【完結】６人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

(2)

　男の子は金髪に青い目をして、身長が高く、細身で端正な顔つきをしています。どこかの貴族の出であることは明らかでした。

　エリーナは好奇心に駆られて、彼に近づきました。

「大丈夫？」

　エリーナは優しく声をかけました。

　少年は驚いて顔を上げました。目は赤く腫れていました。エリーナを見て、すぐに視線を逸らしました。

「何もないよ。僕はただ……」

　エリーナは少年の足元に目をやりました。彼のズボンが破れて、血がにじんでいました。どこかで転んだのかしら…

「足、怪我してるよ」

　少年はうつむいて黙っていました。

「ちょっと待っててね」

　エリーナは自分の肩に下げた小さなバッグからハンカチを取り出しました。それを水で濡らして、青年の傷口に当てました。

「痛っ！」

　男の子は声を上げました。

「何するんだよ！」

「お手当てしてるのよ」

　エリーナはおだやかに言いました。

「ふん。僕は誰の助けも要らないんだ」

　少年は言い放ちました。

　黒いウールの上着で、ボタンがいくつか取れています。彼のズボンは紺色のコットンで、膝やふくらはぎに穴が開いていました。

「何されたの？」

「歩いてたら、悪い大人に蹴られて、財布を取られただけだ」

「……ひどいわ。ここでひとりぼっちって。家出とか？」

　少年は黙り込みました。

「どうして家出を？」

　エリーナは優しく聞きました。

「…それが何だというんだ」

　少年は不機嫌そうに言いました。

「だって、わたしも家出してみたいし。だって、おうちにいても楽しくないし！」

　いつも一番下に扱われて馬鹿にされるのが嫌なことを言いました。今日も上の姉のダンス教室の付き添いでつれだされただけだと言いました。

「ぼくは辺境伯の3男なんだ。跡継ぎじゃないから親戚の公爵家に養子に出されたけど、味方はいないし、田舎者だってバカにされて、どうしても溶け込めなくて」

　父親は辺境伯で、領地は王都から遠く離れた山岳地帯にあるそうです。

「大丈夫よ。わたしもいっしょだよ。負けちゃダメよ」

　エリーナは笑顔で言いました。

「わたし、エリーナ。ラインヘルド伯爵の6番目の娘です」

　エリーナは自己紹介して、少年の手を握りました。

「僕は…僕は…」

　少年は言葉に詰まりました。

　すると、母親から馬車へ戻るように、と護衛が声をかけてきました。

「もう行かなくちゃ…」

　エリーナは残念そうに言いました。

「お母さまが呼んでる」

「エリーナ……」

　少年は名残惜しそうに言いました。

「さよなら。気を付けておうちに戻るのよ。がんばろうね！」

　エリーナは微笑みながら、手を振りました。

　少年もエリーナに手を振り返しました。エリーナは馬車に乗り込むと、急いで立ち去りました。

　少年はエリーナが馬車で去った後も、ずっと彼女の後ろ姿を見つめていました。