満ち欠けのユートピア

運命のはじまり

第6回

　バン！バン！バン！

　林先輩の胸に真っ赤な鮮血が噴出す。

　先生は、急に飛び出してきた警官に、戸惑う。

　香西の指先が、ひとりでに動いた。
「こんちくしょう！」

　バン！バン！

　銅像の辺りが、たちまち真っ赤に染まっていく。
　豚先生はうずくまった。



「先輩、先輩！」
　香西は、林先輩を抱きかかえた。

「ぼ、ぼくのせいで…」

「ば、ばくだん…」
　香西は、犯人の足元に転がっている小箱に気づいた。

　カチカチという秒針の音。
「あと、5分しかない…」
「な、ナイフ…」
「は、はい」
　香西は慌てて、それを握らせる。

「て、お、おれのてちょう…、し、しゃしん…」

　林先輩の胸元をまさぐると、銃弾で端が欠けた手帳が出てきた。

　開けると、写真が一枚はさまれている。
　あどけない幼児である。

「むすこを、た、のむ」

「はい」
　香西は、写真を手帳に挟むと胸ポケットに入れた。

「に、にげろ」
「えっ」
「そ、そまつにするな、いのち」

　香西は、走り出した。
　とめどなく涙があふれ出る。

　林先輩は、小箱を抱きかかえると、震える刃を赤いコードにあてがって切り裂いた。

　秒針は止まった。