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18 それぞれの旅路
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ふたりの勇者、オクセンとベリーは、牛の粗末な納屋で目覚めた。
火傷で負傷した箇所には包帯が巻かれている。
藁の日差しを浴びた爽やかな太陽と、家畜の体臭が混ざった大地の混ざったような臭いがただよう。
ランタンの灯りから、牛飼いの男の顔が浮かんで見える。
何とか村里まで逃げ帰り、牛飼いに保護されたのだ。
二週間経ち、傷が癒えた頃、
「俺はここを離れる」
と、ベリーは荷物を抱えて去っていった。
オクセンは、アングリーズがいない中での戦いが無謀であるという、彼の気持ちも分かっていたから、あえて、引き留めなかった。
「君も出て行くのか?」
牛飼いが尋ねると、
「故郷に帰ろうと思っている。妻のアンナにも会いたい。あなたはどうする?」
オクセンの問いかけに、牛飼いは少し考えてから、こたえた。
「まだ、黒竜を仕留める。そのために牛飼いをやりながら、数年、無駄にしたんだ。そのために自分は死んだと、一人娘に伝えてある。形見の楽器を友に送ってもらったんだ。そうでもしないと、あの娘は私を助けに来るだろうから」
「お嬢さんの名前は何ていう?」
「フローラルだ。わたしの自慢の娘だ。あの子は癒やし系の冒険者として立派にやっている」
オクセンは、言葉を失った。
そして、おもむろに、上着のポケットから匂い袋を取り出す。
牛飼いは、その袋を手にして、これが娘が作っていたものだと、瞬時に理解した。
「パシスさん。すみません。フローラルは、私たちのパーティーに所属していたんです」
オクセンは、ザンビエータの森での魔獣討伐の後にクビにしたこと、シラスク公爵領の宿に置き去りにしたことも、正直に話した。
頭を下げたままでいる青年の肩に、牛飼いは手をのせて首を振る。
「わたしも、あの子には酷いことをした。黒竜を仕留めたいがために、死んだと思わせて、悲しませたよ」
オクセンは顔を上げた。
「フローラルがまだ宿にとどまっているか、分からない。でも謝りに行こうと、思います。それを終えて、故郷へ帰ります」
「それなら、私も同行するよ。娘が一人でどうしているか、知りたいんだ」
翌朝、二人はシラスク公爵領への定期馬車に乗った。
牛たちの世話は、親しい村人に依頼してある。
牛飼いは、流れていく車窓からの景色を眺めながら、数年ぶりに再会する娘に思いをはせていた。
火傷で負傷した箇所には包帯が巻かれている。
藁の日差しを浴びた爽やかな太陽と、家畜の体臭が混ざった大地の混ざったような臭いがただよう。
ランタンの灯りから、牛飼いの男の顔が浮かんで見える。
何とか村里まで逃げ帰り、牛飼いに保護されたのだ。
二週間経ち、傷が癒えた頃、
「俺はここを離れる」
と、ベリーは荷物を抱えて去っていった。
オクセンは、アングリーズがいない中での戦いが無謀であるという、彼の気持ちも分かっていたから、あえて、引き留めなかった。
「君も出て行くのか?」
牛飼いが尋ねると、
「故郷に帰ろうと思っている。妻のアンナにも会いたい。あなたはどうする?」
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「まだ、黒竜を仕留める。そのために牛飼いをやりながら、数年、無駄にしたんだ。そのために自分は死んだと、一人娘に伝えてある。形見の楽器を友に送ってもらったんだ。そうでもしないと、あの娘は私を助けに来るだろうから」
「お嬢さんの名前は何ていう?」
「フローラルだ。わたしの自慢の娘だ。あの子は癒やし系の冒険者として立派にやっている」
オクセンは、言葉を失った。
そして、おもむろに、上着のポケットから匂い袋を取り出す。
牛飼いは、その袋を手にして、これが娘が作っていたものだと、瞬時に理解した。
「パシスさん。すみません。フローラルは、私たちのパーティーに所属していたんです」
オクセンは、ザンビエータの森での魔獣討伐の後にクビにしたこと、シラスク公爵領の宿に置き去りにしたことも、正直に話した。
頭を下げたままでいる青年の肩に、牛飼いは手をのせて首を振る。
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「それなら、私も同行するよ。娘が一人でどうしているか、知りたいんだ」
翌朝、二人はシラスク公爵領への定期馬車に乗った。
牛たちの世話は、親しい村人に依頼してある。
牛飼いは、流れていく車窓からの景色を眺めながら、数年ぶりに再会する娘に思いをはせていた。
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