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 翌日、エリーナはヴィクトールを誘って、一緒に馬車に乗りましたが、言葉は弾みませんでした。

 馬車は王都の近くにある教会に到着しました。

 エリーナはヴィクトールの先を歩いて、教会の中に入りました。教会の壁には、クララが描いた美しい壁画が飾られていました。

 クララの髪は、金色に輝く長い巻き髪で、目は青色に澄んだ大きな瞳をしています。彼女は、髪にリボンや花やピンなどのアクセサリーをつけて、華やかに飾っていました。

 壁画は天使や聖人などを描いたもので、色彩豊かで鮮やかでした。壁画の前には、クララが絵筆を持って立っていました。帽子やエプロンや手袋などを作業服に、エプロンをつけています。

 彼女は自分の作品に満足そうな笑顔を浮かべていました。

「おや、エリーナ。あなたも来たのね。あら、ヴィクトール様!」

 クララはエリーナとヴィクトールに気づいて、歓迎の言葉を述べました。彼女はヴィクトールに優雅にお辞儀をしました。

「あらためて、クララと申します。この壁画は私が描いたものです。どうぞご覧ください」

 クララは自慢げに言いました。彼女はヴィクトールの反応を期待していました。

 ヴィクトールは壁画を見て、感嘆の声を上げました。

「これは素晴らしいですね」

 ヴィクトールはクララに、褒め言葉を贈りました。

「ありがとうございます。私は絵画の才能があるから、教会や美術館や貴族の家に自分の作品を飾ってもらってるの」

「クララさん。エリーナさんも水彩画を描かれているんですが、とても素敵でしたよ」

「あら、エリーナ。あなたも絵を描くのね。知らなかったわ」と彼女は言いました。

「は、はい……」

 エリーナはうつむきながら、返事をしました。

「でも、きっとあなたの絵は私の絵と比べ物にならないわよ。あなた、プロじゃないでしょう。それなら、ちゃんと絵画の勉強をした方がいいわ」と彼女は言いました。

「そうです…。わたしは素人ですもの」とエリーナは言いました。

「それにね、私はヴィクトール様とお付き合いしたいし、きっとヴィクトール様も才能ある私とお付き合いしたいと思っているわよ」と彼女は言いました。

 彼女はヴィクトールに近づいて、エリーナに聞こえるようにささやきました。

「実は、これから二人きりでお時間ございますか? お父様も応援してくださっていますのよ」

 彼女は自信満々でした。

 ヴィクトールは困った表情をしました。

「それは……嬉しいお言葉ですが……」

 ヴィクトールは言葉に詰まりました。彼はエリーナの方を見ました。

 エリーナはヴィクトールとクララのやりとりを見て、

「すみません、私はもう行きます」

 そう言って、教会から出ると、走って馬車に向かいました。
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