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赤い記憶が戻る時
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朝日が水面を銀色に染めている。光子が目を覚ますと、類子が手を握って座っていた。
「もう、ミッチーの前で帽子はいらないよね」
光子は、そっと類子の額に手をやって微笑んだ。
「うん。もう大丈夫よ」
「正直に言うね。金子は、研究所から逃がしてくれた看護婦の名前なの」
類子は、ほっとしたように、とても穏やかな面をしている。
ずっと秘密を抱えていたのだろう。
友達でさえも。
それが、どれほど苦しかっただろう。
類子は話を始めた。
「金子さんは、私にとって母親みたいな存在なの。ずっと、私の能力を悪用しようとする、悪い人たちから守ってくれた。そしていずれ私が一人で生きていけるようにって、新しい名前をくれたの。それが類子という名前よ。母がくれた、命がけの名前」
「命がけ…」
「あの火災があった時、占いの店にはたくさんの客がいたわ。それは、金子さんがわざと集めたからよ。すでに、あの店が、私の居所を嗅ぎ付けた悪い奴らによって放火されることは知っていたの。それを利用して、私を死んだことにして悪い奴らから逃がしてくれた。そのせいで…」類子の瞳が涙でにじむ。
「塩崎守さんを含めて6人が命を落とした。その中に金子さんもいたの」
「そうだったのね」
「客の1人を私に仕立てるために犠牲になった。全部私のせいで…」
思わず光子は抱きしめた。
類子の震えが収まってから、光子は尋ねた。
「守さんのことを知っている?」
「ええ。彼はいつも弁護士のお父さんを思い出そうとしていた。どういう経緯で自動車事故にあったのか。そのことばかりよ」
「でも、それは望月登さんのことじゃないかしら…」
頭が混乱してくる。
塩崎守が、どうやって望月登の記憶を思い出せるというのだろう。
守が、他人の記憶を思い出せるはずはない。
守は運転手の息子なのだから。
守は、本当に火事で亡くなったのだろうか?
今の登は、一体誰…?
眉間に皺をよせている光子に、類子は言った。
「きっと、身分を隠して来ていたのね」
「身分を隠す?」
「お客は、会員証が必要だったの。その時に、望月さんはきっと自分のものではなく、塩崎さんのものを提示していたのよ。写真を入れ替えて」
「どうしてそんなことを?」
「おそらくだけど…」
類子は鼻の下をこすった。
「お父さんの事件を調べていることを隠したかったんだと思う。きっと知られたら危険があると思っていたのでしょうね」
「そして、あの火災で望月登が亡くなった。けれど、身分証は塩崎守だった。それで、警察は取り違えて公表したんだわ…」
まさか…。
「もう、ミッチーの前で帽子はいらないよね」
光子は、そっと類子の額に手をやって微笑んだ。
「うん。もう大丈夫よ」
「正直に言うね。金子は、研究所から逃がしてくれた看護婦の名前なの」
類子は、ほっとしたように、とても穏やかな面をしている。
ずっと秘密を抱えていたのだろう。
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それが、どれほど苦しかっただろう。
類子は話を始めた。
「金子さんは、私にとって母親みたいな存在なの。ずっと、私の能力を悪用しようとする、悪い人たちから守ってくれた。そしていずれ私が一人で生きていけるようにって、新しい名前をくれたの。それが類子という名前よ。母がくれた、命がけの名前」
「命がけ…」
「あの火災があった時、占いの店にはたくさんの客がいたわ。それは、金子さんがわざと集めたからよ。すでに、あの店が、私の居所を嗅ぎ付けた悪い奴らによって放火されることは知っていたの。それを利用して、私を死んだことにして悪い奴らから逃がしてくれた。そのせいで…」類子の瞳が涙でにじむ。
「塩崎守さんを含めて6人が命を落とした。その中に金子さんもいたの」
「そうだったのね」
「客の1人を私に仕立てるために犠牲になった。全部私のせいで…」
思わず光子は抱きしめた。
類子の震えが収まってから、光子は尋ねた。
「守さんのことを知っている?」
「ええ。彼はいつも弁護士のお父さんを思い出そうとしていた。どういう経緯で自動車事故にあったのか。そのことばかりよ」
「でも、それは望月登さんのことじゃないかしら…」
頭が混乱してくる。
塩崎守が、どうやって望月登の記憶を思い出せるというのだろう。
守が、他人の記憶を思い出せるはずはない。
守は運転手の息子なのだから。
守は、本当に火事で亡くなったのだろうか?
今の登は、一体誰…?
眉間に皺をよせている光子に、類子は言った。
「きっと、身分を隠して来ていたのね」
「身分を隠す?」
「お客は、会員証が必要だったの。その時に、望月さんはきっと自分のものではなく、塩崎さんのものを提示していたのよ。写真を入れ替えて」
「どうしてそんなことを?」
「おそらくだけど…」
類子は鼻の下をこすった。
「お父さんの事件を調べていることを隠したかったんだと思う。きっと知られたら危険があると思っていたのでしょうね」
「そして、あの火災で望月登が亡くなった。けれど、身分証は塩崎守だった。それで、警察は取り違えて公表したんだわ…」
まさか…。
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