呪いの一族と一般人

呪ぱんの作者

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第二章 呪いを探す話

第14話 呪具探し

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「呪具の隠し場所を教えて」 

 咲良子さくらこが話を切り出すが、愛美あいみは『話したくない』と言うように首を横に振った。

 優子ゆうこに説得されても、まだ気持ちの整理がつかないようだ。

(このままだと、良くない)
 今この瞬間も、愛美の寿命は縮んでいる。あまり、時間をかけてはいられない。

「公園?」
 優子が愛美を見て尋ねる。

「小学校の秘密の教室?」
 優子が続けて問う。愛美は反応しない。

「裏山の黄色い花の場所?」 
 ピクリ、と愛美の指先が動く。優子は苦笑した。

「咲良子さん。あーちゃんは、小学校の裏山の黄色い花の近くに呪具を隠しています。水辺に咲く花。三角の形をした大きな岩の近く。きっと、そこにある」
 
 愛美がバッと顔をあげる。愛美の瞳が不安げに揺れていた。

 咲良子は頷き、とらに近づく。白い寅が、咲良子の額に自分の額を合わせた。
 咲良子は意識を集中させる。自分の力である白銀の光と、寅が持つ赤い光が咲良子の体を包み込んだ。
 
 目を閉じれば、真っ暗な世界に小さな赤い光を見つけた。
 よく知っている力の色。強くないのに、鮮やかで真っ直ぐな赤い光。

 美梅みうめは加護の寅同士の意識を繋げようとしているが、力のコントロールに苦戦している。強弱を繰り返す力のブレから、美梅の戸惑いや躊躇ためらいが伝わってきた。

 咲良子は美梅の元に送る力へ少し揺さぶりをかけた。咲良子の挑発に気付いたのか、美梅は次第にブレを整えて力をコントロールしていった。

 咲良子と美梅の力が徐々に合わさっていく。
 咲良子は優子に聞いた情報を、寅を介して美梅へ送った。

(後は任せる。それと、ギリギリまで『夢逢ゆめあイ』の時間を頂戴)
 美梅に伝えると、ぶすっとした様子で了承の返事が返ってきた。咲良子は小さく笑う。


***

 
 美梅の体から光が消える。
 美梅は息を大きく吐き出した後、振り返って碧真あおし日和ひよりを見た。

「呪具は大粒のビーズ玉。隠し場所は、小学校の裏山の中腹。水辺に咲く黄色い花の近くで、三角形の大きな岩がある所らしいわ」

 美梅は咲良子から教えて貰った情報を伝えた。 
 碧真が愛美の両親から小学校の裏山の場所を聞き出している間に、美梅は日和に声を掛ける。

「日和さん。携帯の番号を教えて。呪具を見つけたら、壊す前に連絡して頂戴。『夢逢イ』を解く前に、呪具を壊したらいけないから」

「今すぐ『夢逢イ』を解かないの?」

「……お別れの時間が必要だからって」
 美梅の言葉に、日和は悲しげな表情を浮かべた。
 連絡先を交換した後、美梅は真っ直ぐに日和の目を見つめる。

「私は、ここに残るわ。咲良子の『夢逢イ』を解かなくちゃいけないから。だから、呪具を見つけるのは、日和さんに頼んだわ。必ず見つけて」

 日和は不安そうな表情を浮かべながらも頷いた。

赤間あかま、行くぞ」
 呼ばれた日和は、碧真と共に病室を出て行った。
 
 美梅は床に座り込む。力を一気に使いすぎてしまったのか、体に力が入らない。

「帰って来たら、文句を言ってやるんだから」
 腹の立つほど綺麗な顔で眠る咲良子に向かって、美梅は呟いた。


***


 病室を出て車に乗り込んだ日和と碧真は、呪具があるという小学校の裏山へ向かった。

 車で行ける所まで山を登って、駐車出来そうな空き地に車を停めた。
 車から降りて、目の前にそびえ立つ山を見上げた日和は、早くも泣き言を口にしたくなった。

「うわ~、大きな山。え? 本当に、この山の中からビーズを見つけるの? 探し物に対して、フィールドがデカすぎでは?」
 
「マジで何でこんな時にいないんだよ、じょうさん。あの人なら、すぐに見つけられるっていうのに……。あー、面倒くせー」
 碧真も山を睨んで悪態をついた。

 現在地からでも、山の中腹まではまだ距離があった。
 隠し場所のヒントはあるが、山の中を歩き回って呪具を探し出さなければならない。
 しかも、今はもう夕方だ。

「わ、蚊がっ!」 
 近寄って来た蚊を、日和は慌てて手で払う。虫除け対策をしないまま夏の山に入れば、蚊に刺されまくるのは必至だろう。

「おい」
 碧真に声を掛けられ、日和は振り返る。
 シューッというスプレー音と共に、霧状の何かが顔に降り注いだ。

「わぷっ!?」
 日和が驚いている間にも、碧真はスプレーを連射する。

「虫除けスプレーだ。大人しくしていろ」
 碧真は面倒臭そうな顔をしながら、虫除けスプレーを日和の全身に雑に振りかけていく。

(何で虫除けスプレーを持って来ているの? でも、私にまで気を遣ってくれるなんて、案外いい人かも)

「あー、これ顔にかけたらダメって書いてあったわー。知らなかったなー。まあ、赤間の顔なら、どうなってもいいかー」
「どうなっても良くないわっ!! てか、絶対、最初から知っててやったよね!?」
 明らかにワザとだとわかる碧真の行動に、日和はイラッとする。碧真は「うるさっ」と言って、背を向けた。
 碧真は自分の体にも虫除けスプレーをかける。勿論、自分の顔にはかけていなかった。

「夜になる前には見つけるぞ」
 碧真の言葉に、日和は頷く。困難な事だが、美梅に託された手前、投げ出すわけにはいかない。 

 碧真の後に続いて、日和は山の中へ入った。

「呪具は水辺の近く。川沿いに登って行けば、辿り着く筈だ」
 情報を元に、碧真は進んでいく。川沿いの道は、石や岩があって少し歩きにくい。苔も生えているので、滑りやすかった。

 足場の悪さに、日和は何度も転びそうになった。碧真はその度に、「鈍臭」「学習しろ」など積極的に嫌味を言ってきた。日和もその度に、碧真を殴り飛ばしたいと心の中で拳を握り締めた。


 山を登り始めて二十分後。

(うう……。これでも、昔は体力があった方なんだけどな……。てか、こんな場所に一人で呪具を隠しに来た愛美さんの体力と行動力ヤバすぎでしょ! ううっ、これが、女子高生と三十一歳の体力差か……)

 自身の体力の衰えを感じて、日和は地味にショックを受ける。碧真はまだ十分に体力が残っているのか、涼しげな顔をしていた。

「そろそろ、山の中腹辺りか」
「てことは、もうすぐ!?」
 日和は周囲を見回すが、黄色い花は見当たらなかった。

(あ、でも、開花時期とかもあるよね。今は咲いていないのかも)
 日和は改めて、もう一つの手がかりである『三角形の大きな岩』を探しながら進んだ。

 それから二十分ほど歩いても、何も見つからなかった。

「もしかして、川じゃないとか? 湧き水が出ている所や池があるのかも」
 日和は考えた事を口にする。山の中に、川以外の水辺がある可能性がある。そうなると、探す範囲は広がってしまう。
 
 碧真が立ち止まり、勢い良く左側方へ振り向く。日和は驚きながらも、碧真の視線の先を目で追った。
 
 日和達から十メートルは離れた場所に、淡い黄色の光を纏った茶色の兎がいた。
 兎は、日和と碧真をジッと見つめていた。

「あれは……」

「鬼降魔愛美が使役する”うさぎ”だ」

 碧真は何処からか取り出した銀色の棒を指と指の間に挟んで構える。卯が地面を駆け、こちらに向かって来た。
 卯に向かって、碧真が銀色の棒を投げる。卯は走りながら器用に体を捻って碧真の攻撃を避けた。碧真が銀色の棒を連投しても、卯は跳躍をしながら全て避けていく。

(は、速いっ!!)
 卯は目にも止まらぬ速さで駆け抜けると、碧真に襲い掛かるように跳躍した。碧真の肩の上に加護のへびが姿を現し、頭を横に振って卯を弾き飛ばした。

「い゛っ!?」
 巳によって、横へ弾き飛ばされた卯の体が、日和の腹部に衝突した。勢いよく飛び込んできた卯に押されるように、日和は数歩後ろへよろめく。

「へっ?」
 ガクンと体が下がった感覚がして、日和は間の抜けた声を上げる。 
 足の裏に、地面の感触は無い。つまり……。

「のおぉぉぉあぁぁいぇぇあぁっ!!!!」

 落ちた。

 視界に映るもの全てが高速に過ぎて行く。辺りに小枝の折れる音を響かせながら、日和は斜面を転がり落ちていった。
 開けた場所に着いたのか、日和の体の回転が止まる。日和はクラクラする頭を持ち上げる。よろめきながらも、何とか上体を起こして座った。

「うぅ……なんかデジャブ」
 先月も神社で転がり落ちた事を思い出す。
 
 日和は自分の体の状態を確認する。足首や手首を回してみても痛みはなく、骨は折れていないようだ。軽い擦り傷と打撲程度で済んでいた。

(運がいいのか、悪いのか……)
 日和は転がり落ちて来た道を見上げる。碧真とは結構離れてしまったのか、こちらからは姿が見えない。

(転がってきた道は登りにくそうだな。他に、登れそうな場所は……)

 日和が周りを見回した時、少し離れた場所に卯がいるのを見つけた。

 卯は先程と同じように、日和を見つめている。
 日和が立ち上がると、ぴょんと飛び跳ねて後ろの道へ進む。卯は振り返って、再び日和を見つめた。

(……まるで、『ついて来て』って言われてるみたい)
 日和は少し迷ったが、卯の後についていく事にした。
 卯を追って獣道を進んで行くと、嗅いだ事のない匂いがフワリと鼻をかすめた。

「わぁ……」
 日和は感嘆の声を上げる。
 辿り着いた場所には、強い芳香のする小さな黄色の花が咲き乱れていた。

 一歩足を前に踏み出すと、ピチャッと水たまりを踏んだような音がする。近くに湧き水があるのか、足元には水が広がり、小さな池が出来ていた。

「ここって、もしかして」
 日和は辺りを見回した。
 
 黄色い花の群れの側にあった、三角形の大きな岩。その上に、卯が乗っていた。
 三角形の岩にある大きな窪みに、淡い黄色の光が集まっている。

「それが、呪具なの?」
 日和が問うと、卯はジッと目を見つめてきた。言葉はなくても、肯定されているのだとわかる。

 日和は、息を大きく吸い込む。

「碧真くーーーーーーーーーん!!!!」

 日和は、自身が発する事の出来る最大音量で叫んだ。

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