上 下
5 / 9

(5)

しおりを挟む
「今日のあなたは清楚なご令嬢に見えました。しかしマリアン嬢は胸も露わなドレスで色香をふりまき、華やか並ぶ男たちを喜ばせて従えていますから。これだと少し物足りなく感じます」

(まさか義妹が社交の席で男たちを従えていたなんて想像もつかない。けれど、あの派手な妹ならやりかねない……) 

 とにかく普段から粗末な薄い布地のワンピース姿の地味なわたし。今から義妹のように傲慢に振る舞えないし、今の自分ではしっかり準備しないと、できる自信なんてありません。

「ごめんなさい。今日はそんなことをする気分ではなれないのです。バラに囲まれているせいかとても和やかな気持ちでおりますし……」

「なるほど。では先日マリアン嬢はさる侯爵家の嫡男に口づけを与えて、殿方を満足させていらっしゃいました。ならば、求婚者のわたしにも代行のあなたが満足させてくださいませ」

 アサルト様は楽しそうに目を細めて顔を寄せてきます。

(まさか、これが色好みのアサルト様の本性……!)

 わたしはなんとなく身の危険を感じて、慌ててアサルト様から距離を取りました。

「あの……今日はこれくらいに。し、失礼します」

 わたしはとっさにドレスの裾を持ち上げて、薔薇の茂みに分け入り走り出しました。ですが、男性の彼に本気で追いかけられては逃げ切ることは到底できず、ツル薔薇で茂った花棚が置かれたところで、とうとう捕まえられてしまいました。

 あっという間に東屋の円柱に背を押し付けられ、顎をきつくつかまれます。

「ふふふ。逃がさないですよ」

 彼の吐息が唇にふきかけられます。

「乱暴は、お、おやめくださいませ!」

 肉厚な彼の唇で押しつぶされるような気がして、恐怖で顔を逸らしきつく目をつむりました。

 しかしそれでも押し付けられた彼の唇は、見た目よりずっと柔らかいものでした。

(抵抗しなければいけないのに!)

 でも手足は震えるばかりでうまく力が入りません。何度もなく続けられるうちに1人で立っていることも難しくなってきました。

「だ、だめよっ……あんっ……」

 声を漏らすものの、その隙をついた温かい舌をねじ込められてしまいます。自分以外のものを感覚に除外しようと抵抗しても、彼にきつく抱き寄せられました。胸から伝わるぬくもりに頭の芯が熱くなってきます。

「く、息が……息ができない……」

「鼻で息なさい」

 彼は唇を重ねたまま囁きました。

「は、はい……」

 深呼吸する間もなく再び激しく舌がねじ込まれてきます。熱くぬめる舌はわたしの口内を実在に駆け回り、わたしの身体はむんむんと熱くなって震え始め、気づいたときには彼の肩にしがみついていました。

(ダメ! 抱きつくなんていけないわ! 突き飛ばしてやらないと!)

  唇どうしの口づけは特別なもの。こんな風に一方的に奪われていいはずがありません。なのにどうして少しも嫌ではないでしょう。彼の舌先が自身のと絡み合った途端にはねのけなければいけないのに、むしろ交わって!

 逃げようとしても、すぐに足首を絡め取られてしまいます。もう何も考えられなくなり、足腰がヘナヘナと砕かれてしまったようになって、思い通りになりません。

 そして攻防の末に彼の大きな手のひらが顎から離れて首筋を触ってわたしの胸の膨らみにたどり着いた時、わたしははっとしました。慌てて彼から手を押し返そうとしましたが、力はほとんど入りません。

(助けを求めなければ)

 そのまま乳房を指先でやさしく撫でられると、火照ったわたしの体は少しも言うことを聞いてくれません。その場に何度も崩れ落ちそうになって、その度に彼の手にすがってしまいます。そんなわたしをずっと上目遣いで見ていたアサルト様は、あろうことか足元を覆っていたドレスのスカートをめくり上げてしまったのです。

 ペチコートを下着として着ていた丈の長いスカートをまとめて持ち上げられたので、絹の靴下に包まれた細い足が陽光にさらされてしまいます。腰回りには靴下を止めるガーターベルトしか付けつけていません。女性として隠すべき秘密の花園はあらわにされてしまいました。

「やめて、お願いします。離してくださいませ……」

 恥ずかしさのあまり、必死に裾を下ろそうとしましたが、努力虚しく、アサルト様は股の間を見上げて小さな笑みをこぼしました。

「なるほど。意外にもあなたの割れ目は誰にも手を付けられていないようですね」

「ええっ! 見ないで、いやあっ!」 

 それでも、わたしの股の間に彼は頭を押し付けて、うずくまりました。

「だめ、触れないで、お願いよ……」

「触れない? こんなにあなたの体は敏感に反応して触れられたがっていますよ、ほらね」

 言いながら、指先はゆっくり股の間を円状になぞっていきます。その時、ピシャリという水音が響いたのです。

「これはすごい。口づけだけでこれほど感じている女性は見たことないですね。マリアン嬢の代理、いや、それ以上の素質がおありですよ。とても魅力的でみだらなお嬢さまです。ぼくが磨いて差し上げます」

「やめて、マリアン以上だなんて、まるで違うわ。経験不足だし……」

  わたしは泣き出しそうに顔をゆがめました。

「泣かないで、シャーロッテ。やさしく丁寧に美しい庭園を案内してくれたから、今度は経験豊富なわたしがあなたに秘密の森の神秘を教えてあげますね。きっと虜になりますよ」

「いや、そっちのご教授結構です……!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...