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 フェリネット・カイネは、カイネ子爵家の次女である。

 フェリネットは姉のアネリスに対して強い劣等感と嫉妬心を持っていたし、カイネ子爵家に生まれた事をいつも最悪だと思っていた。

 何故ならばフェリネットの人生は、常に美しい姉の“アネリス"に邪魔をされていると感じていたから。



 フェリネットから見て、美し過ぎる姉はどこへ行っても特別な女神様だった。

 ニコニコと笑うだけで歓声が起きるような美貌を持ったアネリスは、幼い頃は姉を心から尊敬して憧れていた事もあった。

 美しいものに喩えられて、皆から愛される姉の姿を見ながら育ったフェリネットは自分もこうなりたいと強く思っていたし、自分もそうなれると信じていた。

『お姉様が世界で一番大好きよ』

『お姉様はわたくしの自慢です』

 そんな言葉をフェリネットは毎日毎日、言っていた。

 小さい頃はいつも仲が良くて、ずっと姉の後ろにくっついて回っていたフェリネットを、アネリスもそれはそれは可愛がってくれていた。

「フェリネット、ありがとう」

「可愛いお姉様が大好き……! 女神様みたい!」

「わたくしも、貴女が大好きよ」

「私もお姉様みたいになれるかな?」

「……フェリネットには幸せになって欲しいわ」

「私……?お姉様は幸せにならないの?」

「わたくしは…………フェリネットが幸せならいいのよ」

 まだ何も知らなくて、何も考えなくて済んだあの頃は、全てが輝いて見えていた。



 けれど現実はそう甘くはなかった。

 成長して物事が分かるようになるにつれて次第にフェリネットの心に影が差すようになる。

 ある時は気になっていた令息がアネリスに会った途端、彼女に惚れ込んでしまう。

 またある時は良い雰囲気になった令息に、アネリスが挨拶しただけで、一瞬で心変わりしてしまう。

「いいな」と思っていた令息達は、ことごとくアネリスの魅力に落ちていく。

(……お姉様は女神だもの。仕方ないわ)

 美しい金色の髪に、透き通るような白い肌。そして何より美しいのは、あの瞳はアメジストのような輝きを放っている事。

 見る者を魅了するフェリネットの姉アネリスは、『王国の女神様』と周囲から密かに呼ばれていた。

 美しく聡明で完璧な姉の事を羨ましく思う反面、周りからちやほやされているアネリスを見る度にフェリネットは胸の奥がムカムカして仕方がなかった。

(……私の欲しいもの全部持っているくせに!)
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