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博物館は、歴代の国王たちの遠征で持ち帰ってきた戦利品が飾られている。
「アンナ・ストリング嬢ですか」
入口のクマに似た伝説の怪物、グーマの剥製を眺めていたアンナは、背中ごしに金髪のブルーアイの青年に声を掛けられる。
振り返ると、貴族離れした浅黒い野性的な日焼けした肌に、深海のような蒼い瞳がのぞく。
それでいて、大男ではなく小柄。シルク生地の紺色の背広の上下から、白シャツからたくましい胸板が見える。
さりげなく、片膝をつき、アンナの手の甲に挨拶の接吻を受けて、思わず、
この方、格好いい。
と、胸の中でつぶやいてしまった。
アンナがぼうっとして黙っていると、
「話はだいたい分かっています。ミーシャのことですよね」
と、グーマを見ながら、フレデリックはため息まじりに言う。
「分かっている。彼女はまったく悪くない。ちゃんと、慰謝料は支払うつもりだし……」
慰謝料!
アンナは、本来の目的を思い出し、フレデリックを見あげながら、
「そういう話をしにきたわけではないんですわ。ミーシャを振るのは、メリッサ・コーツ嬢のことですよね! あの娘と絶対に一緒になりたいからですよね?」
と、間髪入れずに切り崩しにかかる。
フレデリックが唖然とした顔でいると、アンナは万発言わせず、早口で、
「メリッサ様は、元々、アデリジャという未開の土地に住んでいる子だったのを、狩猟好きな男爵が養子にしたんですって。言葉だって訛りがひどいし、淑女たる礼儀だって、出来ていない。そんな娘と結婚するなんて、公爵家のお嫁にふさわしくありませんわね」
と、言い切って、満足げに頬笑んだ。
「あの、ストリング嬢?」
「アンナで結構ですわ」
「ではアンナ。あなたは何か勘違いをしているみたいなんだが」
フレデリックは少しだけ首を曲げながら、
「ぼくはメリッサ嬢と結婚する気はないんだ」
その言葉に、今度はアンナが唖然とする番だった。
フレデリックは困ったように頭をかきながら、目の前の剥製を指さした。
「コーツ男爵は猟をするのが趣味で、一ヶ月くらい前に、ぼくを連れていってくれたんだ。アデリジャの森で怪物を捕まえた時の興奮はすごくてね。それで、ぼくは本格的に怪物を倒す戦士として生き方を変えたいと思ったんだ」
アンナはポカンとして、熱に犯されてしゃべり続けるのを聞いていた。
「アンナ・ストリング嬢ですか」
入口のクマに似た伝説の怪物、グーマの剥製を眺めていたアンナは、背中ごしに金髪のブルーアイの青年に声を掛けられる。
振り返ると、貴族離れした浅黒い野性的な日焼けした肌に、深海のような蒼い瞳がのぞく。
それでいて、大男ではなく小柄。シルク生地の紺色の背広の上下から、白シャツからたくましい胸板が見える。
さりげなく、片膝をつき、アンナの手の甲に挨拶の接吻を受けて、思わず、
この方、格好いい。
と、胸の中でつぶやいてしまった。
アンナがぼうっとして黙っていると、
「話はだいたい分かっています。ミーシャのことですよね」
と、グーマを見ながら、フレデリックはため息まじりに言う。
「分かっている。彼女はまったく悪くない。ちゃんと、慰謝料は支払うつもりだし……」
慰謝料!
アンナは、本来の目的を思い出し、フレデリックを見あげながら、
「そういう話をしにきたわけではないんですわ。ミーシャを振るのは、メリッサ・コーツ嬢のことですよね! あの娘と絶対に一緒になりたいからですよね?」
と、間髪入れずに切り崩しにかかる。
フレデリックが唖然とした顔でいると、アンナは万発言わせず、早口で、
「メリッサ様は、元々、アデリジャという未開の土地に住んでいる子だったのを、狩猟好きな男爵が養子にしたんですって。言葉だって訛りがひどいし、淑女たる礼儀だって、出来ていない。そんな娘と結婚するなんて、公爵家のお嫁にふさわしくありませんわね」
と、言い切って、満足げに頬笑んだ。
「あの、ストリング嬢?」
「アンナで結構ですわ」
「ではアンナ。あなたは何か勘違いをしているみたいなんだが」
フレデリックは少しだけ首を曲げながら、
「ぼくはメリッサ嬢と結婚する気はないんだ」
その言葉に、今度はアンナが唖然とする番だった。
フレデリックは困ったように頭をかきながら、目の前の剥製を指さした。
「コーツ男爵は猟をするのが趣味で、一ヶ月くらい前に、ぼくを連れていってくれたんだ。アデリジャの森で怪物を捕まえた時の興奮はすごくてね。それで、ぼくは本格的に怪物を倒す戦士として生き方を変えたいと思ったんだ」
アンナはポカンとして、熱に犯されてしゃべり続けるのを聞いていた。
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