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アルフォード王太子殿下はそれだけ言うとクレアを置き去りにして、わたしの手を取った。
(なんだか怖いな……)
わたしは不安になったが、そんな気持ちとは裏腹に夜会は順調に進んでいった。
アルフォード王太子殿下とわたしのダンスが終わると、今度はクレアがダンスの相手を申し出た。
彼女は舞台に上がる。
するとすぐに楽団の演奏が始まり、それに合わせて踊り始めた。
その姿は美しく、まるで天使のような愛らしさがあった。
(すごい……)
わたしは思わず見とれてしまった。
それほどまでに彼女のダンスは見事なものだった。
わたしも頑張って練習をしたつもりだったが、彼女の足元にも及ばないだろうと感じたほどだ。
そして、演奏が終わると同時にダンスが終わった。
その瞬間、周囲から大きな拍手が巻き起こった。
クレアは少し照れくさそうな表情を浮かべていたが、すぐに完璧な微笑みを作った。
その笑顔はまるで女神のような慈愛に満ちたものであった。
拍手が鳴りやむと、アルフォード王太子殿下は会場全体を見渡しながら、
「実は大切な報告がある。わたしとクレア・ラックスフォード公爵令嬢との婚約の話だが、解消としたい」
会場は一気にざわめき始める。
しかし、それも無理はないだろう。
王太子殿下の婚約が突然解消となれば誰だって驚くはずだ。
ましてやそれが王侯貴族の社交界であるのだからなおさらである。
「私はこのクラリス・レインベルを新しい婚約者に迎えることにした。クラリス、おいで」
突然名前を呼ばれて、わたしはすぐに動揺を隠して前に出ると、ドレスの裾を摘んでお辞儀をする。
そして上目遣いで殿下を見つめた。
「はい……クラリス・レインベルにございます」
声が震えそうになるのを必死に堪えながらそう言った。
「殿下、お待ちください」
クレアが片膝をついて、首を垂れて発言の許可を求める。
「不服か?」
殿下が冷たい口調で問いかけると、クレアはゆっくりと顔を上げる。
そして、その美しい顔からは慈愛に満ちたまなざしで殿下を見つめる。
「わたくしが、クラリス様にあんな無礼を働き、退学処分となったことは当然です。このようなご判断をされたのは国王陛下のご意向なのでしょうか?」
「それがどうした」
殿下はきっぱりと答えた。
クレアは諦めずに食い下がる。
「わたくしはずっと殿下ばかりを見ておりました。自惚れておりました。そのため、あんなことになりました……猛省して、わたくし、髪を切りました」
(なんだか怖いな……)
わたしは不安になったが、そんな気持ちとは裏腹に夜会は順調に進んでいった。
アルフォード王太子殿下とわたしのダンスが終わると、今度はクレアがダンスの相手を申し出た。
彼女は舞台に上がる。
するとすぐに楽団の演奏が始まり、それに合わせて踊り始めた。
その姿は美しく、まるで天使のような愛らしさがあった。
(すごい……)
わたしは思わず見とれてしまった。
それほどまでに彼女のダンスは見事なものだった。
わたしも頑張って練習をしたつもりだったが、彼女の足元にも及ばないだろうと感じたほどだ。
そして、演奏が終わると同時にダンスが終わった。
その瞬間、周囲から大きな拍手が巻き起こった。
クレアは少し照れくさそうな表情を浮かべていたが、すぐに完璧な微笑みを作った。
その笑顔はまるで女神のような慈愛に満ちたものであった。
拍手が鳴りやむと、アルフォード王太子殿下は会場全体を見渡しながら、
「実は大切な報告がある。わたしとクレア・ラックスフォード公爵令嬢との婚約の話だが、解消としたい」
会場は一気にざわめき始める。
しかし、それも無理はないだろう。
王太子殿下の婚約が突然解消となれば誰だって驚くはずだ。
ましてやそれが王侯貴族の社交界であるのだからなおさらである。
「私はこのクラリス・レインベルを新しい婚約者に迎えることにした。クラリス、おいで」
突然名前を呼ばれて、わたしはすぐに動揺を隠して前に出ると、ドレスの裾を摘んでお辞儀をする。
そして上目遣いで殿下を見つめた。
「はい……クラリス・レインベルにございます」
声が震えそうになるのを必死に堪えながらそう言った。
「殿下、お待ちください」
クレアが片膝をついて、首を垂れて発言の許可を求める。
「不服か?」
殿下が冷たい口調で問いかけると、クレアはゆっくりと顔を上げる。
そして、その美しい顔からは慈愛に満ちたまなざしで殿下を見つめる。
「わたくしが、クラリス様にあんな無礼を働き、退学処分となったことは当然です。このようなご判断をされたのは国王陛下のご意向なのでしょうか?」
「それがどうした」
殿下はきっぱりと答えた。
クレアは諦めずに食い下がる。
「わたくしはずっと殿下ばかりを見ておりました。自惚れておりました。そのため、あんなことになりました……猛省して、わたくし、髪を切りました」
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