真も山を睨んで悪態をついた。
現在地からでも、山の中腹まではまだ距離があった。
隠し場所のヒントはあるが、山の中を歩き回って呪具を探し出さなければならない。
しかも、今はもう夕方だ。
「わ、蚊がっ!」
近寄って来た蚊を、日和は慌てて手で払う。虫除け対策をしないまま夏の山に入れば、蚊に刺されまくるのは必至だろう。
「おい」
碧真に声を掛けられ、日和は振り返る。
シューッというスプレー音と共に、霧状の何かが顔に降り注いだ。
「わぷっ!?」
日和が驚いている間にも、碧真はスプレーを連射する。
「虫除けスプレーだ。大人しくしていろ」
碧真は面倒臭そうな顔をしながら、虫除けスプレーを日和の全身に雑に振りかけていく。
(何で虫除けスプレーを持って来ているの? でも、私にまで気を遣ってくれるなんて、案外いい人かも)
「あー、これ顔にかけたらダメって書いてあったわー。知らなかったなー。まあ、赤間の顔なら、どうなってもいいかー」
「どうなっても良くないわっ!! てか、絶対、最初から知っててやったよね!?」
明らかにワザとだとわかる碧真の行動に、日和はイラッとする。碧真は「うるさっ」と言って、背を向けた。
碧真は自分の体にも虫除けスプレーをかける。勿論、自分の顔にはかけていなかった。
「夜になる前には見つけるぞ」
碧真の言葉に、日和は頷く。困難な事だが、美梅に託された手前、投げ出すわけにはいかない。
碧真の後に続いて、日和は山の中へ入った。
「呪具は水辺の近く。川沿いに登って行けば、辿り着く筈だ」
情報を元に、碧真は進んでいく。川沿いの道は、石や岩があって少し歩きにくい。苔も生えているので、滑りやすかった。
足場の悪さに、日和は何度も転びそうになった。碧真はその度に、「鈍臭」「学習しろ」など積極的に嫌味を言ってきた。日和もその度に、碧真を殴り飛ばしたいと心の中で拳を握り締めた。
山を登り始めて二十分後。
(うう……。これでも、昔は体力があった方なんだけどな……。てか、こんな場所に一人で呪具を隠しに来た愛美さんの体力と行動力ヤバすぎでしょ! ううっ、これが、女子高生と三十一歳の体力差か……)
自身の体力の衰えを感じて、日和は地味にショックを受ける。碧真はまだ十分に体力が残っているのか、涼しげな顔をしていた。
「そろそろ、山の中腹辺りか」
「てことは、もうすぐ!?」
日和は周囲を見回すが、黄色い花は見当たらなかった。
(あ、でも、開花時期とかもあるよね。今は咲いていないのかも)
日和は改めて、もう一つの手がかりである『三角形の大きな岩』を探しながら進んだ。
それから二十分ほど歩いても、何も見つからなかった。
「もしかして、川じゃないとか? 湧き水が出ている所や池があるのかも」
日和は考えた事を口にする。山の中に、川以外の水辺がある可能性がある。そうなると、探す範囲は広がってしまう。
碧真が立ち止まり、勢い良く左側方へ振り向く。日和は驚きながらも、碧真の視線の先を目で追った。
日和達から十メートルは離れた場所に、淡い黄色の光を纏った茶色の兎がいた。
兎は、日和と碧真をジッと見つめていた。
「あれは……」
「鬼降魔愛美が使役する”卯”だ」
碧真は何処からか取り出した銀色の棒を指と指の間に挟んで構える。卯が地面を駆け、こちらに向かって来た。
卯に向かって、碧真が銀色の棒を投げる。卯は走りながら器用に体を捻って碧真の攻撃を避けた。碧真が銀色の棒を連投しても、卯は跳躍をしながら全て避けていく。
(は、速いっ!!)
卯は目にも止まらぬ速さで駆け抜けると、碧真に襲い掛かるように跳躍した。碧真の肩の上に加護の巳が姿を現し、頭を横に振って卯を弾き飛ばした。
「い゛っ!?」
巳によって、横へ弾き飛ばされた卯の体が、日和の腹部に衝突した。勢いよく飛び込んできた卯に押されるように、日和は数歩後ろへよろめく。
「へっ?」
ガクンと体が下がった感覚がして、日和は間の抜けた声を上げる。
足の裏に、地面の感触は無い。つまり……。
「のおぉぉぉあぁぁいぇぇあぁっ!!!!」
落ちた。
視界に映るもの全てが高速に過ぎて行く。辺りに小枝の折れる音を響かせながら、日和は斜面を転がり落ちていった。
開けた場所に着いたのか、日和の体の回転が止まる。日和はクラクラする頭を持ち上げる。よろめきながらも、何とか上体を起こして座った。
「うぅ……なんかデジャブ」
先月も神社で転がり落ちた事を思い出す。
日和は自分の体の状態を確認する。足首や手首を回してみても痛みはなく、骨は折れていないようだ。軽い擦り傷と打撲程度で済んでいた。
(運がいいのか、悪いのか……)
日和は転がり落ちて来た道を見上げる。碧真とは結構離れてしまったのか、こちらからは姿が見えない。
(転がってきた道は登りにくそうだな。他に、登れそうな場所は……)
日和が周りを見回した時、少し離れた場所に卯がいるのを見つけた。
卯は先程と同じように、日和を見つめている。
日和が立ち上がると、ぴょんと飛び跳ねて後ろの道へ進む。卯は振り返って、再び日和を見つめた。
(……まるで、『ついて来て』って言われてるみたい)
日和は少し迷ったが、卯の後についていく事にした。
卯を追って獣道を進んで行くと、嗅いだ事のない匂いがフワリと鼻をかすめた。
「わぁ……」
日和は感嘆の声を上げる。
辿り着いた場所には、強い芳香のする小さな黄色の花が咲き乱れていた。
一歩足を前に踏み出すと、ピチャッと水たまりを踏んだような音がする。近くに湧き水があるのか、足元には水が広がり、小さな池が出来ていた。
「ここって、もしかして」
日和は辺りを見回した。
黄色い花の群れの側にあった、三角形の大きな岩。その上に、卯が乗っていた。
三角形の岩にある大きな窪みに、淡い黄色の光が集まっている。
「それが、呪具なの?」
日和が問うと、卯はジッと目を見つめてきた。言葉はなくても、肯定されているのだとわかる。
日和は、息を大きく吸い込む。
「碧真くーーーーーーーーーん!!!!」
日和は、自身が発する事の出来る最大音量で叫んだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
睡眠開発〜ドスケベな身体に変えちゃうぞ☆〜
丸井まー(旧:まー)
BL
本人に気づかれないようにやべぇ薬を盛って、毎晩こっそり受けの身体を開発して、ドスケベな身体にしちゃう変態攻めのお話。
なんかやべぇ変態薬師✕純粋に懐いている学生。
※くぴお・橘咲帆様に捧げます!やり過ぎました!ごめんなさい!反省してます!でも後悔はしてません!めちゃくちゃ楽しかったです!!
※喉イキ、おもらし、浣腸プレイ、睡眠姦、イラマチオ等があります。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。
色地獄 〜会津藩士の美少年が男娼に身を落として〜 18禁 BL時代小説
丸井マロ
BL
十四歳の仙千代は、会津藩の大目付の次男で、衆道(男色)の契りを結んだ恋人がいた。
父は派閥争いに巻き込まれて切腹、家は没落し、貧しい暮らしの中で母は病死。
遺児となった仙千代は、江戸芳町の陰間茶屋『川上屋』に売られてしまう。
そこは、美形の少年たちが痛みに耐えながら体を売り、逃げれば凄惨な折檻が待ち受ける苦界だった──。
快楽責め、乳首責め、吊るし、山芋責め、水責めなど、ハードな虐待やSMまがいの痛い描写あり。
失禁、尿舐めの描写はありますが、大スカはありません。
江戸時代の男娼版遊郭を舞台にした、成人向けBL時代小説、約10万字の長編です。
上級武士の子として生まれ育った受けが転落、性奴隷に落ちぶれる話ですが、ハッピーエンドです。
某所で掲載していたものを、加筆修正した改訂版です。
感想など反応をいただけると励みになり、モチベ維持になります。
よろしくお願いします。
ユリとウサギとガンスミス〜火力不足と追放された【機工術師】ですが、対物ライフルを手に入れてからは魔王すら撃ち抜く最強の狙撃手になりました〜
nagamiyuuichi
ファンタジー
「……単刀直入に言おう。クレール、君にはギルドをやめてもらう」
過去の遺物を修理し扱うことが出来るだけの不遇職【機工術師】のクレールは、ある日魔物にダメージを与えられなくなってきている事を理由に、冒険者パーティー【クロノス】を追放されてしまう。
すっかり自信をなくし、打ちひしがれてしまったクレールだったが、ある日ウサギ耳の少女トンディに拾われ、彼女の父親探しの手伝いをすることに。
初めは──役立たずの私でも、人探しの手伝いぐらいはできるかな?
程度の気持ちで始めた第二の冒険者生活であったが。
道中手に入れた強力な遺物【対物ライフル】を手に入れてから、魔王すら撃ち抜く最強の狙撃手へと変貌。
やがてトンディと共に、最強の冒険者としてその名前を世界に轟かせていくことになる。
これは、自信を無くした機工術師が友達と少しずつ自信を取り戻していく、そんなお話である。
サファヴィア秘話 ―月下の虜囚―
文月 沙織
BL
祖国を出た軍人ダリクは、異国の地サファヴィアで娼館の用心棒として働くことになった。だが、そこにはなんとかつての上官で貴族のサイラスが囚われていた。彼とは因縁があり、ダリクが国を出る理由をつくった相手だ。
性奴隷にされることになったかつての上官が、目のまえでいたぶられる様子を、ダリクは復讐の想いをこめて見つめる。
誇りたかき軍人貴族は、異国の娼館で男娼に堕ちていくーー。
かなり過激な性描写があります。十八歳以下の方はご遠慮ください。
公開凌辱される話まとめ
たみしげ
BL
BLすけべ小説です。
・性奴隷を飼う街
元敵兵を性奴隷として飼っている街の話です。
・玩具でアナルを焦らされる話
猫じゃらし型の玩具を開発済アナルに挿れられて啼かされる話です。
権田剛専用肉便器ファイル
かば
BL
権田剛のノンケ狩りの話
人物紹介
権田剛(30)
ゴリラ顔でごっつい身体付き。高校から大学卒業まで柔道をやっていた。得意技、寝技、絞め技……。仕事は闇の仕事をしている、893にも繋がりがあり、男も女も拉致監禁を請け負っている。
趣味は、売り専ボーイをレイプしては楽しんでいたが、ある日ノンケの武田晃に欲望を抑えきれずレイプしたのがきっかけでノンケを調教するのに快感になってから、ノンケ狩りをするようになった。
ある日、モデルの垣田篤史をレイプしたことがきっかけでモデル事務所の社長、山本秀樹を肉便器にし、所属モデル達に手をつけていく……売り専ボーイ育成モデル事務所の話に続く
武田晃
高校2年生、高校競泳界の期待の星だったが……権田に肉便器にされてから成績が落ちていった……、尻タブに権田剛専用肉便器1号と入墨を入れられた。
速水勇人
高校2年生、高校サッカーで活躍しており、プロチームからもスカウトがいくつかきている。
肉便器2号
池田悟(25)
プロの入墨師で権田の依頼で肉便器にさせられた少年達の尻タブに権田剛専用肉便器◯号と入墨をいれた、権田剛のプレイ仲間。
権田に依頼して池田悟が手に入れたかった幼馴染、萩原浩一を肉便器にする。権田はその弟、萩原人志を肉便器にした。
萩原人志
高校2年生、フェギアかいのプリンスで有名なイケメン、甘いマスクで女性ファンが多い。
肉便器3号
萩原浩一(25)
池田悟の幼馴染で弟と一緒に池田悟専用肉便器1号とされた。
垣田篤史
高校2年生
速水勇人の幼馴染で、読者モデルで人気のモデル、権田の脅しに怯えて、権田に差し出された…。肉便器4号
黒澤竜也
垣田篤史と同じモデル事務所に所属、篤史と飲みに行ったところに権田に感づかれて調教される……。肉便器ではなく、客をとる商品とされた。商品No.1
山本秀樹(25)
篤史、竜也のモデル事務所の社長兼モデル。
権田と池田の毒牙にかかり、池田悟の肉便器2号となる。
香川恋
高校2年生
香川愛の双子の兄、女好きで弟と女の子を引っ掛けては弟とやりまくっていた、根からの女好きだが、権田はの一方的なアナル責で開花される……。商品No.2
香川愛
高校2年生
双子の兄同様、権田はの一方的なアナル責で開花される……。商品No.3
佐々木勇斗
高校2年生
権田によって商品に調教された直後に客をとる優秀商品No.4
橘悠生
高校2年生
権田によってアナルを開発されて初貫通をオークションで売られた商品No.5
モデル達の調教話は「売り専ボーイ育成モデル事務所」をぜひ読んでみてください。
基本、鬼畜でエロオンリーです。
無理矢理異世界転生! 調子にのったら人類の敵になっていた
量産型774
ファンタジー
適当に人生してたら、
神様?にクビ宣告されて、無理矢理異世界転生させられた。
チートポイント?とか言うのを貰えたらから調子にのって使ってみたんだけど、
まさかあんな事になるなんて・・・
ステータス最強でも苦労は沢山あるみたいです。
爽快感よりかはどろどろとした、
いつまでも喉に引っかかる何かを炭酸で割った感じの内容だと思います。
R15相当でなんとか押し留めているハズです。
残酷描写あります。
序盤は救いが”ほぼ”ないダークな内容となっております。ご注意くださいませ。
R指定の無い閑話集を独立させました。5/15
R-18は別の話として作成してあります。
万が一閲覧希望の場合は作者のページよりどうぞ!
翠帳紅閨 ――闇から来る者――
文月 沙織
BL
有名な役者一家に生まれそだった竹弥は、美しいが、その春、胸に憂いを秘めていた。事情があって大学を休学し、古い屋敷で一人暮らしをはじめた。
そこには蔵があり、蔵の整理にやとわれた杉屋という男に、竹弥は手酷い凌辱を受ける。
危険な魅力を持つ杉屋から逃れられず、竹弥は夜毎、調教され、翻弄される。
誇りたかい梨園の貴公子が、使用人の手によって嬲られ、秘めていた欲望に火をつけられる、というお話です。
激しい性描写があります。ご注意ください。
現在では好ましくな表現も出てきます。苦手な方はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる