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 十月中頃の体育大会でもレンミちゃんのママは来ませんでした。次第に女の子たちの間から、ママが来ないのはおかしいねという声がおきはじめました。

 そんなある昼休みのことです。いつものように、レンミちゃんの机のまわりには友達がたくさんいました。

「レンミの誕生日が、金曜日なの。楽しみだなあ。ハッピーバースディの歌、ママすごく上手いんだよ」

とレンミちゃんが、両手をメガホン代わりにまるめて、歌うまねをしました。そして、また後ろのロッカーを見ました。何を見てるんだろう。なつえさんはちょっと眉をほそめながら口をひらきました。

「なら、レンミちゃんのおうちでお誕生日会をしようよ」
「ダメよ。だってママが」

 けれども、みんなは首を縦にふってくれません。レンミちゃんはすがるような瞳でなつえさんをのぞいたのですが、何もこたえませんでした。

 翌日、そして次の日も、レンミちゃんは学校に来ませんでした。レンミちゃんだけではありません。まるでレンミちゃんのママも、欠席しているみたいなのです。いつもレンミちゃんがママの話をするので、それは当然でした。なつえさんはお見舞いに行こうと、二人に声をかけました。

「もちろん。私たちだって行きたかった。レンミちゃんのママにも会いたいもの」と、のり子ちゃん。

「そうだわ。ママが大好きなユリの花束を持っていきましょうよ」と、まり子ちゃん。

 放課後、さっそく花たばをかかえてレンミちゃんの住むマンションに行きました。

 ドアが開いて、レンミちゃんがうつむいたまま玄関に立っていました。なつえさんが花たばを差しだすと、目じりにいっぱいの涙を浮かべました。それを指先ではらいながら、廊下を歩きはじめたので、靴をぬいでついていきました。すると、リビングのかたすみに仏壇がありました。レンミちゃんは、花びんに花をいけながら、ぽつりぽつりとつぶやきました。
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