それでも猫耳令嬢は生きていく。

(5)

「これでもう大丈夫……」

と、フィーネは小さくつぶやいた。

しかし、彼女の耳に聞き覚えのある音が聞こえてきた。

それは馬の蹄の音だった。

フィーネが振り返ると、フィリップ王子の従者たちが馬に乗って追いかけてきた。

「ここまでだ、フィーネ。お前のような獣人は、この世に存在してはならないんだ」

兵士の一人が冷酷に言い放った。

「私はいずれ獣になるわ。けれど人間として生きてきたの。私の命は、あなたがたが奪うものではないのよ！」

と、フィーネは力強く宣言した。

いっせいに弓を構えたその瞬間、フィーネを庇うように一人の青年が立ち塞がった。

「待て！　令嬢を殺すな！　彼女はまだ獣ではない。人間だ」

その声は力強く、そして優しさに満ちていた。

フィーネは驚きと戸惑いの中で、その青年を見つめた。

「あなたは…どなた？」

フィーネは震える声で訊いた。

青年は彼女に向かって一歩踏み出した。

「俺はグスタフ・アーガヘルドだ」

その存在感だけで周囲を圧倒するような威厳を持っていた。

グスタフの髪は深い黒色で、肩までの長さに整えられており、風に揺れるたびにその艶やかさが際立っていた。

彼の瞳は鋭い金色で、まるで獣のような鋭い視線だった。

彼の顔立ちは彫りが深く、頬にはわずかに無精ひげが生えており、その姿はまるで古の戦士のようだった。

彼の服装はシンプルでありながらも高貴さを感じさせるものだった。

黒い革のジャケットを身にまとい、その上には銀色の装飾が施されていた。

彼の腰には鋭い剣が吊るされていた。

「『獣人領』の領主で、狼の獣人だ」

グスタフの存在は、まるで彼女を守るために現れたかのようだった。

グスタフはフィーネの前に立ち、衛兵たちに向かって毅然とした態度で言った。

「彼女を傷つけることは許さない。彼女は人間として生きてきた。そして、獣になるまでは、人間として生きる権利がある」

衛兵たちは一瞬ためらったが、グスタフの強い意志に圧倒され、動きを止めた。

「ご令嬢、君はもう大丈夫だ。俺が君を守る」

グスタフは振り返り、フィーネに言った。

「私を殺さないのですか？」

フィーネは戸惑いながらグスタフを見上げた。

その目は怯え、そして同時に助けを求めていた。

「 君は人間だ。殺しはしない。ただ、獣人はこの世界にはいられない。獣人たちの住む『獣人領』に移るのだ」