【完結】殿下と結ばれるためにがんばっているのに、なぜか義兄にも好意を抱かれて、とまどっています。

(20)

わたしがそう思った瞬間だった。

クレアは呪文を唱え、ルドルフに向かって杖を向けて真っ赤な炎を吐いた。

しかし、ルドルフは落ち着いて呪文を唱えると、風の魔法を発動させて炎を跳ね返した。

炎はクレアと取り巻きたちに向かって飛んでいく。

「きゃああ！！」

悲鳴を上げるクレアたちに容赦なく炎が襲い掛かった。

わたしは思わず目をつぶったが、熱さや痛みはまったく感じなかった。

不思議に思って目を開けると、お兄様の魔法で、クレアや取り巻きたちから炎が遮られていた。

わたしはほっとして胸を撫で下ろすと、お兄様の顔を見た。

彼は険しい表情をしていた。

「逃げるぞ！」

お兄様はそう言って私の手を摑むと、走り始めた。

わたしも必死に足を動かすが、ドレスを着ているため上手く走れない。

「きゃっ！」

躓いてしまい転びそうになるわたしを、お兄様は抱き止めてくれた。

そのまま彼はわたしを抱き上げると走り出した。

「しっかり捕まってろよ」

そう言って微笑むと、彼は勢いよく地面を蹴ってスピードを上げた。

あっという間に山小屋を抜け森の中へと入っていく。

森には月の光がほとんど入ってこないので真っ暗だったが、わたしの目にははっきりと見えているようだった。

（これも魔法なのかしら？）

わたしはお兄様の横顔を見つめた。

端正な顔立ちで、凛々しい表情をしている。

「お兄様……助けてくださってありがとうございました」

わたしがお礼を言うと、彼は優しく微笑んでくれた。

それだけで心が温かくなっていくのを感じた。

「気にしないでくれ、当然のことをしたまでだ」

お兄様はそう言うと再び走り出した。

しばらくすると森を抜けることができた。

わたしは月明かりに照らされた美しい景色に息を飲んだ。

遠くには王都の明かりが見えるが、それもまた幻想的な雰囲気を作り出していた。

（なんて美しいんだろう……）

逃げてきた方向に火の手が上がっていた。

赤々と火柱が山小屋全体を包んでいる。

「あれは……」

「大丈夫、彼女たちも小屋から出たはずだ」

お兄様はそう言って微笑むと、わたしを抱え直して速度を上げた。

しばらく走ると小さな湖に出た。

月の光が水面に反射してキラキラと輝いているように見える。

湖畔には小さな小屋があった。

「あそこで休もう」

お兄様はそう言うと、小屋の扉を開けた。

ランプに灯りを灯して、椅子に腰かける。

そこには粗末なテーブルと木製のベッドが置いてある。

「あの……ここは？」