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そう答えると、薄茶色のロングヘアを引きずり下ろした。

カツラが床に落ちた。

会場はどよめいた。彼女は丸刈りの状態だった。

「殿下は、わたくしをお許しくださりませんか?」

クレアの声は震えていた。

その目にはうっすらと涙すら浮かんでいるように見える。

そんな彼女を見て、胸が痛くなった。

わたしは彼女の気持ちを知っているからだ。

だからこそ、これ以上彼女を傷つけないようにしてあげたかったのだが──

「私はクラリスと婚約したいのだが」

アルフォード王太子殿下はそう言ってわたしの肩を抱いた。

その瞬間、会場中から悲鳴が上がるのが分かった。

(えええ……?)

わたしは心の中で困惑した声を上げていた。

突然そんなことを言われても困る。

そもそも、わたしは殿下のことを好きでも嫌いでもない。

むしろお兄様にゾッコンなのだから──

「そんな……殿下……わたくし、困ります」

わたしが涙声で訴えるも、アルフォード王太子殿下はそれを遮るように言葉を続けた。

「私はクラリスが妻として相応しいと思う。わたしたちは真実の愛で結ばれているのだから」

自信満々な様子で彼は言う。

会場はますますヒートアップしていくのが分かる。

(これってまずいんじゃないかしら……?)

わたしは冷や汗を流した。

「殿下、失礼します」

勇気を出して、私は殿下の手を解き、クレアのもとに駆け寄った。

「クレア様……わたくし、クレア様がわたくしにしたことはすべて許しておりますわ。それから、クレア様が殿下に対する深い愛情にも感銘を受けております」

そう言うと、クレアの手を握った。

「ですから、もう気に病む必要はないんです」

精一杯の笑顔で彼女を励ます。

クレアは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに笑顔に変わった。

「ありがとうクラリス様……こんなわたくしを許してくださいまして」

そう言ってわたしの手を取り、握手をする。

その様子を見ていた他の貴族たちも拍手を始めるのだった。

(これで良かったのかな……?)

わたしは少し不安になったが、とりあえずは丸く収まったようだと思い直した。

それから殿下に向き直り、

「殿下がわたくしにご寵愛いただけるのは光栄です。けれど、わたくし、殿下のことをお慕いはしておりますが、愛情とは違います。ですから、わたくし、殿下との婚約は辞退させていただきたいのです……」
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