【完結】女神さまの妹に生まれたので、誰にも愛されないと思ったら、ついでに愛してくれる伯爵に溺愛されていて、なんだか複雑です

(5)

マルクルはそう言ってニッコリと微笑むと、優しくフェリネットを抱き締めてきた。

（い、いや……！！！）

マルクルの優しい抱擁に何故か嫌悪感を抱いてしまい、思わず突き飛ばしてしまった。

「フェリネットーーーッ！？」

「……わたくしはあなたみたいな女ったらし大嫌い！！近寄らないで！」

「なぜだ……？」

「……もう顔も見たくないわ！！早く出て行って！！」

「そんな……待ってくれ！僕は君も愛しているんだ……！！」

必死に叫ぶマルクルを無理やり追い出して、フェリネットは自室に閉じこもった。

（ああ……どうしてわたくしったらあんな男を好きになったのかしら！）

　涙が零れそうになるが、必死に堪えた。

　今は泣いている場合ではない。

　一刻も早く婚約解消の為の手続きをしなくてはならないと思ったのだが……。

　もうすでに、マルクルは教会に結婚の手続きをしており、解消はできないと伝えられてしまった。

「どうして……どうしてこんな事に」

　フェリネットはマルクルの事が好きだったのに、それは一方的な恋だったのだろうか。

　それなのに、マルクルは普段と変わらずに子爵家に来て、フェリネットに会いたいと通い続けてくる。



　それから半年後。

　フェリネットの両親が不慮の事故で亡くなってしまい、彼女が子爵家を継ぐ事になったのだ。

「そんな……わたくしが継ぐ事になるなんて……」

　まだ15歳のフェリネットはいきなり子爵家の当主となった。

　どうして自分なのかと戸惑いを隠せない。

　そんな時に追い打ちをかけるように、マルクルは毎日のように屋敷に訪れては……色々と口出しを始めた。

「ああ、こんな大きな屋敷の管理を、君に任せておけない！ぼくらはちゃんと夫婦になって、ともに寄り添っていかなければならないんだよ！アネリス様だって心配しているだろうし……ぼくと二人で素晴らしい家庭を作っていこうじゃないか」

　マルクルのその言葉にフェリネットはぞっとした。

「わたくしはあなたなんか大嫌いよ！どうしてわたくしに付き纏うの！！」

　もう耐えられなかった。

　一刻も早くこの男から離れたかった。

　もちろん、姉にも、その夫である王太子殿下に頼ることは簡単かもしれないが、すでに婚約者がいるのに甘えないのも常識的におかしい。

　フェリネットはマルクルとの婚約を解消したくても、世間体でそれすら許されない状況に陥っていた。