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第二章 呪いを探す話
第4話 険悪なメンバー
しおりを挟む「は? 私、この子の隣とか嫌なんだけど」
碧真の車の助手席のドアに日和が手を掛けた瞬間、美梅が不快そうな声を上げた。
「え?」
日和が振り返ると、美梅は咲良子を嫌悪の目で見ていた。咲良子は真顔だ。美少女の真顔は、何だか迫力があって怖かった。
(え? こっちも険悪なの!?)
美梅が碧真と仲が悪いのは知っていたが、まさか咲良子とまで仲が悪いとは思っていなかった。
碧真は面倒臭そう顔をして、さっさと運転席に乗り込んだ。
「日和さん。一緒に後ろの席に座りましょう」
美梅が日和の腕を取る。何処でも構わない日和は頷こうとした。
「私が、その人と一緒に座る。美梅は巳の隣に座って」
咲良子の声は可愛らしい筈なのに、何故か圧力を感じさせた。
「嫌よ! 巳憑きの隣なんて汚らわしい!! あんたが座りなさいよ!! それに、私と日和さんは仲良しなんだから! 日和さんの隣に座る権利は私にあるわ!!」
いつの間にか、美梅から仲良し認定されていた。嬉しく思うが、目の前の険悪な雰囲気に素直に喜べない。
「私も巳は嫌」
咲良子も碧真を嫌っているのか、嫌悪の表情を浮かべる。
碧真は車内にいるが、流石にこの距離では本人にも丸聞こえだろう。
(待って! この三人、全員険悪なの!?)
仕事は協力関係が大事だと日和は思っている。この四人で仕事をするように命じた総一郎は、一体何を考えているのだろうか。
「私は、その人と会える日をずっと待っていた」
「へ?」
咲良子が日和に近づく。初対面にしては近い距離感に、日和は戸惑った。
「日和って呼んでいい?」
「え? いいですけど……」
呼び捨てされる事も、年下にタメ口で話される事も、日和はどうでもいいと思っている。碧真みたいに馬鹿にするならビンタするが。
「日和……」
美少女が大変可愛らしい上目遣いで、日和を見上げる。咲良子の期待に満ちたキラキラとした目に、日和はたじろぐ。
(え? 何、この目?)
「乳、揉ませて」
「………………………………はい?」
(チチモマセテ? 父? 遅々? TITIMOMASETE?????)
脳の翻訳機能がうまく作動せず、咲良子が発した言葉を理解する事が出来無い。たっぷり考えたが、やっぱりわからなくて、日和は聞き返した。
しかし、疑問形の「はい?」を肯定の「はい」だと思ったのか、咲良子は目を輝かせて日和の胸を両手で鷲掴みにした。
「え? えっ!?」
目の前にいる美少女は、日和の胸を揉み始める。『初対面の美少女に胸を揉まれている』という意味不明な出来事を脳が処理しない。
「これがGカップおっぱい! 掌だけでは包みきれない程の大きさと、ふわふわで繊細な感触……最高!」
うっとりとした表情で頬を桃色に染める咲良子は恋する乙女のようだが、発言は変態そのものだ。
「な、ななな何でサイズ知ってるの!?」
脳の処理が追いついて、日和はようやくツッコミを入れる事が出来た。
服装は胸が目立たないもので、身につけている下着は胸を強調しないものだ。普通に見れば、サイズはわからない筈だが、咲良子は日和の胸のサイズを正確に当てた。
(まさか、胸を揉むとサイズがわかる能力があるの!?)
「日和の下着を洗濯した人が言ってた。日和はGカップの胸を持った人だって。それから、会えるのを心待ちにしていた」
本家に泊まった時に、屋敷で働く女中が日和の服を洗濯してくれていたのを思い出す。あの時にサイズを見られていたのだろう。
「てか、いつまで胸を揉んでるの!?」
胸を揉まれ続けている事に気付いた日和は、咲良子の両手を掴んで胸から離させる。
咲良子は不満そうな顔で、ワキワキと胸を揉むような手の仕草をする。不満そうな顔も可愛らしいが、手の動きが大変変態な危ない人である。
「Gカップ……」
美梅は日和の胸を見た後、自身の胸を見下ろしてショックを受けた顔をした。
「……ど、どうしたら、そんなに胸が大きくなるの?」
美梅が震える声で日和に問う。
「男にたくさん揉まれれば育つ」
何故か咲良子が自信満々のドヤ顔で答えた。美梅はギョッとする。
「日和さんって、もしかして経験豊富なの!? 男の人達に、たくさん胸を揉ませたの!? 」
「なっ!? 違います!! そもそも男性と付き合ったこと無いし! そういう経験はありません!!」
誤解されては堪らないと、日和が焦って口にした言葉に、咲良子と美梅が驚く。
「え? 日和さん……男の人と付き合ったことが無いの? だって、日和さんは三十一歳って……。え? う、嘘でしょう??」
美梅が信じられないという表情で日和を見る。視線が痛い。
「処女!? この乳は、天然物だと言うの!?」
咲良子が食い入るような瞳で日和の胸を見る。目が怖い。
「………あ」
日和は自ら墓穴を掘った事に気付いて固まった。
赤間日和、三十一歳。彼氏いない歴=年齢。
異性と手を繋いだのは、小学六年生の遠足が最後。しかも、手を繋いだ相手は小学一年生だ。
甘酸っぱい青春? 何それ知らない。何処に売っているの? という程に、恋愛要素ゼロ人生である。
その事実を言えば、大抵の人は美梅と同じような反応をする。酷い時には、「人間としておかしい」と心無い言葉を言われる事もあった。それが嫌で、最近では恋愛系の話は誤魔化すようにしていた。
「ただでさえ巨乳なのに、まだ発展途上だったなんて! 日和! 一族の男達を紹介する。たくさん揉まれて、いい乳を育てよう!」
咲良子がキラキラした目をして、日和の手を掴む。日和はフルフルと体を震わせた。
「もう嫌だーーーーーーーーーっ!!」
羞恥心がキャパオーバーした日和は絶叫した。
***
(つーか、早く行きたいんだが)
車の中にいた碧真は、うんざりしていた。
美梅と咲良子の相手は面倒臭いので、早めに仕事を終わらせたい。
しかし、女三人は胸の話で盛り上がって、なかなか車に乗ろうとしない。一方的に赤間日和の精神が削られているようだ。
(あー、面倒臭)
これからの仕事を考えて、碧真は重たい溜め息を吐いた。
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